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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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石上は二人で話がしたいからと、輝夜を連れ出した。彼は前世の話をしたいといっていた。輝夜は筍の皮をむきながら、庭で彼の話を聞くことにする。


「私は、自分が前世の運命を辿っているのではないかと考えている」


石上は輝夜と同じように、訳も分からずにこの時代に転生してしまったのだ。きっとこの世に転生し、彼はかなり苦労したんだと思う。だからこそ、その謎を解明しようとしているのだろう。


「そうか」


石上は筍の皮を一気に剥く方法を思いついたようだ。なかなか手際がいい。彼は続けた。


「私は、籠から落ちるという事故で死んでしまった。前世に心残りがあった。記憶のない者は皆、天寿を全うした。心残りはなかったと思う」

「何が言いたい」

「同じ運命を辿りたくはない」

「前世のように石上は命を落とすと思っているのか?」

「ああ」

「私は我々が同じ運命を辿るとは思わぬ。美幸は女だし、実門は天皇ではない。翁も媼も死んでいる。物語のかぐや姫とは違っている事もたくさんある。そもそも月には生命体がいないとされている」


現世で物語が繰り返されているとしたら、五人の貴族が輝夜に求婚してくるはずだ。その気配はない。


「……ならばいいのだが」


「あの時は、求婚してきた者たちに無理難題を吹っかけたが、今はそんな事はしていない。だから石上は死なない」


フッと笑った石上は深い目の色で輝夜を見つめた。


「確かに、俺は刑事として生きている。今の生活に不満はない。このまま天寿を全うする可能性はあるな」


彼はそういうとエプロン代わりにしていたゴミ袋を膝の上から外し、立ち上がった。国家公務員である石上は、将来楽しい年金生活が待っているのだろう。長生きしたいのだなと思った。


「石上、未婚男性は六十五歳で死ぬとネットの記事で読んだ。長生きしたくば伴侶を見つけるべきだ」


輝夜は気の利いた助言を石上に与えた。彼が一瞬固まって、眉間にしわを寄せたのは見なかったことにする。


「君を殺そうとした犯罪者たちは組織ごと捕まえた。もう現代の輝夜の生活を脅かすものはいないだろう。安心して生きてくれ。私は帰るよ」


石上はそう言って輝夜のもとから去っていった。



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実門が帰って来て久しぶりに話をした。コーヒーが飲みたいと実門が言ったので、コンビニまで一緒に歩いた。輝夜の家はなぜか人でごった返している。人身売買オークションの事件のことを人前で話すのはどうかと思い、実門と二人で抜け出した。


「記憶にない事は話せないと言った。重要参考人の顔を確認してほしそうだった。けれど全く覚えていないので、役に立たなかった」


「それで石上刑事は納得したんだ」

「ああ。納得した」


実門は不思議そうに首をひねった。


「竹の子掘りを手伝ってくれた。皮を剥くのも上手だった」

「そうか……いい人だったんだな」


空返事のように聞こえる。実門に石上が前世で私の知り合いだったとは言えない。だから刑事としての石上のことしか話せなかった。

話は変わって、実門は輝夜の活躍をネットで観ていると言った。


「いつの間にか、この町で有名になったんだ。テレビにも出た。ケーブルテレビだ。ポスターのモデルにもなった。墓石だ」

「ははは、それは凄いな。めったに経験できない事だ」


実門はおかしそうに笑った。



「実門は大学を卒業したらなんになるんだ?」

「実はこっちの大学の大学院を受けるつもりだ」


そういえば、偏差値の高い国立大学に通っていると聞いていた。


「ならば来年は地元に戻ってくるのだな」

「受かればの話な」


そうか。実門は勉強が好きなんだなと思った。


「実門や石上は関東に住んでいる。美幸は四国だ。電車で行けば数時間で着くが、地図で見るとすごく遠いな。日本は広い」

「世界はもっと広い」

「宇宙はもっともっと広い」


「そうだ。人間なんて米粒みたいに小っちゃいよな……輝夜は、あっという間に、この町で有名人だ。けれど、もっと広い世界で活躍できる人間だと思う。外の世界を見てみたいとは思わない?」


「そうだな……」


実門の知らない月の世界を私は知っている。外の世界はどこを指すのだろう。残念ながら私の生きていた月の世界は、現代の文明では存在しない物とされている。本当に存在しないのか、そこを確かめたいと思うが、やり方が分からない。


「なんなら、輝夜なら国を動かすレベルにもなれると思う。けれど、何をするにも学歴というものが必要かもしれない。国のトップレベルになろうと思えばそれなりの教養が必要だ」


「何が言いたいのか分からないが、私は国を動かしたくなんてないぞ。それはとても面倒な気がする」


実門は、笑った。


「そうだな。輝夜は好きな事をやって、皆を笑顔にさせている。それができれば十分満足だよな」


実門は私にもっと違う世界をみろと言っているのだろうか。学校に行けと言っているのか。


「学歴は必要か?実門が通っている大学というところに行ったことがないから、私はよく分からない。けれど知らない事を教えてくれる教師がいるのは羨ましい」


「この町にいる人たち以外にも、輝夜と同年代の女の子たちもいる。勉強もだけど、サークルに入って仲間と遊んだり、部活してスポーツに没頭したり、起業したり。恋をしたり……まだ社会人でない責任を猶予されている時期を、自由に過ごしている場所だ。親の加護のもとだけどな」


私にはよく分からない場所だと思った。自由に過ごす猶予を与えられる場所。


「高等学校認定試験を受けろと言っていたな」


「ああ。高認な。合格者は、国、公、私立のどの大学でも受験でき、就職や各種の資格試験も受けられる。出願は四月だ。試験は夏。今からでも間に合う」


「分かった。調べてみる」

「親が見つかったんだ。相談してみろ。輝夜はまだ十代だ。今から学生になっても遅くはないよ」


実門はコンビニでカップ麺とコーヒーを買った。私にスポーツドリンクを買ってくれた。一本私に投げてよこす。


「カップ麺が欲しかったのか?」

「いや、なんか思い出して……」


公園のベンチに二人で座った。実門は私のペットボトルを取って、蓋を開けて渡してくれた。

なぜ開けたのか不思議だ。自分が飲みたかったのかと思ったがそうではないようだ。たまに人が謎の行動に出るが、そのほとんどは親切でしている事だというのを私は知っている。だからきっと実門も親切で蓋を開けたのだろうと思った。


「昔の動画でさ、カップ麺を宇宙に持っていって宇宙飛行士が食べるっていうCMがあったんだ。俺らが生まれるずっと前のテレビCMなんだけど」


「うん」


「宇宙飛行士が窓から宇宙を見ながらカップ麺を食べるんだ。宇宙船内は暗くて、窓の外の宇宙は輝いてる。それがさ、めちゃくちゃかっこよくて。ネットで観たそのCMの影響で、俺、宇宙飛行士に憧れた」


「カップ麺を無重力で食べるなんて、なかなかの猛者だな。どうやったんだ」

「ああ。汁なしの固形の麺だ……そこ?」

「わかった」


「まぁ、何が言いたいかと言うとだな。大学院は航空宇宙工学科を受けようと思ってる。俺の夢は宇宙飛行士だ。無理ならそれに携わる仕事に就きたい」


「そうだったのか。確かに実門の部屋には宇宙の漫画と女の裸の漫画がたくさんあった。宇宙飛行士が夢だったんだな」

「ま……あ、前にも言ってたけど、輝夜が本気でNASAに行きたいと思っているなら、チャレンジできるよ。まずは高認だってこと」


実門は咳払いをした。


「裸の漫画は、俺の物じゃない」

「そうなんだな。誰の物だ」

「……親父のじゃないかな?」

「そうなんだな」


宇宙に行くには高認か……私はドリンクを飲んだ。そして、まだ明るい空を見上げた。



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