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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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「違う、キウイの上に白餡を乗せるんじゃなくて、白餡で包むんだ」

「なんで餡子で包まにゃならん。水っぽくなるじゃろ」

「つべこべ言わずに包め」

「はいはい。それで白玉粉の生地で包むんだな」

「輝夜ちゃん、今、白餡がないから粒餡でいいかい」

「せめてこし餡にして、いや、もう粒餡でいい」


私が老舗の和菓子屋で無理やりフルーツ大福を作らせていたら、そこに雄太がやってきた。雄太はこの和菓子屋のじいさんの孫だった。


「おい輝夜、じいちゃんに無茶させるなよ。変わらぬ味が自慢の店なんだから」


私は雄太にさっき作ったイチゴ粒餡大福と、キウイ粒餡大福を試食させた。


「うわっ!なにこれ旨い」

「旨いだろ」

「いやー新メニューじゃな。輝夜の大福じゃ。売り出そう」

「おい、じいちゃん老舗の味はいいのかよ」

「んなもん、今と昔じゃ、今の小豆の方が旨いに決まっとるじゃろう。品種改良されて豆も味が良くなってる。変わらぬ味が一番まずい事なんて何十年も前から知ってるわい」


そんなこんなで和菓子屋の前にちょっとした人だかりができていた。



「輝夜ちゃーーーーん!」


人混みをかき分けて山田石材店の石蔵が走ってくる。


「久しぶりだな石造」

「家に行ったけど、ここんとこ留守だったみたいだし心配してたんだ」

「ちょっと徳島に行っていた」

「なんで徳島?ま、いいけど。新しくうちのポスター出来上がったから持って行こうと思ってさ」


そう言うとポスターを私の前に差し出した。それは山田に頼まれて写真のモデルになったものだった。私が白装束で頭に三角の白い布をつけ墓石の前で笑っている写真だ。『ご先祖様も大喜び』と書いてある。


それがポスターになったらしい。私は色々と世話になった石造の為にモデルを引き受けていた。まあ、よく分からないが、これで満足してくれるなら良いだろう。


「なんかすごく好評でさ、このポスター欲しさに墓石売れまくってんだよ」


お礼に何かしたいと石造がニコニコしながら言ってきた。


「それなら、うちの防犯対策をしてほしい」


詳しく話をしてみると、知り合いの工務店に頼んですぐにでも、鍵とセンサーライトを取り付けてくれると話が進んだ。雨戸もついでに見てくれるらしい。請求はしてもらってかまわないと言ったが、「お礼だからいらない」と石造に断られた。

そんなこんなで話はとんとん拍子に進んだ。

そのまま工務店のおじさんの車に乗って私は家に戻ってきた。


「いつの間に工務店に知り合いができたんだ?」


家に帰って家の電話で、実門に防犯対策が何とかなりそうだと報告した。専門家の方が安心だし、それはよかったなと言ってくれた。

二時に実門は私を迎えに来てくれた。家の車を借りたらしく、これで電気屋巡りができる。目当ての物を購入し、ネット回線の工事の日を決めた。


「やればできるものだなぁ」


実門は自分に感心していた。年末だとはいえ、今日が平日だったことが良かったようだ。


「食料を買いに行けなかったから、今うちには大福しかない」


「ははは、そうだな。ついでに大型ショッピングモールによるか。車があるうちに、大きい物とか重い物とか買っといたら?」

「わかった」

「俺、布団買うわ」


どうも媪の使っていた布団で眠るのが嫌だったらしい実門は、自分専用に布団を買うと言い出した。それならちょっと良い布団を買って、今後は私が使えばいい。あの家は隙間風も多く入る。越冬のための準備は必要だろう。。弾力性のあるマットレスと羽毛布団を買う事にした。


-------------------------


「実門?実門じゃん。こっちに帰ってきてたの?うわっ、ひっさしぶり」


実門の友達らしい者たちに声をかけられた。高校の同級生だという。


「お前、いつの間にこんなに可愛い彼女作ってんの?まじ、可愛すぎ。聞いてないし」

「うっせ、邪魔すんなよ」


実門はなぜか照れている。彼女ではないのだが、そこを否定しないのか、と思っていると、連れの中にいた女の子が私に話しかけてきた。


「実門君の彼女さんですか?私高校の時に実門君と同じ部活だったんです。山本美湖って言います」


急に自己紹介されたので私は少し驚いた。久しぶりに会ったのであれば実門と話をすればいいのに、わざわざ私に話しかけてくるとは思わなかった。


「あ、輝夜と申す」

「え、なに?申す?武士なの、うけるぅぅぅ!ちょ、マジ顔面国宝過ぎてハオ可愛いんだけど。えっとごめんね。緊張してるのかな?確かに若そうだよね。純欲メイク透明感エグい、もしかしてJKだったりする?」


もしや彼女は外国人かもしれない。私には理解不能な話し言葉だ。試しに英語で話してみる。


「I can't understand the Japanese you speak. Your skin gets dry and the powder foundation flakes off」


ガハハハっと、実門の友人が笑い出した。

『私はあなたの日本語が理解できません』と私は言った。

メイクの話をしているようだったので、『乾燥してあなたの肌は粉が吹いている』とも付け足した。


「え、なに?なに、彼女は帰国子女なの?棚やん、彼女なんて言ったの」


さっきの女の子が、大笑いしている棚やんという友人に聞いた。


「輝夜、ストップ。アホだけど、悪い奴らじゃないから」


実門は私の英語を理解したらしい。


「面白いな、輝夜ちゃん。初めまして、俺、棚田です。実門とは腐れ縁ってか、大学も一緒で仲良くしてます。よろしくね」


私は空気を読んだ。実門は同級生たちと久しぶりに会ったので、彼らと楽しんだほうが良さそうだ。空気は吸うものであり、読むものではないが。日本語の進化も止まらないようだ。女の子の使う言葉がわかりづらかった。私はまた新しく言葉を覚えなければと思った。


「実門、積もる話もあるだろうから、後は友達と遊ぶか?」

「いや、遊ばねーし」


「また連絡するわ」と友人たちに言って、実門は私を連れてショッピングモールを後にした。



-------------------------



夜八時頃、実門は私の家へやってきた。

棚やんたちとモールで会ったから棚やんの家に泊まると親には言って出てきたらしい。

私はもう食事も入浴も済ませて、新しく買った羽毛布団の上で、スマホをいじっていた。


「まさに天国。言う事なし。今幸せを満喫している」


私はとても満足だった。本当は実門が使うはずの羽毛布団だったが、その寝心地は今まで経験したことないような素晴らしい物だった。


「気に入った?布団」

「ああ。実門も寝てみるといい。ふわっふわだ」

「俺、シャワー借りていい?風邪ひきそうだったから風呂だけまだなんだ。んで、スマホの使い方わかる?」

「大丈夫。問題ない」


私はご機嫌で答えた。実門はその様子をみて、「良かったな」とほっこり笑った。



「輝夜はいつ英語を覚えたんだ?」

「テレビがずっと英語で放送していた。最初の一か月は英語で見るしかなかったから覚えた」


なぜか衛星放送になっていたらしい。私はリモコンの使い方を理解していなかった。


「お前、何でもありだな」

「実門も棚田という友達も、英語を理解しているようだったな」

「ああ。俺らは受験のために勉強した努力の人だ。お前は特殊だ」


実門は私の寝ている羽毛布団の上にダイブした。


「いいな、新しい布団。ぐっすり眠れそう、睡眠は大事だ」

「輝夜が買ったんだから、これは輝夜が使えばいい。俺はばあさまの布団で寝るよ」


そう言うと実門はごろごろと転がり、もう一組敷いてある布団の上へ乗り上げた。


「実門は高校時代何の部活をしていたんだ?」

「俺、弓道。全国まで行ったぞ」

「やはり、弓か。あの美湖も弓道部だったんだな。二人は付き合っていたのか?」

「ははっ、んなわけねえよ。告白はされたけど、そもそもタイプじゃない」

「実門にも好みのタイプがあるんだな」

「普通あるだろう。俺の高校は進学校だったけど、あいつが一番頭が悪かったな。まぁ、美湖は面白いやつだったから人気はあったかな」


「棚田は?」

「あいつは頭良かったな……輝夜はどんな奴が好み?」


「そうだな。結婚は家同士が決めるもので当人の意見はあまり通らないものだ。ゆえに、好きだとかそういうのは関係ない。個人的な感情が意味をなさなければ、好みを持つことは虚しいだけだ」

「その若さで、全てを悟っているみたいな言い方はすごいぞ」

「ここへ来たとき、記憶をなくしていてこの家にたどり着いた。当時、そこそこお金持ちの男に求婚されて結婚すれば、何とか生きて行けるだろうと思っていた」


「まじかよ。それって金持ちなら誰でもいいって事?阿部さんとか六十過ぎた爺さんでもいいのか?」

「生きるか死ぬかという瀬戸際で、愛だの恋だの言っていられぬという事だ」

「なんかお前が言うと、現実味を帯びてきて恐ろしく感じるな」

「今は、自分の生活の面倒は自分で見られる。だから、誰かと結婚して養ってもらう必要はなくなった。いろんな事をやってみたいし、いろんな友を作りたい。これからの人生が楽しみだ」


「そうか、やる気に満ち溢れた輝夜だな」


「そう。みんなのおかげだ。実門にも世話になった、本当にありがとう」


私は自分がいつか月に帰るだろうと思っている。愛がある者との別れ程つらい物はない。

それならばいっそ、そういう感情を持たずに、ただ今までの生活が「幸せだった」「楽しかった」と記憶して現世から去りたいものだと思っていた。


「なんだよ、これからもいろいろ世話する予定だけど?」

「そうか、よろしく頼む」


ニコリと笑いあって二人は眠りについた。




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