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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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7


夜盗の告白によって、この体の元の持ち主の悲惨な過去が明らかになった。

輝夜は芸能界を夢見ていた。親の反対を押し切って、東京でデビューすると言って高校を辞め家を出て行ったらしい。

しかし、彼女は東京で頑張ってもうまくいかなかった。アルバイトしても未成年だから、大して稼ぐことができず、生活に行き詰まった。


実家に帰ることもできず、仕方なく夜の世界に身を沈めるつもりでドアを叩いたのが、流氷会という反社会勢力の事務所だった。

輝夜は、男を知らないまっさらな女の子だった。彼らは輝夜の可愛らしい顔を見てこれは金のなる木だと思ったという。輝夜をうまい具合に唆し、彼女は金持ち相手の闇のオークションで売られることになる。人身売買だ。輝夜に一年契約で二千万の値が付いた。


けれど、怖気づいた輝夜は逃げ出した。お金を貰ったわけではないから、逃げ出しても大丈夫だと思ったらしい。

そして、東京からヒッチハイクで地元までなんとか帰り着く。

しかし彼らは輝夜を許してはくれなかった。居場所が見つかり、最悪の状態で彼女は殺されたのだった。

聞けば聞くほど、この体の元の持ち主は、たいそうバカだったんだと思ってしまう。

死んだ人を悪くいうのは、いけない事だとわかってはいるけど、浅はかだ。子どもだったと言ってしまえばそれまでだけど、自業自得の感は否めない。私は体の持ち主が、そういった理由で命を落としたと知り、ショックを受けた。


「こいつがバカなのは今に始まったことじゃないのは分かる」


実門がなぜか納得している。


「え……そこ?」

「けれど、殺していい理由にはならないし、君らは凶悪犯罪者だ。警察に自首することはもちろんだけど、ちゃんと東京の人身売買をしているようなオークション組織ごとぶっ潰さなければ意味がない」


「はい。俺らもそれは分かっています。知っていることは全て警察で話します。もちろん今まで犯した罪も全部告白します。貴方たちには今後一切ご迷惑をおかけしません」



せめてもの償いにと、彼らはこの家の外壁を修繕してくれた。彼らの表向きの職業は左官屋だそうだ。

草もきれいに刈ってくれて、ペンキも剥げているところを塗りなおしてくれた。「娑婆でできる最後の仕事です」と嬉しそうに家をきれいにする姿は、善人のそれだった。


「出頭する前に一つだけ聞きたいことがある。輝夜の母親は殺してないよな?」

「母親ですか?……見た覚えはありません。輝夜さんを拉致した時、家には誰もいませんでした。お嬢さんを手にかけて船に乗せた時も、十分辺りを警戒して怪しい船がいないか確認していたので間違いありません」


「お前たちを追いかけて、輝夜を助けようとしていた可能性はないのかな」

「え!そうだったの?」


確かに、母がいなくなった時期を考えたらその可能性があるのかもしれない。


「いいえ、誰にも追われていなかったです。その後誰からも接触はなかったので。わかりませんが、俺らの知る限りではそのような人物に心当たりはありません」


分かったと言って、実門は彼らが警察署へ入っていくのを見届けた。警察署に着くと、何度も頭を下げて、近くに立っている警官に丁寧に自分たちのことを説明していた。

二人の姿はとても弱そうに見えた。


-------------------------



「結局、輝夜は生きているわけだから殺人未遂ってことかな。俺への暴行罪とかも追加できるけど」

「あの人たちの話を聞いていると、過去に何人か手にかけて、同じ方法で海に沈めたことがあるみたいだったし。凶悪犯だし……」

「そうだな。出所はできないだろう。なんか、最後は良い人だったけど。あんな人でも罪を犯すんだな。俺は人間不信に陥りそうだ」


天の羽衣の効果で、今は罪を償う気満々だろう。警察でも洗いざらい罪を告白し、ちゃんとした裁きを望むだろう。けど、数か月後にはまた元の凶悪な心に戻る。


彼らには、警察署で輝夜への犯罪行為を告白したとしても、「輝夜本人の記憶がない今は何も覚えていないので意味がない」と言った。できればそっとしておいてほしかった。


人身売買オークションや殺人が今もなお行われているのであれば、明るみに出して罪を犯した人は罪を償わなければならない。輝夜以外にもたくさん被害者がいるだろう。日本の警察は優秀だ。あとは彼らに任せよう。

実門と二人でそう結論を出した。


「とにかく私の記憶は戻らない。けど、証明書は手に入ったから、これで日本人として生きて行くことが可能になった。働けるし、税金だって納められる。スマホも持てる」


「おう。そうだな。それはいい事だ」


市役所まで付き合ってもらい、必要な物を全て手にすることができた。もうそろそろ日が暮れる。今日は輝夜の実家に泊まり、明日ゆっくり帰ることにしようと決めた。


-------------------------


世の中はクリスマスムード満点だ。


「気づかないうちにクリスマスじゃん」


なんだかいろいろな事がありすぎて意識してなかったと実門が言った。

クリスマスという不思議なイベントが現代では当たり前のように大々的に行われているようだ。今日はその前日、イブにあたる日だという。


「クリスチャンではないだろう。なぜキリストの誕生を祝う」


日本人というのはいつからこんなに浮気性になったんだろう。お釈迦様の誕生日である四月八日を祝うべきではないだろうか。でも、郷に入れば郷に従えで、キラキラとしたイルミネーションは綺麗だったし、プレゼントをもらえる日なのもなんだか喜ばしいので、キリストの誕生日を祝うこともやぶさかではなかった。


「宗教にそれほどこだわっていない人が多いってことだ。それと夜にケーキを食っても罪悪感を持たなくていい日だ」

「確かに、人は死んだあと自分がどうなるかなんてわからないものだ。もしかしたら転生するのかもしれないんだから。それとケーキは食べたことがないのでわからない」


「お前、本当に日本人かよ。記憶喪失って、ケーキを食べた記憶すらなくなっちゃうのか?」


実門はあきれた様子で商店街の方へ足を進めた。


「いや、ここ田舎過ぎて店がねぇな。コンビニケーキとかじゃ味気ないしな」


どうもケーキを買ってくれるようだ。パンは好きだが、甘いパンはあまり好ましくない。だからケーキが口に合うかどうかはよくわからない。


「せっかく親切なカーナビのお姉さんがいるのだから、外で検索するのが賢いとは思えない。車に戻ろう。ここの寒さは異常だ」


私は小刻みに震えながら車の方に走っていった。

結局その日は帰りにこの県で一番大きいらしいショッピングセンターに立ち寄り、そこでケーキとチキンを買った。味気ないとは言っても私にとっては初のクリスマスケーキだ。なんだか少しウキウキした。


「これを吹き消すんだ。多分、自分の誕生日以外でケーキのろうそくを吹き消すチャンスはここでしかないだろう」


実門はクリスマスケーキに蝋燭を立てて、私に吹き消すように言った。しかし蝋燭の火を吹き消すことなど珍しくもなんともない。何なら毎晩やっていた。(仏壇の蝋燭を)。


実門は私が喜ぶと思ってしてくれたんだろう。


「おめでとうキリスト!」


一応宗派は違うがキリストを祝っておく。


「メリークリスマス!」


子どもたちのためのイベントなのかもしれない。ちょっと二人だけでは寂しく感じた。


「莉子もいたらよかった。みんなでパーティーしたら賑やかだっただろうな」

「お前、俺に感謝はないのか」


実門は少し拗ねたようなので。


「ありがとう。感謝しているぞ。さぁ!ケーキを食べよう」


笑顔で答えた。

誰かを喜ばせようと思う気持ちは、とても優しく心地いいものだ。現世に来て、いろんな人からその温かい気持ちをもらっている気がする。もらってばかりでは気が引けるので、必ずいつかお返ししなくてはならない。

特に実門は、失血していて記憶はあやふやだろうが、命がけで私のために戦ってくれた。いったいこの恩はどうやって返せばよいのだろう。

私は自分のケーキの上に乗っているイチゴをひとつ、実門の皿の上に乗せた。


「ん?」

「感謝の気持ちだ」


実門はありがとうと言ってイチゴを口に入れて笑った。


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