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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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4


「省略する言葉が多くて、現代語というものはなかなか難しい」


朝から頭の中で、昨日莉子たちから教わったらしい新しい言葉がぐるぐる回っている。


そんなことを考えていると、やってきたのは、実門だった。


「俺も餅食うからな」


実門はそう言って、火鉢のそばに腰掛けると、持ってきたカバンからタブレットを出した。


「ほら、これな。お前、スマホ契約できないだろうから」

「貢物か?感謝する」


実門は渋い顔をした。


「貢物って、なんなんだよ、お前。大名か。やる(あげる)んじゃない。俺が昔使ってたやつを貸すだけだ」


私は新しく手に入れた文明の利器を嬉しそうにいじり始めた。

実門は私の家に持ち込まれた食材や火鉢を見て首をかしげる。


「誰が怪しさ全開のお前に、こんなに差し入れしてくるんだ。近所の人か?金を払ってるわけじゃないよな」


私が『山田石造と地主の阿部さんだ』と説明する。

私が町から帰ってくる途中に、山田の石材店があった。寺院の灯りのために作られた石灯篭は、私の時代にもあったもので、懐かしさを感じて店に入り、山田と知り合ったのだ。

阿部さんは、この地域で自治会長をしており、媼のこともこの竹林のことも良く知っていた。この辺の住民の世話をする立場にある人だ。


「その阿部さんに、輝夜の母親のこととか聞いてみたのか?」

「母は高校を出ると同時に町から出て行った。それで子ども(私)を連れて十五年前に一度ここに戻ってきたらしいが、それっきり姿を見ていないという。『私の方が母親のことを分かっているだろう』と言われた」


実門はウンとうなずき、貸してといって私のタブレットを奪った。

仕方がないので昼食の準備をする。今日は餅があるので、昨日たくさん作ったけんちん汁と香の物にしよう。

ぬか床に野菜を漬ける。これは亡くなった媼のぬか床だ。私は、孫である(と仮定した)輝夜として、勝手に引き継ぐことにした。この時代の発酵技術は、なかなか奥深い。


「昨日、引き出しの中から見つけた古い葉書だけど、あの住所へ行ってみようと思う」


突然実門が言い出した。


「……そうか、道中気をつけてな」


母親という人は徳島県にいるらしい。いや、十年前はそこに居たようだ。今もいるかどうかは分からない。天竺や蓬莱山ほど遠くはないが、長旅になるだろう。


「いやいや、さすがに、なんで俺が一人でそこへ行く前提なんだ?お前も来るんだよ!」


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「青春18きっぷ」での長旅が始まった。

輝夜にとっては人生初めての電車だ。

電車というのは、驚異的なスピードで人や物を遠方まで運ぶ。流れ去る景色の中の家々は、人々がここで生活していることを物語っていた。


「和の国は、私の知らない間に、目覚ましく発展したんだな」と感心する。


食べ物を放置したままだと腐らせてしまうといけないので、実門の母上にあげてきた。ぬか漬けを喜んでくれたので、帰ったらぬか床を分けてやろうと思った。


「んでだな、目的は輝夜の母親を捜し出すことだ。そしてお前の身分証明書を手に入れる。ちゃんとした年齢も分からないんじゃ、仕事どころか病院にだって行けない。学歴だってわからないだろう。そもそも、義務教育はともかく、高校は?まさかの現役とかじゃないよな……」


さっきから実門はごちゃごちゃうるさくてしょうがない。最悪、何もわからなくとも、今のところ、そう苦労はしていない。住む家もあり、食べる物もある。知り合いだって増えた。友もいる。意外とエンジョイしている。


「この青春18きっぷというのは、青春している証明書がなくても買えるのか?」


この切符があればどこまでも電車で移動できる。これを使って目的の徳島まで行くようだ。


「まぁ、そうだけど。問題はそこじゃない。輝夜、ちゃんと人の話を聞け!だいたい輝夜はこれからどうやって生活していくつもりなんだ?先の事、ちゃんと考えてんの?将来どうしたいんだ?何がしたいんだ?」


実門は時に、かなりせっかちになる。


「……ああ。とりあえず、NASAへ行って月面着陸を目指そうかと思う。まずは種子島だな」

「いや……漫画に影響されてんじゃねぇよ!」


この時代は不思議だ。私がいた世界では、天竺はあったし、蓬莱山もあった。龍もいた。

令和という社会では、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、龍の首の珠、燕の子安貝、全て物語上の宝だと思われているようだ。私がいた時代に存在した物は、架空の物となっていた。


もちろん、月の世界なんてものはないといわれている。アポロ十一号が月に行って確認したらしい。

けれど、月はわが故郷ふるさと。私が持っている『天の羽衣』と『不死の薬』が、月の世界が確かに存在するという証拠となるだろう。


だが現代では月に生命体がいるはずはないと科学的に証明されている。実門に、これ(羽衣や不死の薬)を見せてはだめな気がした。この道具は月の世界でも貴重なものとされる。研究するため取り上げられたら大変だ。それに、非現実的な事や物は認められない世の中だろう。

そして、現代は文明が発達しているのだから、これらのものは必要ないかもしれない。


「ところで、実門はお金持ちなのか?」

「んなわけないだろう。俺は学生だぞ。アルバイトして節約して生きてる。親に学費を出してもらって、小遣いもらって生活してる」

「なら、この電車代や徳島での宿代はどうする?実門の母様に出してもらっているのか」


それは申し訳ない。ぬか床のおすそわけ程度では足りないだろう。

私は懐から巾着を出して、その中から金の塊を実門に渡した。

知っている人は知っているだろうが、竹を切ったら黄金が出てくるというのが、竹取物語あるあるだ。試しに、媼の家にあったノコギリで竹を一本切ってみると、中からゴロゴロと金の塊が出てきた。

調べてみると、現代でも金は価値があるものらしく、換金して現金にできる。


ただ、私は換金する術を持っていなかった。金を売却するには、運転免許証や健康保険証、パスポートといった身分証明書の提示を求められる。実門ならきっと現金化できるだろう。


「おま、なにこれ?本物? やばいだろ」


小さなうずら卵ほどの大きさのそれは、ヤバいらしい。実門は急に「次の駅で下車する」と言い出した。


これをどうしたのか、どうやって手に入れたのかと質問された。あまりにしつこい質問。竹から出てきたなんていったって信じてくれないだろう。面倒だったので、死んだ嫗の遺産だと言った。


「昔の人だし、現金は全部ゴールドに変えたんだな」


実門は何故かすんなり納得した。


「というわけだから、今回の旅の路銀に充てればいい」

「わかった。換金するために大きな町に先によるから。ってか、こんだけあったら新幹線に乗れるぞ」


実門は納得したようなので、徳島への旅は続行される事となった。


何とも美しい島だ。

徳島は素晴らしい。鳴門の渦潮を見学した。まさか海の上を渡れる橋があるなんて想像もしていなかった。海中に吸い込まれそうな迫力があった。渦がぐるぐる巻いて、まさに圧巻。橋は網目になっていて、所々歩道がスケルトン仕様に作られている。海からの強風で体が飛ばされそうになり、寒さで凍りつきそうになったが、とても楽しかった。


「輝夜さ、俺ら観光しに来たんじゃないから。とにかくこの住所まで行かなくちゃならない」


渦潮は見るべきだと言ったのは実門のくせに、観光するなと言っている。

右手にフルーツ大福、左手に金時饅頭を持ちながら実門の意見を聞いた。両手が使えるので、リュックを買ってよかったと思っていた。

私はタブレットを取り出すと、大鳴門橋をバックに記念撮影をする。実門に写真撮影をお願いした。


「え、お前ひとりだけ写真撮るのかよ。俺はカメラマンか何か?」


文句が多いので、スマホで実門の写真も撮ってやった。

それからレンタカーで葉書にあった住所へと向かった。実門はいっちょまえに車の運転ができた。大人になったらほとんどの人が普通自動車免許を取得する世の中だと教えてくれた。

ネットで調べると、母親が住んでいる場所は海に近い寂れた漁村だった。

一軒家だが、かなり古い家だった。カーナビの中の女性は、道を間違えても怒らず丁寧に誘導してくれる。とてもできた女だった。

母親の名前は『大友美幸』。大友の表札を探す。しかし、嫌な予感しかしない。


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