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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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輝夜は独学で勉強して、高卒認定試験を受ける事にした。俺が家庭教師を買って出た。塾講のバイト経験もあるから、教える事には自信がある。

実家の俺の部屋に輝夜を呼んで試験形式で過去問を解いてもらう。

今日、家に来てもらって輝夜の服装に驚いた。なんでこんな季節にショートパンツなんだ。誰がセレクトしたんだ。寒いだろう。


「理系の数学、科学と人間生活、物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎の6科目、そして文系の国語、英語、公共、歴史、地理の5科目で計11科目ある。けど、全部受けなくてもいい」

「わかった」


輝夜は必要科目の教科書を机において、ハチマキを頭に巻いている。どこかの小学生の塾動画に影響され、そのように準備しているようだ。


「やる気だけは凄く感じる。輝夜は字も読めるし計算もできるだろ?英語も大丈夫だ。一応教科書に目を通してみたよな?」

「教科書に目を通した。だいたいできた」

「だいたい……できるかもしれないが、どれくらいのレベルなのか知りたいから、まず公認の過去問を解いてみてくれる?」


テストが終わるまで時間がかかるだろうから、俺はリビングでお茶の用意をする。

莉子が学校からちょうど帰って来た。


「あ、輝夜ちゃん来てるんだ」

「ああ。今テストしてるから静かにしろよ」

「何?お兄、輝夜ちゃんにテスト受けさせてるの?学校の?」

「まぁ、そんな感じ」

「輝夜ちゃん、私の教科書とか全部暗記してるし、塾の問題も全部解けるよ。高校とか大学生の問題もできるし、お兄より頭いいわ。テストとか笑っちゃう」

「あいつが頭いいのは分かるけど、ってか、莉子!お前、そのショートパンツ輝夜とお揃いだろ!」

莉子は小学生らしいふわふわトレーナーに短パン、ダウンコート姿だ。季節はまだ三月、短パンは寒いだろう。

「輝夜ちゃんは、洋服とか買いに行ったことがないし、商店街のおばちゃん達とお揃いの物を着るから、私がスタイリストしてるの」


どうりで、どこかのアイドルのような服装だと思った。なるほどなと納得した。輝夜は、今どきの十代の女子としての経験が皆無だ。



莉子の言った通り、輝夜は過去問全て満点だった。しかも予定時間の半分もかかっていない。


「輝夜の脳みそはいったいどうなってんだ……」


全ての解答用紙の採点を終えて、こいつに高認は必要なのだろうかと感じてしまった。まさに天才だ。


「脳みそって、脳の味噌だろう。最初に言った人は誰だ。味噌って……どうなんだ。センスを疑う」

「そう……か……脳みそが気になるのか……」


誰が最初に言ったのかは知らない。俺に教えられることが何一つない事実に凹んだ。


「それじゃあ、勉強を始めよう」


輝夜はやる気だ。


「いや、逆に聞くけど、教科書とか読んでみて分からない問題はあった?」

「そうだな、特になかった。国語で人それぞれの感想があるものに対して、正解を作るのはおかしいと思った。それくらいかな」


莉子がジュースを持って部屋に入ってきた。


「言ったじゃん。輝夜ちゃんに勉強は必要ないよ。ねぇ、莉子と一緒にコンサート行ってよ。ママが大人と一緒じゃないとフェスに行っちゃ駄目だって」


「わかった」

「いや、待て。莉子に付き合う必要はない。ってか、輝夜はフェスに行ったことがないだろう。危険な目に遭うぞ。ナンパとかされたらどうする?莉子は子供だから、お前は輝夜を守れないだろう」

「莉子は子供だ。大人は私だ」


それは、そうだが。


「よし、決めた。輝夜の知らない事を教えたいけど、教科書に載っていない事を教えようと思う」

「いやー!変態だ。教科書に載ってない事って。お兄、最低」

「そんなんじゃないし、動物園とか、植物園とか、水族館とか。映画とか?」

「輝夜ちゃん行ったことないの?」

「ない」


「それ、デートコースじゃん」


「うるさい、莉子。お前は塾へ行け」

「お兄に保健体育とか教えられるよ、最低だなお前」


兄に向かってお前って……


「体育は……マジで必要かもしれない」


サッカーやテニスをした事はないだろう。

俺は輝夜に、今までやった事のある、遊びとか、ゲーム、行った事のある場所、遊戯施設や公共の施設など、食べに行った場所も書いてもらった。


「麻雀、囲碁、将棋って。温泉も行ったの?ゴルフってなんだよ。パターゴルフと卓球?歩こう会」


高齢者の趣味のようなリストだ。


「商工会の皆と日帰り温泉ツアーに行った。ゴルフは地主の阿部さんに連れて行ってもらった」


逆に俺はゴルフなんてやった事ないぞと思った。


「分かった。商工会メンバーと行かないような場所へ行こう」

「お兄ちゃんちょっと待って、お兄が連れて行こうって思ってる場所に、輝夜ちゃんが行きたいかどうか分からないじゃん。ただの押しつけはよくない!」


「私は行ったことのない場所に行ってみたいと思う。けれどたいていの場所はネットで行けると知っている」

「だよね。ほら見ろ」


莉子に言われて確かにそうだと反省した。輝夜が連れて行って喜びそうな場所はいったいどこだろう。

彼女を家に送って、帰りに夜空を見ながら考えた。


「俺、まるでデートプラン考えてるみたいじゃねーか」


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三月も終わる。

もう東京へ戻らなければならないから、少し遠くまでドライブに行こうと輝夜を誘った。

やはり、何度考えても、俺は輝夜の事が好きだという結論にたどり着く。

全く。すっかり。しんから。惚れている。


「輝夜の家はお母さんも一緒に住むことになったの?」

「そうだ。商店街の町おこしセンターの建物が老朽化したから、そこを改築して事業を始める」

「何それ、センター買い取ったのか?」


「買い取った。美幸は竹籠を編むのが得意だ。死んだお婆さんの遺伝だな」


穴ぼこだらけの家も修繕して、ちゃんと住めるようにするという。輝夜は十代で起業家として成功している。

「なんか、俺、すげぇ置いて行かれてる気がする」

「大丈夫だ。マップはすべて頭に入っている。ここの建物で合っているはずだ」


輝夜とやって来たのは延暦寺だった。比叡山の山頂にある寺だ。

俺が考えていた、水族館や、お洒落カフェは輝夜の行きたい所ではなかった。輝夜は社寺仏閣に行きたいと言った。

ドライブがてら、実家の車を借りてやって来た。かなり高度が高いせいで、山頂は極寒だった。

そして今、二人で写経しようとしている。寒さに耐えながら、正座しての写経はまさに修行そのもの。苦行とはよく言ったもんだと思った。


やっと休憩できる喫茶店に入った。暖房のありがたみを噛み締めた。ラテアートなのか、梵字が書かれたホット抹茶ラテを飲みながら下界を見下ろす。


「琵琶湖が見える」

「そうだな。そして雪も降っている」

「綺麗だな」

「そして、しもやけになりそうだ」


輝夜はそれでも嬉しそうだった。

良かった。


「あのさ、受かった前提で言うけど、高認取れたら即、受験する大学に願書送らなきゃいけない」


だが、輝夜は大学へ行くのだろうか?最終学歴はやはり大学の方がいいだろう。彼女ならトップの大学へ入れると思う。


「輝夜なら日本の大学の中でも最難関大学も夢じゃないと思う。目指してみるのもいいかと思う。将来何になりたいとか、ある?」


早くに自分の進路を決める事は重要だ。目標を持って進んだ方が、人生うまくいく……はず。


「実門。私は行くところを決めている」

「え?」

「アメリカの短期大学に入って、3年次に単位ごと4年制大学に編入するルートをとる。マサチューセッツ大学だ」

「……マサ!」


マジかよ。


「アメリカじゃないか。おまっ……マジか……」


高卒認定で行けんのか?俺はスマホで検索する。


「実門。調べたし、問い合わせた。必要な試験もたくさんあるけどやってみたいと思う」


俺には無理だ。

でも、輝夜ならできる気がした。


「もしかして、NASAに行って月に行く夢を実現しようとしてる?」

「ああ。実門も宇宙飛行士になるのが夢だったんだろう?私も同じ夢を見ている」


いや、俺には無理だ。


「そうか。なんか輝夜ならできそうな気がするな」


俺はやはり彼女に置いていかれるんだろう。追いつけない自分が悔しい。けれど、彼女を応援したいし支えたいと思った。




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