表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫黒の烏と銀の花嫁  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/42

18-2.要求(2)

「なに? お姉様の言うことしか聞かないとでも?」

「私の言うことだって……」

「じゃあ、どうしておとなしくしてたのよ! 次期長の命令? あの烏はその命令を聞いて、嫌々あんたの肩に乗ってたってこと?」

「ちがっ……」

「じゃあ、できるわよね!」


 乱暴に顎を掴まれ、前を向かされる。憎々しげな表情をする麗花リーファの顔がすぐ側まで迫ってきて、明霞ミンシャは咄嗟に顔を背けようとするができない。更に力を込められ、痛みで涙が出そうになる。


「できなくても何でもいいから、私の言うことを聞くことね! でないと、仔空シア兄様が困ったことになるかもしれないわよ?」

「やめて!! 仔空シアには手を出さないで!」


 自分に何かされるのならいい。まだ我慢できる。しかし、大事な弟に手を出されるのはたまらない。それだけは許せない。

 明霞ミンシャの鬼気迫った様子に、麗花リーファはニィと厭らしく口角を上げた。


「お姉様、知ってる? 皇族を含めた高位貴族の者は全て、性別を問わず婚姻前に調べが入るの」

「調べ……?」

「そう。血を繋ぐことに問題がないかどうか、よ」


 血を繋ぐ……要は、子どもを作ること。

 つまり、子どもを作る機能に問題がないか、結婚前に調べられるということだ。

 問題があれば、その者は一生結婚できない。家にいるなら領地に軟禁、家を出るなら市井におりることとなる。

 高位の位を所持する者たちが使命とするそれは、それほどまでに重要視されることだった。


「何が……言いたいの?」


 麗花リーファの言わんとすることが、明霞ミンシャには朧げながらわかった。だが、信じたくなかった。

 片親だけでも血の繋がりのある家族に、そんな酷いことができるものだろうか。


「生殖機能を不能にする秘毒があるのは知っているかしら? 手に入れるのは厄介なのだけど……」

「まさか! 麗花リーファ、嘘よね? その毒を、まさか……」


 麗花リーファは隠しておいた()()を取り出し、明霞ミンシャに見せる。


「こんな少量で効くなんて、すごいと思わない? これ、無味無臭なんですって。これをこっそり食事に混ぜれば……」

「やめて!!」


 明霞ミンシャは力なく膝をついた。

 第二皇子である仔空シアの口にするものに細工など、普通ならそう簡単にできるものではない。しかし、同じ皇族である麗花リーファなら、何とかしてしまうだろう。


(なんてこと……。そんなことをされたら、仔空シアは……!)


 皇太子である浩然ハオレンの片腕として執務に携わっている今の立場なら、明霞ミンシャのように追い出されることはきっとない。

 だが、今よりずっと立場は弱くなるだろうし、いいように使われ、力を搾取され続けかねない。そして、それ以上に恐ろしいのは、毒に倒れてしまうことだ。


(毒は毒なのだから、何があるかわからないじゃない!)


 恐ろしさと怒りで頭がおかしくなりそうだ。そこまでして、彼女はいったい何を望むのか。


「何をすればいいの……?」


 麗花リーファが艶やかに微笑む。こういった状況でなければ、思わず見惚れてしまうような美しい笑みだ。

 麗花リーファ明霞ミンシャから距離を取り、地にへたりこむ彼女を悠然と見下ろした。


哉藍セイラン様の動向を探りなさい。今どちらにいらっしゃるのか、何をしているのか、逐一報告するように」


(彼の動向なら、きっと烏族が把握しているはず。情報はあるけれど、それを私が知る術はないし、ましてや麗花リーファに教えるなんて……)


「あと、哉藍セイラン様と烏族の長か次期長を、引き合わせる算段をつけなさい」

「……なんですって?」


 麗花リーファの更なる要求に頭を抱える。

 烏族の長に会えるのは、王のみ。それは次期長でも変わらない。今日、颯懍ソンリェンが王以外の前に出ているのは例外なのだ。

 それなのに、哉藍セイラン──他国の第二皇子と引き合わせる?


「そんなこと、お父様がお許しになるはずがないわ」

「そうね。だから内緒で」

麗花リーファ!」

「うるさいわね! あんたは私の言うことを聞いていればいいのよ! ダメだって言うの? なら、仔空シア兄様は……」

「やめて! お願いよ、麗花リーファ!」


 ダン!

 麗花リーファが再び足を踏み鳴らす。


「お姉様に拒否権なんてないの。わかっているでしょう?」

麗花リーファ様、そろそろ……」


 扉の外を気にしていた従者がそわそわしながらそう言うと、麗花リーファは大きく溜息をつき、明霞ミンシャに囁く。


「三日に一度は報告を。途絶えればどうなるか……わかっているわね? あぁ、お父様やお兄様に言っても無駄よ。お姉様の話なんて信じるわけないし、信じたとしても関係ないわ。その時は、お姉様が不利になるだけ。ちゃんと策はあるのよ」


 方法は問わない。人を使っても烏を使ってもいいから、必ず三日ごとに報告をすること。

 それを無理やり約束させ、麗花リーファはようやく明霞ミンシャを解放した。


「ではお姉様、皆のところへ戻りましょうか。あぁ、そんな暗い顔をしていてはダメよ。仔空シア兄様と久しぶりに会ったのだから、もっと嬉しそうにしなくちゃ!」


 従者によって立たされた明霞ミンシャは、麗花リーファの命令で笑顔を作らされる。ぎこちなく歪なそれでも、麗花リーファは満足そうに頷いた。


「素敵な笑顔よ、お姉様」


 上機嫌の麗花リーファは、謁見の間に向かって軽やかに歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ