10.青龍皇国第二皇子の動向
青龍皇国の第二皇子である王哉藍が他国に滞在するのは、大体ひと月ほど。
その情報は確かなものだった。だが、彼が玄武皇国に来てから、すでにそれ以上の月日が経っている。
「ずっと同じ宿に泊まり、皇都やあちこちの領地を渡り歩いているようです。皇宮へは、あの宴の日以降来ていません。そして、帰国はまだ未定のようです」
「もしかして、麗花やお義母様が引き留めているのかしら?」
麗花は、彼の花嫁になりたいのだ。宴の時も、ずっと側に侍っていた。
打診は断られたが、直接本人に迫れば落とせると信じているのだ、あの異母妹は。
明霞の言葉に、仔空は苦笑いしながら首を横に振った。
「それもなくはないでしょうが、些細なことです。本人は花嫁探しと笑っているのですが、おそらくは別の目的があるかと」
「花嫁探しではなく?」
ここで、颯懍と春燕が口を挟む。
「朱雀と白虎では、割と真剣に探していたようだがな」
「みたいね。それが本当に本心からなのか、偽装なのかはわからないけれど」
「見つからなかったから、うちに来た……? でも、別の目的があるのよね?」
明霞が独り言のようにポツリと呟くと、颯懍がそれに応えるように後を続ける。
「かなり高い確率で、彼は烏族と接触するために、滞在を延ばしているのだろうな」
明霞がハッとして顔を上げると、颯懍も春燕も硬い表情で頷いた。
仔空もすでにその報告は受けていたのだろう、驚く素振りはない。
「そんなことはお構いなしで、毎日飽きもせず皇子にぴったりと張り付いていますよ、麗花は。皇子付きの宮女は自分に忠実な者にして、彼の行動を逐一監視しているようです」
『もう執念よね! 仲間も見張っているけれど、それに匹敵するわよ?』
ヤーは、まるで人のような仕草で呆れかえっている。
「そんなことをして、大丈夫なのかしら」
そこまですれば、皇子もさぞや鬱陶しいことだろう。怒りを買わねば良いのだが。
明霞はつい心配になってしまうが、仮に誰かがそれを言ったところであの異母妹は聞かない。
「義母上は放置……というより、むしろ応援しているようです。父上と異母兄上こそ放置ですね。ただ、我関せずとまではいっていないようです。まぁ、相手は一国の皇子ですからね」
「お二人の言うことでも、あの子は聞かないものね……」
ある意味、最強である。
「だが、向こうも情報を引き出そうとしているのかもしれない。烏族に接触するには、皇族の伝手が必要だからな。あの女にそれができるとは思っていないだろうが、どうにか利用できないかと模索している可能性はある。とりあえず、今のところはあの女の好きにさせているようだ」
仮にも第二皇女を「あの女」呼ばわりである。
颯懍の遠慮ない物言いは、明霞はすでに慣れているが、仔空はどうだろうか。
そっと見遣ると、仔空は声をあげて笑い出した。
「あの女とは痛快ですね! 烏族は我々の内情もすべて知っているので率直に言いますが、あの女と義母は、これまで数えきれないほどの愚行を働いてきました。その中でも最低最悪だったのは、王の許可もなしに第一皇女を輿入れさせるなんていう暴挙に出たことです。あの日、奴らが姉様にしたことを知った時、殺してやりたいとさえ思いましたよ」
「仔空!」
普段は押さえている気持ちを、ここぞとばかりに露わにする仔空に、明霞は窘めながらも心苦しくなっていた。
仔空の気持ちは、痛いほどよくわかる。
もしも立場が逆なら、明霞だって同じように思っただろうから。
部屋の中が一瞬微妙な空気となるが、それを打ち破ったのはヤーだった。
『ねぇ、ねぇ、ちょっと気になっていたんだけど、明霞の輿入れが急だったのはどうして? あのいけ好かない悪妃と、頭がからっぽな我儘娘の虐めなのはわかるんだけど、あれはいくらなんでも強引すぎない?』
「あ、私もそう思う! だって、陛下や皇太子殿下にも無断でなんて、あまりにも無謀すぎるもの。ありえないわ」
ヤーに同意するように、春燕がうんうんと頷いている。美麗と麗花の呼称については、もちろん無視である。
確かに、普通ならありえない。そんなことをすれば、妃や娘とはいえただでは済まない。王の与り知らぬところで勝手をすれば、叛意とみなされても文句は言えないのだ。
「父上も異母兄上も、あの二人には手を焼いている……というより、もう放置しているのです。関わるだけ時間の無駄だとばかりに」
『まぁ、その気持ちもわからなくはないわね。あの馬鹿女たちは話が通じないもの』
「よほどのことがない限り何も言われないものだから、もうとんでもないくらいやりたい放題なのですよ。手に負えません。今回の件も、王を蔑ろにするようなことをしでかしたのですから、何らかの罰を与えるべきでした。それなのに、姉様が颯懍殿に嫁ぐことは決定事項であり、それが早まっただけだと言って、あの二人をよけい調子づかせる始末。私は情けないやら、悔しいやらで、本当にっ……」
『そうよねぇ。大事な姉様をここまで軽んじられて、悔しいわよね』
「そうなのですっ……!」
仔空はヤーに切々と訴え、ヤーは仔空の肩にとまり、慰めるように羽をパタパタさせている。
春燕の通訳を介して会話し、すっかり意気投合してしまったようだ。
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