表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第7話 突然の来訪者

 男子寮に到着し廊下を歩いていると、食堂への道が混みあっていた。飛鷹に時間を確認してもらうと、まだ16時半を過ぎたところ。


 廊下を進むとエレベーターホールが見えてくる。そこはどこよりも混んでいて、僕と飛鷹は顔を見合わせた。


「とりあえず、落ち着くまで待とうか」


「う、うん……」


 飛鷹は人数の圧に押され、萎縮しているようだった。それは僕も同感で、動ける範囲が非常に狭い。


 やがて、人は通路の方へとはけていって、動くエレベーターの数も落ち着いた。僕は上行きのボタンを押す。


 機械音と共に降りてくるのを感じ取ると、飛鷹は早く落ち着きたいと言ってるかのように、足踏みを始めた。


「早く……。早く……」


「あはは……、大丈夫だって……」


 ようやく来たエレベーターに乗り込み、しばらく無言が続く。僕たちの部屋は15階だが、なぜか13階でドアが開いた。


 中に乗ってきたのは、寮生では無いはずの怜音だった。彼は、気付かないフリをしていて、ただじっと外側を見ている。


「ゆ、優人君……。は、話しかけた方が……い、いいのかな?」


 飛鷹が震える声で囁く。僕は、数秒考えた後、話しかけることを決めた。


「その……。怜音? なんでここに……」


「おっと、優人くんに飛鷹さん。今日はちょっと用事があってね……」


 わざとらしい驚く演技にこちらが驚いてしまう。『ちなみに優人くんにね』と怜音が付け足した。


 肩には水色と白のストライプバッグをさげていて、それがとても似合っている。そして、その中に用事の品が入っているとのこと。


「詳しいことは君たちの部屋でしようか。ちょっと部屋教えてくれるかな?」


「いいですけど……」


 そうして僕は怜音を部屋に案内した。飛鷹はなぜか最後方を歩き、緊張しているのか遅い。


 部屋に着くと寮生証を機械にかざしロックを解除した。


 この寮の部屋はオートロックで、各部屋に登録された寮生証でしか解除できない仕組み。僕の部屋は僕と飛鷹しか解除できない。


 僕が知っている身近な機械はこれくらいしかない。僕と怜音が先に入り待っていると、ロックが解除される音がした。


 ゆっくり開くドア。その奥からはブルブル震えて入ってくる飛鷹がいる。そこまでビビらなくてもいいのに……。


「よし、全員揃ったところだし。早速」


 怜音はバッグに手を入れて、なにかを探し始める。しばらくして出てきたのは、真っ白な長方形の箱だった。


「怜音それは……」


「優人くんへのプレゼント。プロクラス認定アイテムとしてね。春日井さんから聞いたんだ。君がスマホと持ってないってこと」


「す、まほ……」


 そんな高級品受け取れるはずがない。僕は怜音の手に握られたスマホの箱を押し返す。だけど、彼の方が力が強くて……。


 最終的に受け取ることになった。箱の開け方を教えて貰い開封すると、白い背面のスマホが出てくる。


 取り出し眺める。電源を長押しすると、画面が光った。こんな機械を手にして、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが混ざり合う。


「これ、学校のサイト入って……」


「入ってるよ。必要最低限のものはね。通帳はボクのを使って。これがボクの通帳。暗証番号も教えておくから」


「そんな……。大事なものを使うわけには……」


 怜音は僕のスマホを手にすると、素早い操作で通帳登録を完了させる。絶対梨央に怒られる。そんな恐怖がどこからか込み上げて来た。


「これでよし。お金には余裕があるから、欲しいものをじゃんじゃん買っていいよ」


 怜音はそう言うとにっかり笑ってサムズアップした。昨夜のバイトで見せた顔とは正反対だ。


「あ、ありがとう……ございます……」


「それとなんだけど……。これと同じアプリを探してもらってもいい?」


 お願いされたアイコンは、緑色の星が書かれたものだった。色んなファイルを開いては閉じ見つけると、タップする。


 画面いっぱいに表示される、『日本魔生物討伐協会』の文字。それは、協会が運営しているニュースアプリだった。


「このアプリで何をすれば……」

 

 僕の疑問になぜか飛鷹が覗いてくる。なにか言いたげな表情に、『どうぞ』と返してみた。


「そ、その……ニュースサイト……。討伐……部隊向けの……」


「飛鷹くん正解! このサイト。今映ってるのは一般人向けなんだけど……。ここの認証パスワードに、こうして……」


 怜音は自分のスマホでパスワード入力画面を開き、何も入力せずに親指の腹を押し当てる。すると、ロード中と表示された。


 〝会員認証が完了しました。討伐部隊サイトへ移行します〟


「これは、討伐部隊にしかできない機能でね。ボクの、ひいひいひいおじいちゃんが作ってくれたんだ」


「ひいひいひいおじいちゃん……」


「ひいが……。三つ……。ひぃ……」


 生きているはずのない人物に、飛鷹が萎んだ。僕も正直驚いている。怜音はスマホを素早く操作して、隊員ページを開いた。


「優人くんの方もできるはず……、なんだけど……」


「え? 僕が?」


「ちょっと同じようにしてみて」


 僕は、怜音がやった通りに操作をする。画面に指の腹を押し当てる動作は、指紋認証と言うらしい。


 同じようにしてみたが、アプリから弾かれてしまう。怜音は『まだできないか』というように、肩を下ろした。


 そうしている間に寮の夕食時間となり、飛鷹だけが部屋から退室する。僕と怜音の2人きりになったので、さらに詳しく聞くことにした。


「怜音。第二次魔生物暴走事件が起こるかもしれないって……」


「優人くんは気付いていたみたいだね。昨日の日本史の授業。おかしい点あったでしょ?」


「はい……。担任が『第一次』って付けてたので……」


 元々は第一次なんて言葉は付いていなかった。つまりは、次があるとわかったから後付けされたもの。


「これを予言したの。誰だと思う?」


「え? 予言?」


「うん。予言」


 僕は考える。だけど、思い当たる人が浮かんで来ない。長考しそうになる僕に、怜音が続けた。


 彼が答えた名前は『片桐夢乃』だった。魔力測定にも来てた薄紫髪の女性。彼女は日本全国に住む住民の夢の管理者らしい。


 普段は夜型のようで、住民の夢やその日の昼間に確認された情報から記事を書く。片桐さんの情報正確度は世界でも評価されてるとのこと。


「その夢乃がしばらく前に悪夢を見たみたいでね……。魔生物が氾濫する夢を見たって」


「それが、第二次魔生物暴走事件と関係が……」


 僕の問いかけに怜音は小さく頷いた。

 

「あくまでも未来予知・予言みたいなもので、世間には出回ってないけど……。可能性はゼロではないかな?」


 怜音はスマホを片付けて、退室する準備を開始する。だけど、僕はそんな彼を止めた。せっかくだし、僕が作った魔力水でも飲んで欲しい。


「ちょっと待っててください。ジョッキ……ジョッキ……。飛鷹君洗ってくれたんだ……」


 綺麗になったジョッキに魔力水を注ぐ。それを怜音に渡すと、普通に飲んでくれた。味も表情だけで高く評価してくれる。


 怜音が窓側に移動する。朝から閉めっぱなしのカーテン。優しく開くと、月が見えた。今日は三日月だ。


「天気がいいから、優人くんちょっとボクに付き合ってよ」


「怜音の用事に?」


 僕がそう言うと、怜音は空間魔法を発動させた。『一緒に来て』と言われたので、付き添うことにする。


 やってきたのは、どこかわからない森だった。中央の開けた場所。そこにはポツンとベンチが置かれている。


 そこへ近づくと二人で座る。怜音は『もう一人呼んでる人がいる』と言ったので待っていると、先程話題に出た片桐夢乃がたっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「ひいが……。三つ……。ひぃ……」 たまに不意打ちで笑わせてくるの、ずるいです(笑) そして片桐夢乃さん…予言少女にして“日本全国の夢の管理者”って、スケールがすごすぎる! ちなみに魔力水、私も一…
xより参りました。 本作の主題は、「自分では凡庸だと思っている少年の中に、誰よりも深い可能性が眠っている」という事なのではないかと拝察しました。 本作は、その主題を丁寧な生活描写と感情線で積み上げて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ