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令和のかぐや姫  作者: おてんば松尾


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今は昔ではなく、今は現代。


何がどうなっているのか分からない。けれど、どういうわけか私はこの令和の日本に放り込まれた。転生したと言ってしまえばそうなのかもしれない。ただ、赤ん坊として生まれ直したわけではない。『大人』の姿で。いくつなのかは知らないけれど、いきなり大人の姿で転生したというのは、正直困った状況だ。


(それにしても……月の世界で死んだはずなんだよね、私)


以前は竹の中から出てきた赤ん坊だった。(おきな)(おうな)は良い人だったし、小金も持っていたから、何不自由なく暮らせた。だけど、今回は誰も助けてくれる人がいない。


気がついたら、ここにいた。


私、輝夜が今持っている物は、『天の羽衣』と『不死の薬』の二つ。このアイテムを使い、この世界でなんとか生き延びなければならない。


この『天の羽衣』は、身につけた者の心が正反対に変わるという効力がある。これが厄介なことに、使い方によっては善人が悪人になったり、生きようと思っている人が死のうと考えたりする場合がある。だから、迂闊には使えない。一度使えばその効果は数ヶ月続くけれど、性格を一生変えるようなことはできない。悪が善になるだけならまだいい。その逆バージョンに作用すると手に負えない。


『不死の薬』の方は……まあ、完全に死ななくなるわけではないけれど、病人をある程度元気にするくらいの効果はある。ただ、人には寿命というものがあるから、その時が来たら死ぬのが定めだ。死なずに生き続けることが、必ずしも良いことだとは思えない。


そんなことを考えながら、私の足は遠くに見える山の方へ向かっていた。


何故か、服装だけはこの時代の人が着ている同じような衣装だ。けれど、いかんせん今は冬。外にいると凍え死にそうだ。


死んだらまた新しく人生が始まるなら、それも悪くないかもしれない。


だが、誰かに助けてもらいたい。いくらなんでも寒すぎる。もしこの辺にいる知らない人に正直に事情を話したら、まず『頭のおかしい人』認定間違いなしだろう。そうなると、本当のことは言えない。


そもそも、自分がどうしてこういう事態になっているのか、私自身にも分からないのだから、どうしようもない。


先ほどから路頭に迷っているこの美少女――


つまり私の前世は『かぐや姫』だった。


-------------------------




どれくらい歩いただろう。


気がつくと山の中に入っていた。辺りは竹林だ。月が明るいとはいえ夜なので、あたりは暗い。かろうじて月に照らされて、道がうっすらと見える程度だった。


しばらく行くと、灯りがともっている家を発見した。


私は道に迷ったふりをして、とりあえずあそこに行ってみようと決めた。


トントン、トントン……


「どちらさま?」


四十代くらいのおばさんが出てきた。家の中には他に五人ほど人がいるのが見えた。


「まさか……まさか、あなた 輝夜(かぐや)ちゃん?」


名前を呼ばれて驚いた。この人が私を知っている?


「輝夜ちゃんよね。変わってない。昔のまんまだ!」


なぜか分からないけれど、「輝夜ちゃん」で合っている気がした。まあ、名前は合っている。


私はうなずいた。とにかく今は「なにちゃん」でもいいから、暖かい場所と食べ物が欲しかった。


そのおばさんに家に入れてもらい、中の様子をうかがった。


「よかった、よかった。知らせを聞いたのよね。もう、どうしようかと話し合っていたところなのよ」


「いやー、ほんとによかった」


そこにいた人たちは皆、心から安心した様子だった。


彼らの話を聞いてみると、この家に一人暮らしをしていたお婆さんが、一週間前に亡くなったということだった。


私は前世の記憶があるせいで、また(おうな)が死んでしまったんだと思い、悲しくて涙を流した。あんなに優しかった媼が死んでしまったなんて……聞けば翁ももういないらしかった。


そして、お婆さんの生前の写真という物を見せてもらった。


しかし、その写真の中のお婆さんは、竹取の翁の妻である媼ではなく、全くの別人だった。


だけど、今更涙は引っ込められない。仕方なく俯いたままその写真をじっと見つめた。行く場所がないのだから、とにかく話に流されておこうと、周りの人の説明に耳を傾けた。


以前、このお婆さんの娘さんが、子どもを連れてここに帰ってきたことがあるらしい。三カ月ほど滞在して、また出ていったようだ。お孫さんにあたる輝夜ちゃんは当時三歳。


それが十五年ほど前だというので、孫は現在十八歳になる。となれば私も今十八歳ということになるので、そういうことにしておいた。


娘さんとは連絡が取れず、お婆さんは病気でそのまま亡くなってしまったらしい。それが一週間前のことだ。


この家や土地、それに家財道具や預貯金(預貯金とはお金のことらしい)、大した額ではないが葬式代を差し引いて、私に渡されることになったという。


お婆さんと娘は仲が悪かったようで、娘のことは「勘当した」と、生前言っていたらしい。けれど、孫の輝夜のことは会えるものなら会いたいと、当時撮影した写真をずっと大切にしていたという。


ボロボロになった孫の写真を「変わってない。昔のまんまだ」と、先ほどのおばさんが見せてくれた。


なんてことだろう!写真の子と私は全く似ていない。どこが昔のまんまなんだ?


その写真には、目がぎょろりと大きく、栄養が行き届いていないように痩せていて、頬も下ぶくれではない、全く可愛くない幼児が映っていた。


食べるのに苦労していたのだろうか?幼いのに気の毒だ。


それにしても……もしかして、今の私はこんな顔をしているのだろうか?そういえば、自分の顔を確認していない。


私は急いで鏡の前へ行った。


平安時代の美人の条件は、額が広く、目が細く一重で切れ長、口が小さくおちょぼ口、頬がふっくらとして下ぶくれだ。


鏡に映った私は、美人の条件をまったく満たしていなかった。


私はショックのあまり、その場に崩れ落ちた。


『容姿の清らかで美しいことはこの世に類なく、家の中は暗い所がなく光に満ちています』


翁は私のことをそう言ってくれた。輝夜である私が、可愛くないはずがないのに。


最終手段は、結婚を申し込んできた殿方たちに世話になればいいと思っていたのに……こんなに不細工じゃ……無理だ!


誰も私に結婚の申し込みなんてしてこないだろう。


希望が失われた。


私は絶望の淵に立たされた。


私が一言も発していないにも関わらず、あれよあれよと話が進み、その夜、私はこの家を住居にすることとなったのだ。


目が覚めると、そこは現代の民家だった。


ああ、ここは月の世界ではない。前回いた地上の、同じ日本であっても、翁も媼もいない寂しい場所だ。私はガクリと肩を落とした。


けれど、かぐや姫だった時代と違って、ここの居心地は悪くない。寒くもないし、綿の入った布団もある。


確かに便利な物がたくさんある。


水は蛇口から出てくるらしく、わざわざ汲みに行かなくてもよい。


昨日来ていた人たちを見ていたら、火だって簡単に起こせるみたいだ。


厠《かわや》、つまりトイレに関しても言うまでも無い。


私は布団から起き上がり、洗面所へ向かった。


恐ろしいことに、そこには鏡がある。

見たくもない自分の顔と向き合わなければならない。けれど、顔を洗わないわけにはいかない。


仕方なく朝の身支度をした。


ガシャン!


その時、外で音がした。

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