表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫黒の烏と銀の花嫁  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/42

26-2.襲撃(2)

 *


「よっ……と」


 ここはどこだろう? 確かめたくても、暗闇で何も見えない。

 ただ、風に靡く葉擦れの音、時折聞こえるガサゴソと何かが動く音が聞こえ、ここが森の中であることが察せられた。

 明霞ミンシャは、ようやく身体を下ろされる。背中の感触から、木に寄りかからせているのだろう。


(男は、私を人質だと言った。哉藍セイラン殿下と引き換えって……)


 明霞ミンシャを返す代わりに、哉藍セイランを寄越せということだ。もちろん、拘束した状態で。

 その後は、考えなくてもわかる。


(第一皇子は、哉藍セイラン殿下を亡き者にしようとしている)


 哉藍セイランが、外遊で玄武皇国へ来ていることはわかっている。

 ならば、必ず烏族と接触しようとする。

 普通なら不可能だが、彼にはそれを可能にする能力がある。万が一、烏族と接触することに成功したなら、それだけでなく、青龍皇国に連れてくることができたなら……間違いなく、皇太子には哉藍セイランが指名されるだろう。

 第一皇子は、これを絶対に阻止せねばならない。


(だからといって、実の弟を殺そうとするなんて……)


 権力が絡めば、血の繋がりなど関係ない。むしろ、そのせいで血で血を洗う争いに発展するのだ。


「おい、女は生きてるか?」

「あぁ、生きてる」


 明霞ミンシャを攫ってきた男とは、別の声がした。そして、また別の声も。

 ここは、彼らが潜伏していた場所なのだろうか。


「それにしても、烏族はヤベェな。諜報だけかと思えば、戦闘にも長けてやがる」

「当然だ。どこの国も、喉から手が出るほど欲しているんだぞ」

「それに加えて、あの第二皇子と側近もヤベェ。まともやりあえば、こっちがやられる」

「まったくだ。皇宮の間抜けな護衛どものおかげで助かったぜ」


 結局、皆はどうなったのだろうか。

 彼らの話からすると、無事なようだが──。


「女!」

「!」


 暗闇からいきなり手が伸び、明霞ミンシャの髪が引っ張られた。


(痛いっ……)


 痛みに顔を顰めるが、その男は無理やり自分の方に向かせ、厭らしく笑う。


「闇でもこの髪は目立つな。こんな見事な白髪はなかなか見ねぇ。それに……よく見ると、別嬪じゃねぇか」

「おい、傷をつけるなよ」

「わかってるって!」


 男はニヤニヤと笑いながら、明霞ミンシャの頭の先からつま先まで、舐め回すように眺める。


(気持ち悪いっ……)


 顔を背けようとするが、それもできない。男の手が顎を掴み、動かせないのだ。


「気の毒になぁ、お嬢さん。運のないことだ」

「お、ほんとに別嬪だ。白髪だから婆さんかと思ったぜ」

「ババア攫ってどうすんだよ。そんなへましねぇわ」

「ぎゃはははは!」


(この人たち、本当に影なの!? 皇家に仕えるのだから、影にも品性が必要でしょう!?)


 会話だけ聞いていると、まるで盗賊だ。

 影でも下っ端を金で買収したのだろうと春燕チュンヤンが言っていたが、そのとおりだと思う。


「……なぁ、この女、このままにしておくのは勿体なくねぇか?」

「おい、何を言ってる!」

「生きてりゃ、問題ねぇだろ?」

「おいっ!」


 明霞ミンシャをここへ連れてきた男が、唯一怒りを露わにしている。

 他の者はというと、不穏なことを言い出した男に賛同しているようだ。


(私を連れてきた男は、下っ端じゃないのかもしれないわ……)


 なにせ、明霞ミンシャを抱えながら、颯懍ソンリェンの攻撃を躱していたのだ。只者ではない。


「人質は、丁重に扱うもんだ」

「うるせぇよ。人質なんて、生きてりゃいい。それに、ある意味では丁重に扱ってやるから、問題ない」


 そう言って、男は明霞ミンシャを押し倒した。


「……っ!!」


 思い切り叫びたかった。だが、あまりの恐怖に声が出ない。


(声、声を上げなきゃ……!)


 焦れば焦るほど、空回りする。恐怖に心が支配され、何も考えられなくなる。

 そうこうしているうちに、男数人に身体を押さえつけられ、ドレスに手をかけられた。


「おい! やめろっつってんだろ!!」


 反対していた男も数人がかりで押さえつけられ、動けずにいる。


(……助けてくれる人は誰もいない)


「うひひひひ! 可愛がってやるから、おとなしくしとけよ……」

「チッ、このドレス、どうなってんだよ」

「面倒くせぇから、破いちまえよ」

「そうだな」


(嫌! このドレスは、颯懍ソンリェン様が私のために選んでくれたものなのにっ……!)


 今日来ていた礼装は、互いが互いのために選んだものだった。

 颯懍ソンリェン明霞ミンシャを思い、選んでくれたのだ。それを破くなど──


「嫌っ!」


 ようやく声が出た。だが、それがかえって仇となる。


「ぎゃはははは! 聞いたか? 嫌だってよ!」

「かーわいいなぁ、おい」

「それでこそ、いたぶり甲斐があるってもんよ!」


 明霞ミンシャの抵抗は、逆に男たちの嗜虐心に火をつけた。


「やめて、お願いっ!」

「お願いされてもなぁ」

「お前ら! やめろっ!」

「うるせぇ!」


 押さえつけられた男が、数人によって何度も殴られる。


「うぐぅ……っ」

「一人だけ正義漢ぶってんじゃねぇ。お前も後で回してやるから、黙って見てろ!」


 ビリリリ……


「いやあああああっ!」

「ひゃーーっ!」

「いけぇ! やっちまえ!」


(嫌、嫌だ、絶対に……)


【ゆ る さ な い】


 恐怖と怒りの限界を超え、明霞ミンシャの意識が遥か彼方に追いやられる。


(え……ここは?)


 真っ白な空間の中、明霞ミンシャは途方に暮れ、そして愕然とする。

 ここから、俯瞰で見えるのだ。──闇の中で、数人の男に押さえつけられ、貞操の危機にある自分の姿が。


(どういう……こと?)


 その時だった。

 突如、明霞ミンシャの身体から眩い光が放たれ、男たちが四方に散った。

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ