ボイジャーの帰還
1977年。アメリカ航空宇宙局(NASA)は無人惑星探査機ボイジャーを打ち上げた。ボイジャーの中には地球文明の証拠となる様々な音が録音されたゴールデンレコードが搭載され、人々は未知との遭遇に期待して二度と戻らぬであろう旅人を見送った。
これは宇宙と言う未知なる深淵を往く小さな旅人の冒険譚が終わった日の話である。
モーリタリアの渇いた空に、突如として巨大な円盤が現れた。燃えるような光を発しながら静かに回るその姿は当初『UFO:ケルビム』の名で世界中に報道された。
ケルビムの出現から七二時間後。固唾を呑んで世界中が見守る中、ケルビムは何の前触れもなく声明を発した。それは地球上のどのような言語でもなく、しかし地球上のどのような人間も意味を理解することが出来る声だった。ひょっとしたら全ての生命に呼びかけるものであったかもしれない。
『第七水準文明の皆様。驚かせしてしまい申し訳ございません。
本通知は銀河団共通法第一〇九九条に基づくものです。
貴方達には現在、多くの銀河団法違反が確認されています。
以下が貴方達の罪状です。
第一に、貴方達が『ボイジャー』と名付けた原始的な人工物の宇宙空間不法投棄罪になります。
それに伴い、プルトニウムを用いた危険電源の無申告輸送、同じく、申告のない音声データの無断散布による文化的公害、『友好的』『知的』と言う自己申告による虚偽、宇宙空間の景観を破壊する環境に対する罪も確認されています。
現在、この惑星には銀河団共通弁護士資格を持つ知的生命体が発生しておらず、また罪状に対する証拠が明白であることから銀河団法に基づいた処罰をここに実行します。
二度とこのようなことがないよう、今後は銀河団法に基づいた宇宙進出を心掛けるようにお願いします。』
多くの人々の困惑を余所に、ケルビムの下部からゆっくりと何かが下りてくる。モーリタニアの砂漠に舞い降りたのは、懐かしきボイジャー1号2号の姿であった。
当時の人類の叡智も、宇宙人にとってはゴミでしかなかった。人々はその事実に落胆しながらケルビムが空に消えていくのを見送った。
「…………所で、処罰って何されたんだ?」
ケルビムは確かに『処罰を実行する』と言った。だが、地球には何も変化はない。もしや、記憶すら操作されているのではないかと人々は疑心暗鬼に陥ったが、各国の軍事部上層や首脳達は処罰の内容を直に知ることになった。
一万〇一七三発。
公開されているもの、秘匿されていたもの、地球上から全ての核兵器が消失していたなんて言えるわけがないのだが。




