11.第二皇女の企み
ガチャン! と茶器が大きな音を立てる。
部屋の隅に控えている宮女たちは皆一様に身体を固くし、表情を強張らせた。
「麗花、はしたないわよ」
「だって、お母様……!」
「落ち着きなさい」
皇宮内の居住区画で、一番煌びやかと言われる美麗の部屋。そこで、母と娘が午後の優雅なひとときを過ごしていた。
しかし、娘の方はとても優雅とは言えない面持ちで、宮女たちを震え上がらせている。
「哉藍様ったら、ずっと宿屋に戻っていないのよ? こんなことなら、烏をつければよかった!」
「つけたところで、その情報は雲嵐陛下を通してでないと得られないわ。陛下はきっとご存じだと思うけれど、それをあなたに知らせようとはしないでしょうね」
「どうしてよ! お父様は意地悪だわ!」
皇都を訪れている際には、こちらで用意した宿に泊まっていた哉藍だが、国内の領地を訪れるようになってからは、その先で宿泊をしているようだった。
領主の屋敷にいるなら少なからず麗花にも情報は入ってくるのだが、ほとんど入ってこないところをみると、適当に宿泊しているらしい。
皇都にいる時は、宿屋の主人にはもちろん、麗花に忠誠を誓う宮女をやってまで哉藍の予定を把握していたのだが、こうなるとお手上げである。
「哉藍様にも困ったものね。あの宴以降、こちらのもてなしをすべて退けるのだから」
「どうして……どうしてなのよ! この私がこれほどまでにお慕いしているというのに!」
「さすが青龍皇国の皇子、美しい娘は見慣れているということかしら。だから、物珍しさもあってあんな娘を……」
「お母様! 私があの女に劣るはずがないわ! それに、あの女はすでに烏族に追いやったのだし、今はもう次期長の妻よ? いくら哉藍様が興味を示そうとも、どうしようもないわ。それに……あんな女、烏族にだって疎まれているわよ!」
「そうね。老婆のような女を娶らねばならないなんて、次期長も気の毒なこと。とはいえ、陛下の命に逆らうことは許されない。結局、皇宮でも烏族でも扱いは変わらないのでしょう。いい気味だわ」
宴の日、ずっと側に侍る麗花に哉藍は尋ねた。第一皇女の姿が見えないが、どうしたのかと。
その時は、病弱故に床に臥せっていると誤魔化したのだが、ことあるごとに哉藍は明霞のことを聞いてくる。
明霞など比べ物にならないほど美しい自分が侍っているというのに、いったいどういうことか。
麗花の機嫌は、底の底まで下降する。
(気まぐれだとしても、哉藍様があの女を気にするなんてとんでもないことだわ。万が一にでも顔を合わせることがないよう、なんとかしなければ!)
危機感を覚えた麗花は、すぐさま美麗に相談した。そこで美麗は、強硬手段に出る。
今すぐに、明霞を烏族の元へ送り出す。
王の許可なしに許されることではないが、元々烏族への輿入れは決まっており、それが早まるだけのこと。いつものように反論すれば、王は折れるだろうと当たりを付けた。そしてそれは、見事に的中した。
「国内を回りたいなら、私も連れて行ってくださればよかったのだわ」
「あなたがそうするとなると、準備が必要でしょう? 哉藍様は帰国まであまり時間がないとおっしゃっていたのだし、仕方がないでしょう。とはいえ、山や森ばかりの領地を見て、どうするのかしら? 青龍皇国の方がよほど豊かでしょうに」
「あらお母様、妃の故郷をよく知ろうとしてくださるなんて、素敵だと思わない?」
麗花はこのような現状でも、自分が哉藍の妃になることを少しも疑っていない。
「そうね、素晴らしいと思うわ。……本当に、哉藍様は今どちらにいらっしゃるのでしょう。私にも烏が使えればよかったのに。いくら陛下に言っても、これだけは聞いてくださらない」
「……待って、お母様。いいことを思いついたわ!」
麗花の口元が歪む。
「私たちは烏が使えない。でも……あの女、お異母姉様ならどうかしら?」
麗花の言葉に、美麗は目を輝かせた。
「そうね、それはいい考えだわ。明霞を皇宮に呼びましょう」
二人は顔を見合わせて笑みが浮かべると、すぐさま席を立った。
烏族と接触できるのは王のみ。だが、姉の様子を知りたいとでも言えば、そうそう無碍にはできまい。これまでの関係性からするとありえないことだが、そこはどうとでもなる。というか、してみせる。
美麗と麗花にかかれば、人を欺くことなど造作もない。例えそれが、一国の王であっても──。
いつも読んでくださってありがとうございます。
いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!
どうぞよろしくお願いします!




