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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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5


竹取物語の中に、大納言大伴御行おおとものみゆきという者がいる。

私が龍の頸の珠を取って来るよう命じた大納言だ。彼は海に漕ぎ出し、嵐に遭い船は漂流した。そして死にかけたので、帰ってきてから私に逆ギレした男だ。


男と女の違いはあるが、大伴美幸が母だったとは。ちょっとずつ何かが違うけど、登場人物の名前は現世で私が出会っている人たちと酷似している。


大納言は私に求婚するため、当時結婚していた妻と離縁した。

美幸という母親も離婚しているんじゃないだろうか。私を好いてくれてはいるだろうけど、最後は逆恨みされるので、現世であったとしても結果が良いものと出る気がしなかった。


「どうする?ここだよな、輝夜の家」


全く記憶にないけど、多分ここだろう。住所はあっているし、表札も大友となっている。


「一応念のため、武装していった方がいいかもしれない」

「なんで……」

「なんとなく殺気を感じる」

「いや、それ訳分からないし」


ほら行くぞ、と言われて、なかば無理やりドアのチャイムを鳴らした。中は静まり返っている。誰もいないかもしれない。お金持ちとは言い難いその家は、所々壁が崩れ、庭の草も生え放題だ。人が住んでいる気配はない。

しばらく待っていたが、誰も帰ってくる様子はなかった。


「誰も住んでないのかもしれない。郵便ポストも空っぽだし」

「逆に、ポストが空だという事は誰か住んでるんだよ。もう少し待ってみるか」


極寒の中、家の前で、実門と待つことにした。


こんな寒空の下、なぜ実門はここまで私に付き合うんだろう。急に疑問が湧いた。

今まで現世で自分に親切にしてくれている人は、少なからず輝夜に求婚してきた者たちの名を継いでいる。

過去の世界で、私は結婚の条件として五人の貴公子にそれぞれ無理難題をふっかけた。

今となっては酷い事をしたと反省している。


石作皇子いしつくりのみこ:石材店の山田。

右大臣阿部御主人あべのみうし:自治会長の阿部さん。

大納言大友御行おおとものみゆき:輝夜の母親、大友美幸。

こうやって出会う人が全て竹取物語の登場人物だとすれば、蓬莱の玉の枝を持ってくるように言った庫持皇子くらもちのみこ、燕の子安貝の中納言石上麿呂足いそかみのまろたりにはまだ会っていない。

そして、忘れちゃいけない。物語の中の、みかど(御門)は天皇だ。


「実門、お前は私の事が好きか?結婚を申し込むのか?」


急な質問に実門が口をあんぐり開いて驚いている。


「は?なんでそうなる!付き合ってもいないのに結婚するわけねーだろう。そもそも……え?なんでそう思った?」

「だが、断る」

「いや、質問の答えになってないし!告白してないのに振られる系とか……ないからそれ!てか、お前、断るなよ、失礼極まりない。俺がここまでお前の為に付き合ってるというのに、いや、付き合おうとかないし、そういう風に見てねーし。なんなら頭のおかしい女の面倒見てるし、介護だし!」


実門が興奮している。怒らせてしまったようだ。だけど、結婚する気はなさそうでよかった。




「輝夜ちゃん!輝夜ちゃんじゃない?」


誰だかわからないけど、多分近所に住むおばちゃんに声をかけられた。


「……こんばんは」


恐る恐る挨拶してみる。


「いやねぇ、何してるの?中に入ったら?」

「その……」

「あ、鍵がないのね。そうか、ちょっと待っててね。私家から持ってくるわ。カギ、預かってたからね。まぁ、彼氏と一緒に帰って来たのね。寒いのにご苦労だったわね」


そう言いながら、おばちゃんは走って自分の家まで戻っていった。

また、「輝夜ちゃん」に認定された。彼女は輝夜を知っているようだ。

やはり私は現世で「輝夜ちゃん」だったのだ。


「鍵を取りに行っている時点で、ここにおまえの母親はいないとみた。鍵を預かっているという事は長期間不在にしている。旅行か仕事か……」

「あるいは船旅で遭難しているか」

「縁起でもねぇこと言ってんじゃねえよ」


-------------------------



「電気もガスも止まってない。ありがたいな」


実門は家の中を一通り確認した。

近所のおばさん(田中さん)いわく、輝夜の母親は船で沖に出たまま行方不明になってしまったという事だった。その後何日も捜索が続いたが、結局見つかっていないらしい。


この世界の輝夜は三カ月前までここにいたが、ある日突然いなくなり、その後すぐに母親も沖でいなくなった。輝夜の年齢は十八歳。成人しているので、そこまで心配されていたわけではないようだった。


輝夜の母親は一人で輝夜を育てた。父親の事は誰も見たことがないので、多分結婚したけど離婚したのだろう。姓が嫗と違うが、そのまま使う人も珍しくはないと聞くのでその辺はあやふやだ。母子家庭だったことは間違いない。母はわかめ漁をして生計を立てていたようだ。家の様子からして裕福ではなかった。


「まだお母さんは見つかってないけど、あきらめないでね。いつでもここに戻ってくればいいから」


涙ぐみながら田中さんは輝夜の肩を抱いた。

郵便受けは田中さんがいつも確認してくれているようだった。重要そうな書類はまとめて袋に入れてくれていた。


「ああ、なんだかいろいろ来てるぞ」


実門は封筒を一枚一枚確認していた。

輝夜の自室であっただろう部屋の机の引き出しに、マイナンバーカードと通帳があった。これで身元の確認ができる。ここに写っている写真は輝夜本人のものだった。


本棚には卒業アルバムもあった。必要になるかもしれないので、重要なものは写真に撮った。この世界の輝夜は、高校を中退している。その後上京し、何年かしてまた徳島に戻ってきたようだ。そして母親と共にここで暮らし始めた。


母親がいなくなったことを輝夜は知らないんじゃないかと近所で話していたらしい。もちろん知らなかった。時系列的に、私が家から出て行った直後に母はいなくなっている。やはり田舎が嫌になって、輝夜はまた東京へ戻ったと思っていたようだ。

何を聞いても記憶にないし、思い出しもしない。話を聞く限りでは、以前の輝夜はそれほど人生を満喫して生活していたわけではなさそうだ。都落ちした田舎娘説が有力だろう。


「何か思い出した?」


心なしか実門が優しくなった気がする。


「まったく思い出せない。けれど、無職の女だという事は分かった。明日、役場に行って、戸籍謄本を取って払わなくてはいけないものを支払って手続きをしてくる」


「母親をここで待たなくてもいいのか?ばあさんの家に戻るのか?ここに居れば、輝夜の知り合いに会える可能性が高い。記憶が戻る可能性を考えたらこの家に住んだ方がいいかもしれない」


「会えたとしても、全く覚えていないから困るだけだ。思い出して帰りたくなったら、この家に帰ってくることにする」


私はそう言うと、以前使っていたであろう自分の部屋のベッドに横になった。

ここで生きていた現代の輝夜の人格はどこへ消えてしまったのだろう。私が彼女の体を乗っ取ってしまったのなら、さぞかし不服だろう。

もしかしたら仲の良い友達や、恋人がいたかもしれない。考えてもどうしようもない事だ。わかってはいるけど、申し訳ない気持ちになる。けれど自分にはどうすることもできない。

そんなことを考えながら私は目を閉じた。


草木も眠る丑三つ時。

深夜の二時を過ぎたころ、誰かが私のベッドのそばで体を揺すってくる。こんな夜中に誰だと思い、目を開けると、そこには実門がいた。


「……なんだ。実門、夜這いか」


私は夜這いに慣れていた。なにせ竹取の屋敷では、男どもが私を目当てに毎夜忍び込んできていたから。あの翁は腕っぷしが強かった。老人とは思えぬ腕力で男どもを殴り倒して、追い払ってくれていたのだ。


「誰か、いる……」

「え?」


「下の部屋で寝ていたけど、寒かったから隣の部屋に布団を取りに行ったんだ。そしたら物音が聞こえて……台所に誰かいる」


実門は少し怖がっているようだった。翁のようには戦えないだろう。


モノノケの類いかもしれない。だが、陰陽師を簡単に呼べる世でもない。私は考えた。現世で忍び込むものといえば、泥棒。

やはり戦うしかない。


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