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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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6


モノノケの類かもしれない。だが、陰陽師を簡単に呼べる世でもない。

私は考えた。現世で忍び込むものといえば、泥棒。

やはり戦うしかない。


「実門、お前弓の名手ではないか?」

「は?弓?」

「ないなら仕方がない。これを使って」


私は、リュックの中からビニール袋を取り出した。


「何これ……5,250円……」

「いざという時のために持ってきたの。全財産よ」

「いや、少なすぎじゃね?ってか、現金ビニール袋に入れるなよ。財布なかったのかよ」


ガタゴト、バタン! ドアが勢いよく開いた。


「ひえええぇぇぇえ!」


夜盗は入口のスイッチを押し、私たちを見て声を上げた。


「お前……なぜ生きている。確かに殺したはずだろう」

「そうだ、なんで生きてるんだ!」


金属バットを持った夜盗は私たちに襲いかかった。実門は5,250円を投げつけたが、それは夜盗の手ですぐに払いのけられた。

まずは男の方からと思ったのか、一人が実門を押さえつけ、もう一人がバットを振り下ろした。そのバットは実門の右側頭部をかすった。いや、ゴリッと変な音がした。

実門の頭から血が流れた。流れたという表現より、吹き出したと言った方が正しいかもしれない。

男たちは血が吹き出すその光景に動ずることもなく、次に私に視線を移すとニヤニヤ笑った。


「おい、女を押さえろ、次こそ確実に息の根を止めろ」


私はリュックを漁り始めた。確か今回の旅に持ってきたはず。中から目当ての物を取り出すと、実門の元に駆け寄った。


「今さら、何をしたって間に合わないぜ」


はははっと笑って男たちは私の行動を見ている。

そんなことは気にせず、漆塗りの箱を開け、薄緑色のねっとりとしたクリームを手に取った。軟膏なのでとても塗りにくいが、両手にそれを擦り付けて実門の血が吹き出している頭に塗り付ける。


「もう無理だぜ、お嬢さん。頭蓋骨は粉々だ」


夜盗はニヤリと笑った。

いや、無理じゃない。これは『不死の薬』。死んでさえいなければ大丈夫だ。

次の瞬間、体がピクリと動いたかと思うと、実門がむくりと起き上がった。


「行って!行くのよ実門!」

「うおぉおおおお!!!!」


火事場の何とかで実門は夜盗に突進する。腰を抜かさんばかりに驚いている相手の脚にタックルだ。倒れた男の胸に馬乗りになって実門は相手を殴りつけた。

顔面が血まみれの実門が、我を忘れたように何度も拳を振り下ろす姿は、まさにホラーだ。

ぶるぶると震えていたもう一人の男が、我に返り、懐からナイフを出し、背中から実門を刺した。


「うわぁーーぁぁぁーー!死ね!」

「ううっ……」


うめき声と共に実門は力なく夜盗の上に倒れこんだ。夜盗は実門の体を払いのける。

すかさず私は実門の元に駆け寄り、傷口にまた『不死の薬』を塗り込んだ。

背中を刺された実門は復活。また立ち上がった。


「行くのよ!」


実門は足でナイフを持った男の手をキックした。


「な、なんだこいつっつ!化け物かよ」

「くそっ!」


今度は夜盗二人がかりだ。一人が実門の足を抑え込み、もう一人が実門の首を絞めにかかる。実門は暴れて抵抗している。


「かぐ……バットを、つかえ……」

「何!聞こえない。がんばれ実門!まだ大丈夫よ」


私は一生懸命応援する。左手に漆の箱を持ち、また実門がやられても復活させる準備は万端だ。

実門は暴れながら、私に腕で合図する。指はバッグの方を指している。


「かぐ……バット……」


そうだ。そうよ。

私はやっと気が付いた。

そしてリュックの中から『天の羽衣』を取り出した。



-------------------------



さっきまでの殺気はどこへやら、二人の夜盗は心変わりした。

おとなしくなり、良い心の持ち主になった二人を、私は隙を見てビニール紐で拘束した。逃げられないように足に、そして腕に紐をグルグル巻きにし、それから口に猿ぐつわをはめた。


「実門。よくやったわ。とにかく、薬をもう一度塗りましょう」


絞められた実門の首には赤々と跡が付いている。

実門はハァハァと肩で息をして、何も言わずに床に倒れこんだ。意識が朦朧として、力尽きている彼に私はまた『不死の薬』を塗った。


グッジョブ実門。お手柄だわ……


服は破け全身血まみれ、彼は全力で戦った。最後まで意識を手放さなかった実門は男だ。

とにかく、この夜盗たち――いや、夜盗というより殺し屋というべきか。いったいなんで私たちを殺そうとしたのか、理由を知る必要がある。良心に目覚めた彼らはちゃんと理由を話してくれるだろうか。


室内を物色するわけでもなく、金目のものを狙っていたようでもない。泥棒ではないのは間違いない。私たちから命を奪う目的で襲いかかってきたのは間違いない。うめきながら横たわっている彼らは、いったい何者なんだ。

さすがに私一人で彼らの尋問を始めるのは不安だ。実門が起きるまで待つことにした。


興奮しているせいか、この状況では眠れそうにない。まあ、殺し屋と一緒にいるのに、眠るわけにはいかないだろう。

部屋の中は荒れ放題。机はひっくり返り、デスクスタンドは落ちて壊れている。狭い部屋に男が三人寝転がる。足の踏み場がない。


彼らを横目に捉えながら、部屋の中を片付け始めた。大の男を移動させることは困難だったため、仕方なくあまり視界に入らないように、彼らに毛布を掛けた。


男たちの目から涙があふれているのが見えた。後悔の気持ちが湧き起こっているのかもしれない。悪の心が強いほど、羽衣効果は善の方向へ強く働く。彼らは聖人になったのだろう。ま、数カ月だけの話だが。


実門はすやすやと眠っている。彼の顔は血まみれだ。見ていられないので綺麗に拭いてあげることにする。

服も刺されてボロボロだから着替えさせたい。服に着いた血液は洗っても落ちないだろう。脱がすのも面倒なので、ハサミでトレーナーを切った。下着のTシャツまで血が染み込んでいる。刺されたので破けているのは当然だ。仕方がないからシャツも切って上半身裸にした。


疲れ切っているのか、どれだけ体を動かしても、実門は目を覚まさなかった。

洗面器にお湯を入れ、スポンジで彼の顔を綺麗にする。傷は見当たらない。薬の効果は絶大だった。髪までは綺麗にできないので、後で風呂に入って自分で洗ってもらおう。


けれど、かなり失血しているようだった。傷はすっかり治ったとはいえ、出血してしまった血液は元に戻らない。起きたとしても貧血状態かもしれない。少し心配になった。



朝遅くに目が覚めた実門と私は、夜盗の様子を見に行った。


「本当に後悔しています」

「自首して、警察で洗いざらい罪を告白します」


夜盗は涙を流しながら、土下座した。


「んで、あんたたちは殺したはずの輝夜が、ここに帰って来たという噂を聞いて忍び込んだんだな」

「殺して船で沖まで連れていき、重しを括り付けて海の底に沈めました」

「殺人は、死体が出なければただの行方不明で処理させるんで……」

「まさか生きているなんて思ってなかった」


「でも死んでいなかったってことだ。どうやったかは知らないが、輝夜は生還してまたここに戻ってきた」


そうですというように、うんうんと彼らはうなずいた。


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