表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫黒の烏と銀の花嫁  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/42

23-2.それぞれの思惑(2)

 *


 一方、皇宮では──


「いったい……どういうことだ?」

「青龍皇国……しかも、相手が第二皇子とは……」


 雲嵐ウンラン浩然ハオレンが、一通の書を見つめながら驚愕している。

 というのも、青龍皇国の第二皇子、哉藍セイランから、麗花リーファへ婚約の申し入れがあったのだ。数回にわたってこちらから打診した際には、にべもなかったというのに。


麗花リーファ哉藍セイラン殿下を落とした、ということでしょう」

「は? お前は、あの宴での様子を見ていなかったのか?」


 浩然ハオレンがそう言って睨みつけたのは、仔空シアである。

 この場で冷静なのは、彼だけだ。

 それを訝しんだ雲嵐ウンランは、仔空シアに問う。


「そなた、もしやこうなることを知っていたのか?」

「まさか! ですが、歓迎の宴の日以降も、麗花リーファは献身的に殿下に尽くしておりました。それにほだされたのではないでしょうか」


(宴の日もそうだったが、それ以降も宿に押しかけたりしていたようだし、さぞ大変だっただろう)


 表とは裏腹に、裏ではすっかり哉藍セイランに同情している。

 彼は、すでに明霞ミンシャ颯懍ソンリェンの思惑を知っていた。もちろん、「烏」を通じてだ。

 あの会合以降、仔空シアに情報を運んでくるのはヤーだった。意気投合した彼のことは殊更気に入っているようで、彼女から進んでその役を引き受けたのだという。

 だから、哉藍セイランがあえて麗花リーファと婚約する、ということはすでに知っていた。そのために、麗花リーファが何をしたのかも。


(腹違いとはいえ、我が妹ながら大胆なことをする。いや……きっと、義母上ははうえの入れ知恵もあるのだろうな)


 彼女らは、自分たちの望みを叶えるために、踏み越えてはならない境界線を越えてしまった……。


仔空シア!」

「……申し訳ございません。なんでしょうか、義兄上あにうえ

「だから……あの皇子が麗花リーファにほだされたと、本気で思っているのかと聞いている!」


 雲嵐ウンランは納得したようだが、浩然ハオレンはそうではなかった。同じ身内でも、ここは違う。


(関わっている時間が全然違うものな)


 雲嵐ウンランは、親ではあるが、跡継ぎである浩然ハオレンやスペアの仔空シアと違い、娘の麗花リーファと直接関わることは少ない。

 関わるとしても、常に美麗メイリンが間に入る。そうなると、ますます雲嵐ウンラン麗花リーファを避けるようになっていく。なので、美しい容姿は認めるが、その本性までは知る由もない。

 だが浩然ハオレンは、同じ母親を持つ兄として、彼女と関わることが多くあった。面倒なことをねだられたりすることなどしょっちゅうで、それを聞かなければ癇癪を起こされるなど、それはもう散々迷惑を被ってきたのだ。だから、今回の話を素直に信じる気にはなれない。


「いくら麗花リーファが本性を隠していても、あの皇子はそれに騙されたりはしない。だからこそ、宴でもあれほど扱いに困っていたではないか」

「可愛い妹に、なんてことをおっしゃるのですか」

仔空シア!」


 内心では激しく同意するも、表面上は味方するわけにはいかない。

 仔空シアは、憤る義兄をなんとか宥めようとする。

 そんな二人のやり取りをしばらく眺めていた雲嵐ウンランだが、溜息をつき、こう言った。


「経緯はわからんが、婚約の申し入れは本物だ。この書簡には、青龍皇国皇王の署名がある」

「……」


 皇王の署名があるということは、王も認めているということだ。


「理由はわからんが、こちらにとって不利益はない。麗花リーファもかねてより望んでおったことだ。謹んで受けることにする」

「……承知いたしました」

「陛下の御心のままに」


 青龍皇国から正式に婚約の申し入れがあったことは、すぐさま美麗メイリン麗花リーファに知らされた。その報を聞いた途端、二人は歓喜の声をあげる。


「お母様! やった、やりましたわ!」

「そうね! おめでとう、麗花リーファ!」

「これで……憧れの青龍皇国へ行けるのね。そして、麗しの哉藍セイラン様の妃に……!」

「青龍皇国の皇子妃なんて、この国、いいえ、大陸中の女の夢だわ! 本当によかったわね」

「えぇ! これも、全部お母様のおかげだわ! 青龍皇国へ嫁いだ後、落ち着いたら必ずお母様をお呼びするから、それまで待っていてね」

「頼んだわよ、麗花リーファ


 美麗メイリンが、蠱惑な笑みを浮かべる。


 彼女も娘と同じく、祖国をあまり好んではいなかった。いや、そんな彼女に育てられたからこそ、麗花リーファもそう思うようになったのだろう。

 決して貧しくはないが、慎ましやかで派手さに欠ける玄武皇国。森林が多く、開けていない土地も多い。彼女はそんな祖国から、外の世界へ飛び出したかった。

 だが、生まれ持った高貴な身分を捨てることなど考えられない。裕福で何不自由なく、蝶よ花よと育てられた美麗メイリンは、そんな贅沢な暮らしに慣れきっており、それ以上は望んでも、以下など考える余地もなかったのだ。


 美しさと身分の高さから、次期王であった雲嵐ウンランの婚約者となり、そのまま婚姻し、雲嵐ウンランが王を継いだと同時に、この国の妃となった。

 これまで、何を置いても最優先されてきた美麗メイリンは、婚姻後もそれを当然のものとする。だが、それは叶わなかった。

 慣例に従って、王が側妃を娶ることにも我慢ならなかった。跡継ぎの問題なら、子を孕めなかった時にそうすればよかったのだ。だが、婚姻後ほどなくして、王は側妃、魅音ミオンを娶った。

 己より身分の低い女で、容姿も美しいと言えなくもないが、自分と比べるまでもない、その程度の女。しかし、雲嵐ウンランはよりにもよって、そんな女と美麗メイリンを同等に扱った。


 業腹だった。その激しい怒りは側妃に向かい、やがてはその子らへ。彼らが憎くて憎くてたまらなかった。

 それと同時に、一向に自分を寵愛しない夫にも愛想が尽きてきた。

 向こうがそういうつもりなら、こちらも好きにしてやる。

 麗花リーファが青龍皇国に輿入れしたいと言い出した頃から、そう思うようになった。娘の願いが叶ったら、自分も夫とこの国を捨て、新しい場所へと旅立つのだ──。


「もうすぐ、私たちの夢が叶うわね」

「えぇ、お母様! 私、とっても嬉しいわ!」


 幸せそうに微笑みながら、手を取り合う二人。

 だが、そんな二人に冷淡な眼差しを向けるものがいた。──「烏」である。


『……』


 上機嫌で部屋を出て行く二人を見届けた後、「烏」はそのまま空高く飛び去っていった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ