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ガシャン!
その時、外で音がした。
何事かと思い、私は急いで外へ出た。
子どもが三、四人、この家を見ながら笑っている。家に石を投げられたみたいだった。
「お前んち、おっばけ、屋~敷~」
「ははっ!わーこえー」
子どもたちは、歌いながら走って逃げて行った。
私は口をぽかんと開け、あっけにとられた。
今も昔も子どもというものは、くだらないことに体力を使うんだな。子どもの悪戯という、変わらないものに懐かしさを感じた。
けれど庭に出てみると、家の近くには小さい物から大きい物まで、大小様々な石が転がっている。何度も投げられたんじゃないかと思うくらい、石が散乱していた。
こんなに投げつけられていたら、いつか家が壊れてしまうではないか。
今度来たら反撃することにした。
明るい日差しの中で、外側からこの民家を見ると、非常に荒れ果てている。
なるほど「お化け屋敷」というのは言い得て妙だ。手入れが行き届いていないというか……
所々、土壁が剥がれかけているし、庭には雑草が生い茂り、雨風にさらされて門柱は腐りかけている。お婆さん一人では管理ができなかったのだろう。
綺麗に掃除をし、傷んだところを修繕しなければならない。
とにもかくにも、ここに当分の間いなければならないのだから、せめて自分の生活空間くらいはきちんと整えたい。
けれど、いくら私でも、この家を丸ごと一つ自分一人で片付けられるとは思わなかった。
家の中もごちゃごちゃと、訳の分からない物がたくさんあり、動くときに邪魔になって仕方がない。
物が多いというのも考えものね、と私は思った。
掃除はともかく、生きるために最低限必要な食料を、何とか調達しなければならない。それが最重要事項だ。
昨夜から何も食べていないので、私はかなりお腹が空いていた。
時期が冬場だから、柿や栗、きのこや山菜などは手に入らないだろう。しかも周りは竹だらけ。猪や鹿などの動物もいないし、魚を捕る川や海なども近くになさそうだ。
家の中に食料があるかどうか探さなくては。
私は台所へ行き、色々な箱を開けてみた。
大きな扉が付いている、つるつるした入れ物(冷蔵庫だろう)の中には卵が入っていた。その中に入っている小さな箱の中に、多少の食べられそうな物体があった。どのように調理すればいいのか、私には分からなかった。
けれど、ありがたいことに、大きな袋の中に真っ白な米が入っていた。
白いお米など、贅沢でめったに食べることができないもの。それがたくさん入っているところを見ると、もしかしたらこの家に住んでいたお婆さんは、泥棒に入られないためにわざと貧しく装っていた可能性がある。
本当は裕福だったのかもしれない、と感じた。
なんとかコンロの火をつけることができた私は、蛇口から水を出し、鍋に米を入れ火にかけた。白い粉は塩のようだ。米と塩があれば、なんとか生きられるだろう。
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太陽が真上に昇る頃、外が騒がしくなった。
窓からこっそり覗いてみると、朝やって来た子どもたちが、まだこの家の様子をうかがっているようだった。人数は確実に増えている。ざっと十人くらいいるかもしれない。
「また石を投げられるのか?」
私は考えた。このまま悪戯ばかりされたのでは、たまったものではない。
『お化け屋敷』。あの子たちは、ここがそうだと噂していた。
「この時代も、やはり鬼や妖怪、もののけがいるのだろうか? 人々は疫病や日照り、大雨や洪水に悩まされているのか?」
ならば、その噂をうまく使えば――。
「キエエェェッー!ティヤ!ハッ!」
私は仏壇の蝋燭を頭に立て、白い布で固定した。亡くなったお婆さんのものらしき着物を上から羽織り、裸足で子どもたちの前に走り出た!
地面につきそうなほど長い黒髪に、この真っ白い肌、そしてぎょろりとした目は、まさに幽霊そのものだろう。
「ギャーーーーーーキエエェェッーー!ティヤ!ハッ!」
自分でも何を叫んでいるのかわからないが、とにかく子どもらを驚かせることだけが重要だった。
「……」
「ひ、ひゃー、な、ごめんなさいっ!」 「ぎゃーっ、ごめんなさい!ごめんなさいっ!」
子どもたちは、腰を抜かさんばかりに驚いていた。そして、泣きながら私に謝ったのだ。
こうして私は、初めて子分を手に入れた。
子どもたちを一列に並ばせて、「私の言うことを聞かなければ末代まで呪ってやる」と脅した。
それから、この時代の道具の使い方を教えるように、年長の子に命令する。とにかく、ここにある、あらゆる道具の使い方が全くわからなかったのだ。
この時代には、電化製品というものがたくさん存在するらしい。電気という目に見えないものを動力に、世の中が動いているようだ。
莉子という小学五年生の女の子が、その使い方を教えてくれた。
いろんな箱に書いてある記号のような文字は私には読めなかった。読み書きは、一年生の教科書から順に覚えることになった。子どもたちは、学校という場所で読み書きを学ぶらしい。
体力だけが自慢の男児は、草刈りや家の片付けをひたすらやってもらうこととなった。
十人いれば、子どもとはいえかなりの戦力になる。
老人の一人暮らしだったこの家に、『お化け屋敷』と騒ぎ、石を投げていた罪は、これで償わせればいい。お婆さんも天界で「ざまぁ」と喜んでいるだろう。
六年生の龍という子が、スマートフォンという電化製品を貸してくれた。
私は感動していた。スマホというものは、ものすごい速さで情報を収集できる。なんて道具を人類は発明したんだ。
「これが欲しい」と龍に言ったが、「人にあげたら母上に怒られる」と言われた。
そうなると子分を辞めなくてはならず、それは困るので、仕方なく諦めた。
前世、竹林から発見された時は三寸だったが、雨後の筍の如く、ぐんぐん成長し、生後三ヶ月で成人した。そういうわけで、私は抜群の成長力を持っている。
当然、身体能力、学習能力は並外れて超人的だ。
字を覚えてしまえば早いものだ。一度読んだものは忘れないし、頭の中だけではあったが、ここで暮らしていく為の生活スキルを得る事ができた。
子どもたちの通っている寺子屋は、あらゆることを教えてくれるらしい。生活や社会、音楽や体育など。しかも昼になると給食という御馳走が食べられるという。
私も学校という寺子屋へ通いたかったが、年齢が高すぎるため無理だと言われた。
「その髪の毛、長すぎて怖い」
「長い髪は美しいものだ。童ではないのだから、切るなんておかしいだろう」
「今っぽくないし、ダサい」
確かに、莉子は短い髪だし、可愛らしい赤い髪飾りを付けている。
「金ないのかよ」
男の童が私を馬鹿にした。
「ある」
「散髪に行けよ」
「髪を切るのに金を使うのはおかしい。裕太が切ってくれたらいいだろう」
「マジかよ。変になっても知らねーぞ。後から文句言われるの嫌だからな」
「ならば、自分で切るしかない」
ハサミの使い方を教わって、自ら毛を短くすることにした。
動画というものはなんて素晴らしいのだろう。今流行りの髪型を、切り方まで丁寧に教えてくれる。
私は動画を見ながら、一番簡単そうな髪型にカットし始めた。
誰かに頼るしかない。知り合いが全くいない状態から、私は子どもたち十人の仲間を得た。昨日話していた大人たちは皆どこかへ去って行ってしまった。
初めてできたこの子分、もとい仲間を大事にしようと思った。




