サンプル
ゴールの片鱗が見えた時は、得てして一刻も早くゴールテープを掴むべく、行動は加速するというもの。ポロンも全く例外ではなく、アガルにも協力を仰ぎ、研究観察に猛進した。それこそ、食事や雑用など5分、10分。それ以外の時間は、自身が気づかず寝てしまうまで観察に没頭した。
そんな生活が1ヵ月が経過したある朝、「出来た!」遂に新種飼育について詳細にまとめられた研究観察レポートが完成したのだ。2人は疲れ切っていたが、そんなことよりも早く学校に行き、ギン先生に報告したくて仕方がなかった。途中からポロンのお母さんも応援してくれるようになり、このレポートの完成を喜んでくれた。親にとって、我が子の頑張りや成長は何より嬉しいのだ。母特製の朝食を食べて、2人は脱兎のごとく学校へ向かったのである。
その日の午後の生物クラブは、前回の報告会よりも更に緊張感に満ちたものだった。空気がピンと張りつめ、誰もが神経を集中させ、必死にペンを走らせる。ギン先生に至っては額に汗をかくほどだ。
以下報告
*私と、アガルで新種生物の飼育に関する食性、及び非認知性について約1か月間観察し続けました。その結果、Z星で飼育可能性のある動物は哺乳類と呼ばれている種が適切だという結論に至りました。
なぜかというと、他の種に比べて認知能力も高く、非認知能力に関しても同様に高いと考えられるからです。しかしまだ実際にはいないので、更なる観察を続ける場合、つまり次のステップに行く場合は、検体が必要となります。
その哺乳類の食性は摂取種類が多岐にわたります。Z星での適応種は肉食か雑食が適切です。植物を食べる哺乳類もいるのですが、Z星は植物は貴重な為、適切ではないからです。
「なるほど」皆がうなずきます
次に、検体の候補動物を発表します。3種用意しました。スライドを見ながらお聞きください。
アガルは手際よくスライドの準備に取りかかりました。
まずは「イヌ」と呼ばれる4足歩行の動物です。
スライドに犬の姿が映し出されると、室内がどよめいた。「おー!こんな生き物がいるのか!」
ポロンは続けます。こちらは雑食で非認知能力が高いと思われます。生息数も多いです。そして理由は分からないのですが、寿命以外で毎年相当の数が死んでいるというデータもあります。ですので、搾取には問題ありません。
続きまして、こちらです。イヌの次に映し出される映像に皆注目しています。
パッとスライドが変わり、そこに「ネコ」が映し出されました。
こちらも「イヌ」同様、4足歩行の哺乳類です。形は似ておりますが、肉食の動物です。選択理由は、イヌと同様、理由もわからず寿命前に死んでいる数が多いのです。なので搾取問題ない点で選びました。
次の3つ目は、私たちの最高のおすすめ哺乳類になります。ご覧ください、こちらです。
スライドが変わると、室内が一気にどよめいた。予想通りの反応にポロンとアガルは顔を見合わせながら思わず笑みがこぼれる。
そのスライドには人間が映し出されていた。
こちらは、「ヒト」と言います。なんと2足歩行の哺乳類です。食性は雑食です。認知、非認知能力のどちらも高く、先ほどの「イヌ」や「ネコ」の多くも「ヒト」が飼育しています。つまり「思考」もあると考えられます。さらに道具を使うようです。しかしその道具を使う理由の多くが非合理的でした。
「えー!思考するのか!」皆は驚きを隠せない。しかしポロンは冷静に「いや、あるかどうかはまだ分かりません。でも動物を飼育する際に思考は必ず必要となります。ですのでその部分はまだ仮説です。」と答えました。
そして何より、この「ヒト」は数が多いのです。おそらく80億以上は生息しているというデータも確認しました。なのでこちらも搾取には問題ないと考えます。
最後に、これら3種の哺乳類は、オスとメスがいて比較的繁殖も容易です。イヌやネコは6日くらいで子供産みます。ヒトの場合はちょっと長いですが33日で子供を生みます。
平均寿命がイヌとネコが約2年、ヒトは8年くらいです。
まず検体として採取する場合、それぞれ認知機能や非認知機能が備わったと予想されるオスの成体が良いかと思います。
以上です!ご清聴ありがとうございました。
鳴りやまない拍手の中で、ポロンはギン先生と握手を交わした。
「よくやった、ポロン。そしてアガル。君たちは私の誇りだ。この計画はきっとうまくいく。そうしたらこの星はずっと豊かになる。我々はそのスタートを切ったのだよ。さっそく検体搾取の準備に取り掛かろう。他にこの名誉を出し抜かれる前にな」そう言ってギン先生はスライドを見つめ直した。その大きな目の中の光は、生徒の成果を喜ぶというよりも、なにか別の事を思案しているようにも見えた。




