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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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実門は輝夜の家に防犯対策がなされたと同時に、「アルバイトがある」といい下宿へ帰ってしまった。


またすぐに春休みに入るから帰ってくるよ、と私の頭をクシャっと撫でた。学生というのは、暇なのか忙しいのかよく分からないなと私は思った。

実門が傍にいるのが当たり前になっていたから寂しく感じたが、そんなことは言ってられないほど、私の生活は忙しくなった。



輝夜は年明け早々新春書初め大会に参加していた。

なんやかんやで、商店街の人気者になっていた私に、「炭と筆で字を書く大会に参加してほしい」と、商工会の会長から頼まれたのだ。


『朝に紅顔有りて夕べには白骨と為る』


「え、なにこれ、意味は分かんないけど、なんかオドロオドロしい」


「元気のよい紅顔の少年が、不意に死んで骨になってしまうくらい、人生は無常で人の生死は全く予想も出来ないということだ」


「いやいや、新年から縁起が悪すぎだろう。輝夜ちゃん、もうちょっと、なんかおめでたい言葉を書いてよ」

まったく注文が多い。

『家内安全、大願成就、鳳鳴朝陽、勇往邁進、先手必勝、一攫千金、無病息災……千客万来』皆が喜びそうなことを、一気に書きまくった。


通行人たちが、「なんかご利益がありそう」だと私の書をこぞって欲しがった。


私は商工会の打ち上げに参加した。商工会青年部の倉持が私のグラスにバヤリスオレンジを注いでいた。


「輝夜さん、今年の書初め大会は貴方のおかげで盛り上がった。過去に類を見ない盛況ぶりでみんな喜んでるよ。本当にありがとう」


瞳を潤ませて、感謝している。そこまでありがたがられるほどの事をしていないとは思うが。

初めて倉持を紹介された時に、「ああ、来たな」と思った。


たぶんこやつは庫持皇子くらもちのみこだろう。彼には前世で「蓬莱の玉の枝」を取ってくるように言った。彼は渡航を偽装し、偽物を職人たちに作らせ、報酬を踏み倒したうえに、彼らを逆恨みし仕置きした。

酷い男だと思うだろうが、正直今となっては、あるかどうかもわからない蓬莱山へ行くように命じた自分が悪かったと思っている。彼はその偽装の為に三年も身を隠していたのだ。忍耐強いというか、気が長いというか。普通は私を諦めるだろうと思うほどの月日だ。


「倉持、そなたと結婚はできないが、できるだけ願いに添えるように努力する」

「け、結婚?逆プロポーズされてるの?俺」


いや、できないと言っているんだが。


「結婚とかは、まだ考えてないけど。輝夜ちゃんと一緒に、商店街を、この町をもっと活気づけたいという、熱い思いはあるんだ」


倉持は青年部の会長で、この商店街で新しい特産品を作り出そうと試行錯誤していた。



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さびれた商店街に、一風変わった若い娘が彗星のごとく現れた。竹林に住んでいた老婆の孫である。老婆は親族がいないといわれていたが、ひょっこりと突然帰ってきたのが孫の輝夜だった。

愛らしい容姿に、変わった話し方。若者とは思えない古風ないでたち。彼女の個性は商店街のうるさい老人たちを一瞬で魅了した。


輝夜にある種のカリスマ性を感じ取った倉持は、「この子を町の宣伝に使わずしてどうする」と思った。ラッキーなことに彼女は今仕事をしていないという。


その後、商店街の店主や商工会のメンバーを集め、輝夜を交えて、何日も特産品についての話し合いが行われた。


「何か売れる物を思いつかない?この町らしい、特産品なるような物」

「竹の籠はどうだ?媼が作ったものがたくさん家にある」


彼女の家の納屋には、細めのひごを使い丁寧に編みこんだ竹製の籠がたくさんあった。お婆さんが生前、この竹藪でやることと言ったら、竹を利用し竹製品を制作する事くらいだっただろう。


「こんな古臭い物売れるわけがないぞ」

「丈夫だし、なかなかいい物ではあるけどね」


商店街の重鎮たちは、あまりいい顔をしなかった。



検索してみると、この竹で編まれた籠は、弁当箱として高値でネット販売されている。試しに数個売りに出して様子を見る事になった。


「五百円とか千円じゃなくて、ガンと五千円とかで売る。中途半端な値段は嫌だ」

「輝夜ちゃん、それはちょっと高すぎじゃない?」


半信半疑で、輝夜の設定した金額で売ってみることにした。

まさかの即日完売だった。

しなやかで丈夫な竹のお弁当箱は、軽くて通気性がよく、内部が蒸れにくいので蓋を開ける時まで、食べ物を美味しく保存できる。


輝夜の祖母が作ったものは、他の竹の弁当箱よりも網目が細かく、丁寧な作りだった。


「輝夜ちゃん。新しくこれで商売をしないか?仕事になるし、うまくいけば多くの利益を得ることができる」


倉持は顔を輝かせて輝夜にそう提案した。

竹の弁当箱は良い商売になる。ネットで売ればコストも抑えられる。全国の人にこの町の事を知ってもらえる良い機会になる。輝夜も儲かり町も活気づく。どちらにとってもwin-winだ。


結果、輝夜の竹製品を地元の特産品として売り出す準備が始まった。

空いている店舗を利用し、竹籠編み教室を開催した。もちろん、講師は輝夜だ。

何より輝夜は吸収力が凄いので、一夜にして名人級の籠編み技術を身に付けた。輝夜が竹ひごの編み方を皆に教えた。

竹の籠作りは地域の老人会の人たちを中心に、暇なお年寄りが趣味として楽しんだ。良い品が出来上がれば、こちらが買い取る方式をとると、お小遣い稼ぎにマンパワーが炸裂した。


市役所の広報課や観光課の人も交えて、話は大きいものとなり、輝夜の事業に予算が付いた。

広報課の協力のもと、インターネットで町の特産品として広告を打ち、ホームページの写真のモデルは輝夜が務めた。


出来上がったたくさんの籠を『輝夜印の竹製品』として贈答用の箱の代わりに使用すると、籠の付加価値も加わり、菓子や、そば、酒が倍の値段で売れるようになった。商店街の店主たちも大喜びだ。

あれよあれよと売れに売れ、商店街も活気づき、輝夜印の竹製品は商売として成功した。輝夜は『株式会社輝夜印』の社長となった。


そんなこんなで輝夜は忙しく働き、あっという間に季節は春になろうとしていた。


-------------------------


なんだか知らない間に地元で輝夜ブームが巻き起こっている。

実門は一人暮らしのアパートに帰ってから、地元のニュースをネットで探しては読むようになった。

右も左も分からなかった彼女が、いつの間にか周囲を巻き込んで町の活性化に貢献していた。


「あいつ社長になってんじゃん……」


中卒だとダメなのかと質問されたことを思い出した。

駄目じゃない事を、自ら証明しやがった。皮肉な笑いが漏れた。


輝夜は正月に書初め大会で優勝したらしく、その時にもらったらしい米三十キロと地酒を実家に持ってきた。未成年だから飲めないのでと言って輝夜が持ってきたと母が言っていた。すき焼きのお礼らしい。


俺のはないのか? 俺には礼はないのかと少し腹が立った。


新しくスマホを手に入れたからと、莉子とラインを交換したみたいだ。その他にも新しくできた友達たちともラインを交換しているらしい。商工会の人や、商店街の店主たちもその仲間に入っていた。


もちろん、俺が一番最初に輝夜とラインを交換していたが、なんとなく用事もないのにラインするのをためらってしまい、こっちに帰ってきてから連絡を取っていなかった。


俺は何をしているのかと言えば、大学へ行ってバイトに行って。友達と朝まで酒を飲んでくだらない話をする。ゲームばかりして一日過ごしていることもある。まったく面白くもなんともない日常を過ごしていた。


輝夜の目覚ましい活躍を見ると、自分がものすごくちっぽけな人間に思えてくる。



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