表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫黒の烏と銀の花嫁  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

05.次期長の務め

烏…影のお仕事をする人間

「烏」…カラス(鳥)

でご認識いただけますと幸いです。

「青龍皇国の皇子の他国での滞在日数は、平均して約ひと月ほど。玄武皇国にもそれくらいは滞在するかと思われます。皇宮での滞在を勧められましたが断り、街の高級宿を拠点とするようです」

「滞在は無期限とのこと。最上の部屋を貸し切るよう、王から通達がありました。これまでどおり、ひと月ほど滞在して帰国する可能性が高いですが、現状では皇子の気持ち次第といったところでしょう」

「わかった。引き続き頼む」

「了」


 颯懍ソンリェンは、部下たちの報告を記録し終えた後、両腕を上げる。ゴキッと耳障りな音がした。


「ふぅ」

「どうだ? 烏(影)たちの動きを把握し、取りまとめ、指示を出し、彼らの報告を集約する。長の仕事もなかなか大変だろう?」


 広い執務室には、颯懍ソンリェンの他にも数人がおり、皆が忙しく働いていた。そんな中、ひょっこりと顔を出したのは長、勝峰ションフォンだ。

 彼は、長として長年烏族をまとめ、率いてきた。仕事の質を向上させ、烏族の地位も押し上げた功労者でもある。

 そんな彼も、寄る年波には勝てず、数年前に後継者として颯懍ソンリェンを指名し、徐々に仕事を引き渡していた。今では、ほとんどの仕事は颯懍ソンリェンが行っており、よほどのことがない限りは楽隠居の身である。


「俺は、いち烏の方がいい」

「だろうなぁ」


 ニッと意地の悪い顔で笑う長を見て、颯懍ソンリェンは眉を顰める。


(わかっているなら、どうして次期長になんて指名したんだよ)


 長は、幼い頃に両親に捨てられた颯懍ソンリェン春燕チュンヤンを拾い、厳しく育て、一人前の烏にした。

 二人にとって、長は親代わりであり、大きな恩がある。それに報いるため、過酷な訓練にも耐え、食らいつき、一族の子どもより遅いスタートではあったが、立派な烏になったのだ。

 特に、颯懍ソンリェンは烏の仕事に向いていた。身体能力も高く、頭の回転も速い。状況を都度見極め、臨機応変に動けることは、この仕事をする上で大きな武器となる。また、仕事には「烏」を使うのだが、これが難しい。だが彼は、その扱いにも長けていた。


 「烏」は、非常に頭がいい鳥である。長期記憶力も高く、問題を解決する知能も持っている。烏族に使役されている「烏」たちは、その能力が更に磨かれ、子どもどころか大人並みの知力があった。

 烏として一人前になるためには、まずこの「烏」たちに認められる必要がある。互いを相棒とし、ともに仕事にあたることが必須だからだ。


 「烏」たちは、人の言葉を解する。そして、伝える手段も持っている。

 彼らは、人では入り込めない場所にも潜入し、人を油断させ、秘匿された情報を手に入れることができる。対象がどこに行こうが、逃すこともない。何故なら、彼らには翼があるから。空を駆ける者と地を駆ける者、勝負の差は歴然だ。


 「烏」たちが得た情報と、自分たちの得た情報を併せて報告する、それが烏の仕事だ。その情報は、人だけで収集したものよりも密度が濃く、また正確だった。

 「烏」たちを相棒として使役する。だから、情報収集や諜報能力に長けた一族として、烏族は他の追随を許さないのだ。


「ところで、花嫁とはちゃんと交流しておるのか?」

「……」


 これもわかっているくせに、あえて尋ねているのだ。嫌味以外の何物でもない。


春燕チュンヤンが言うには、皇女とは思えぬほど腰が低く、また働き者らしいな。ここへ来た次の日から働き始めたそうだぞ。慣れるまではゆっくりしておればよいのに」

「そう言いながらも、長もご自分の目で確かめられたのでしょう?」

「まぁな。当然のことだ」


 烏を名乗る者は、言葉だけに踊らされない。自ら確認できる場合は、必ずそうする。春燕チュンヤンに預けているとはいえ、長が自分の目で確かめないはずはなかった。


「器量よしで働き者、嫁には最適だ。そろそろお前にも相手が必要だろうと思っていたが、思わぬことで叶ったな」

「……人の嫁を勝手に決めないでください」

「だが、次期長には連れ合いが必要だ。それに、お前が烏としてもう一段階上に行くためにも、嫁の存在は必要不可欠なのだ。留守を任せられる、しっかり者の嫁がな」

「それは……そうですが」

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ