05.次期長の務め
烏…影のお仕事をする人間
「烏」…カラス(鳥)
でご認識いただけますと幸いです。
「青龍皇国の皇子の他国での滞在日数は、平均して約ひと月ほど。玄武皇国にもそれくらいは滞在するかと思われます。皇宮での滞在を勧められましたが断り、街の高級宿を拠点とするようです」
「滞在は無期限とのこと。最上の部屋を貸し切るよう、王から通達がありました。これまでどおり、ひと月ほど滞在して帰国する可能性が高いですが、現状では皇子の気持ち次第といったところでしょう」
「わかった。引き続き頼む」
「了」
颯懍は、部下たちの報告を記録し終えた後、両腕を上げる。ゴキッと耳障りな音がした。
「ふぅ」
「どうだ? 烏(影)たちの動きを把握し、取りまとめ、指示を出し、彼らの報告を集約する。長の仕事もなかなか大変だろう?」
広い執務室には、颯懍の他にも数人がおり、皆が忙しく働いていた。そんな中、ひょっこりと顔を出したのは長、勝峰だ。
彼は、長として長年烏族をまとめ、率いてきた。仕事の質を向上させ、烏族の地位も押し上げた功労者でもある。
そんな彼も、寄る年波には勝てず、数年前に後継者として颯懍を指名し、徐々に仕事を引き渡していた。今では、ほとんどの仕事は颯懍が行っており、よほどのことがない限りは楽隠居の身である。
「俺は、いち烏の方がいい」
「だろうなぁ」
ニッと意地の悪い顔で笑う長を見て、颯懍は眉を顰める。
(わかっているなら、どうして次期長になんて指名したんだよ)
長は、幼い頃に両親に捨てられた颯懍と春燕を拾い、厳しく育て、一人前の烏にした。
二人にとって、長は親代わりであり、大きな恩がある。それに報いるため、過酷な訓練にも耐え、食らいつき、一族の子どもより遅いスタートではあったが、立派な烏になったのだ。
特に、颯懍は烏の仕事に向いていた。身体能力も高く、頭の回転も速い。状況を都度見極め、臨機応変に動けることは、この仕事をする上で大きな武器となる。また、仕事には「烏」を使うのだが、これが難しい。だが彼は、その扱いにも長けていた。
「烏」は、非常に頭がいい鳥である。長期記憶力も高く、問題を解決する知能も持っている。烏族に使役されている「烏」たちは、その能力が更に磨かれ、子どもどころか大人並みの知力があった。
烏として一人前になるためには、まずこの「烏」たちに認められる必要がある。互いを相棒とし、ともに仕事にあたることが必須だからだ。
「烏」たちは、人の言葉を解する。そして、伝える手段も持っている。
彼らは、人では入り込めない場所にも潜入し、人を油断させ、秘匿された情報を手に入れることができる。対象がどこに行こうが、逃すこともない。何故なら、彼らには翼があるから。空を駆ける者と地を駆ける者、勝負の差は歴然だ。
「烏」たちが得た情報と、自分たちの得た情報を併せて報告する、それが烏の仕事だ。その情報は、人だけで収集したものよりも密度が濃く、また正確だった。
「烏」たちを相棒として使役する。だから、情報収集や諜報能力に長けた一族として、烏族は他の追随を許さないのだ。
「ところで、花嫁とはちゃんと交流しておるのか?」
「……」
これもわかっているくせに、あえて尋ねているのだ。嫌味以外の何物でもない。
「春燕が言うには、皇女とは思えぬほど腰が低く、また働き者らしいな。ここへ来た次の日から働き始めたそうだぞ。慣れるまではゆっくりしておればよいのに」
「そう言いながらも、長もご自分の目で確かめられたのでしょう?」
「まぁな。当然のことだ」
烏を名乗る者は、言葉だけに踊らされない。自ら確認できる場合は、必ずそうする。春燕に預けているとはいえ、長が自分の目で確かめないはずはなかった。
「器量よしで働き者、嫁には最適だ。そろそろお前にも相手が必要だろうと思っていたが、思わぬことで叶ったな」
「……人の嫁を勝手に決めないでください」
「だが、次期長には連れ合いが必要だ。それに、お前が烏としてもう一段階上に行くためにも、嫁の存在は必要不可欠なのだ。留守を任せられる、しっかり者の嫁がな」
「それは……そうですが」
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