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第1話

気付いたら、そこにいた。

目の前に、男の人のものすごく驚いた顔。

あぁ、と他人事のように思った。

あたし、テレポーテーションしちゃったんだ、と。


とりあえず笑いかけてみる。

……怯えた顔された。

失礼じゃない、ちょっと。

「初めまして」

仕方なく声を発すると、男の人は一歩後ずさりした。

「あ、あ、あんた、いま……ここに、どうやって」

「どうやって、って言われてもねぇ。飛んできたんじゃないかな」

「いっ、いま、突然現れたぞ。い、いなかったのにっ」

「あー、そうみたいだね。ってか落ち着こーよ」

「これが落ち着いていられるかっ」

この台詞が一番落ち着いて聞こえた。

埒が明かないので、立ち上がってまわりを見渡す。

そこで初めて、ヤバイかもって思い始めた。

あたしに向けられる、数台のカメラ。

黒っぽい服を着た大人たち。

ぽかーんという音が聞こえてきそうなくらい、口がキレイなOの字になってる。

そこだけ切り取られたかのように華やかな一角でも、状況は同じ。

ただし、そこには見たことのあるタレントばかり。

この様子から察するに、今は番組の収録中で、まさしくあたしはカメラの前に突然現れた女の子ってわけだ。

プロデューサーらしき人が巨体を揺らしながら走ってくる。

「CMだっ! CM行けっ!」

「あ、はいっ」

途端に慌ただしくなった現場から逃げようとして、

「ちょっとキミ。お話聞かせてもらうよ?」

……捕まっちゃいました。


「どういうつもりなの? ふざけてるの?」

プロデューサーさんの顔、マジメに怒ってる。

うわーやべぇ。あたし、こういうのほんっと苦手で。

もう泣きそう。

なフリして、逃げようかなっていう作戦なのです。

だって、怒られに来たわけじゃないし。

何しに来たか分かんないけど。

「私にもよく分かんなくて……」

消え入りそうな声を出してみる。

こう見えてもあたし、演劇部所属ですから。

「気付いたらあんなところにいて、ほんとびっくりして……」

俯いた顔を更に俯かせて、語尾を揺らした。

案の定、

「あ、別に泣かなくていいんだからね? 責めてるわけじゃないから、ね、泣かないで」

男ってのは泣いてる女に常に弱いものだ。

言ってること、べつに嘘じゃない。

気付いたらそこにいたし、実際かなりびっくりしてる。

知らない女にもらった指輪をはめてみただけなのに。

何で、願いが叶っちゃったんだろ。

もしかして、あの女が言ってたこと、本当だったのかな。

『この指輪さえはめていれば、どんな願いも叶う。ただし、本当に手に入れたいものを手に入れたらその効果は消える』

たしか、こんなこと言ってた。

だから試してみたんだ。

テレビの撮影現場を見てみたい、って。

そしたらほんとに来ちゃったし。

どうなってるんだろーね。

「分かった、今日のところは見逃す。だけど今度はダメだよ、いい?」

「あ、はい、でももうちょっと見学してもいいですか」

「……しょうがないな。ちょっとだけだよ?」

やったぁ。

ほんとに願いが叶っていく。

Dreams come true、夢は叶えるためにある!


浮かれていたあたしに見えていないものがひとつ、あった。

ドアの隙間からあたしを見つめる、黒い影。

「ふふ、実験は順調のようだな……」

ニヤリとダークな笑みを浮かべていた黒い影は、そそくさと姿を消した。

そう、文字通り、姿を消したのだった―――。

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