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黙視録 第1章  作者: 澄川あや


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第2節

このシリーズはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。読み物としてお楽しみください。

 男は公園へ車を走らせる。敷地は広いが大した遊具のない公園を目指す。駐車場へ車を停め、歩いて公園に足を踏み入れる。ドッグランは禁止だが、ドッグランが出来そうな広い芝生が広がっていた。遊歩道沿いに子供連れの母親が休めるような円形の椅子と砂場の真ん中に小さな山のようなコンクリートの物体があり、未就学児の小さな子どもが数人遊んでいた。

 男は自分の娘と息子を探した。彼らは芝生で走っていたようで、男の姿を見つけると駆け寄った。男はそれを見ながら人の姿をした犬だと思った。面倒くさいと思いながら腰を落とし、頭を撫でる。

「パパ、どうしたの? お仕事は?」

 娘の姿をした犬が尻尾を振りながら聞いてきた。血のせいだろうか、妻と同じ事をいうと忌々しく思った。息子の姿をした子犬は俺の背中をよじ登る。面倒くさくなり背中の子犬を振り落とした。子犬は芝生に転がり、それでも何が楽しいのか笑った。

 刹那、男は強い視線を感じ振り返った。


 誰もいない?

 おかしい。あんなに強い視線を感じたのに。


 男はもう一度素早く振り返った。が、やはりそこには誰もいなかった。男は不思議に思いながら子どもの方に意識を戻す。


「今日のお仕事はなくなったんだ。だから、2人を迎えに来たんだ」

「じゃあ、ママと一緒にお出かけしようよ!」

 息子の言葉に男は昏い笑みを浮かべる。

「ママは寝てるって。3人でドライブに行こうか?」

「え〜。私、ショッピングモールでママにお土産買ってあげたい」

「じゃあ、なんか買ってドライブ行こうか」

「どうして? ママ体調悪いなら心配じゃないの?」

 娘の言葉に苛立ち、一丁前に話すな! あの女ならもう死んでんだよ! と怒鳴りたい気持ちを殺し、男は意識して優しい声で答えた。

「静かに寝たいんだって。だから、静かにゆっくりさせてあげよう?」

 娘と息子は納得したのか持ってきた公園セットを取りに行き、男のもとに帰ってきた。


「パパの車見つけた!」

 息子が男のワゴン車を指さし、危ないから走らない! と娘に手を掴まれ怒られていた。

「姉ちゃん、ママみたい」

 うるさいんだよと息子は娘に手を握られ文句を言っていたが、娘も危ないからルールは守りなさいと返していた。


 女っていうのは、どうしてこんなに口うるさいんだろうか。男は喚き立てる妻の姿を思い出した。

 うるさい。面倒くさい。


「ねえ、パパ。ちゃんとお買い物バッグ持ってる? 一度、お家に帰って取ってくる?」

 男の苛立ちが最高潮に達し、瞬間的に口を塞ぎたくなった。


 !!


 まただ、また視線を感じる!

 男はバッと後ろを振り返るが、やはり誰もいなかった。

 男は深呼吸をし、無ければ買えば良いし、スマホと財布があるから心配せずに乗りなさいとズボンのポケットを叩いた。そしてスライドドアを開け、シートに座らせた。

「パパのお仕事道具いっぱいだね。これ、本当は座れるって本当?」

「危ないから触っちゃダメなんだよ!」

「ぼくだって知ってるよ! 姉ちゃんうるさい」

 子どもの高い声は頭によく響いた。ストレス以外の何物でもない。男は乱暴に車を発進させた。

 すぐにショッピングモールが見えた。モールの3階にある駐車場に停めた。夏休みの昼前は車が多く、店舗入り口からは遠い所に停める羽目になった。

 ショッピングモールはそれなりに人はいたが、混んでいるという程ではなかった。まだお昼は食べなくてもいいと言うので、2人をゲームセンターでコインがなくなるまで遊ばせ、パン屋でお土産のパンを買い、併設されているファミレスに入った。フードコートが座れそうになかったのと、純粋にゆっくりしたかった。男はスマホを確認する。

 彼女から今日は会いに来てくれるのかとLINEが入っていた。男はその予定と返すと、ダーリン嬉しい! お店で待ってるね! と即座に返信された。

「俺もおまえだけだよ」

 そうだ。愛の証を示さねばならない。誰よりも大事だと伝わったなら、名前以外、苗字も住所も素顔も教えてくれるに違いない。

 すべて壊してもいい。


 昼ごはんを食べ終わったら予定通りドライブに行くことになった。ドライブといっても、ここから1時間くらい南にある飛行場に行き、離着陸を眺めるという楽しいのか楽しくないのかよくわからない日程になった。

 車に着き、ジュニアシートを締めた時に息子が慌てたようにUFOキャッチャーで取ってもらった景品がないと騒ぎ始めた。 


 子どもを連れてまたファミレスに戻るのかと思うとしんどい。ひとりで行けば片道5分もかからないから、エアコンとペットボトルを渡しておけば夏とはいえ充分だろう。

「パパが取りに行くから、ここで待ってな。すぐ帰ってくる」

 男はエアコンをつけ、麦茶のボトルを渡してドアを閉めた。

お読み下さってありがとうございます。

更新は来年以降になる予定でしたが、本日更新させていただきました。

次回更新で完結します。

本文はもう書き終えておりますので、もう少し時間を置いて見直しをした後、恐らく本日の夜投稿する予定です。

ただ、ひとつお伝えさせてください。

第3節は非常に残酷かつ暴力的な描写があります。

このお話は人として赦せないことばかりです。けれど、書くことで彼らが救われることが少しでもあればと願っています。

それでは、また後ほどお目にかかれる事を祈って。

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