表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/48

第47話 闇の魔力に包まれて

 駆ける。駆けて斬る。魔生物はどんどん数を増やしていく。意識が遠のく。それでも自我を保とうともがく。


 そのもがいた分だけ僕は強くなる。強くなれるんだ。できないことが多かった自分。食事も興味がなかった自分。


 自分を労ることをやめた僕はもういない。ハデスとの会話を通して、バレンの思考もわかってきた気がする。なんとなくだけど。


「ハデス。僕のことは気にしなくていいから」


 ――『しかし。王族でも貴族でもないのだろう? 其方にこれ以上闇の魔力を分けるわけにはいかない』


「わかってる。だけど、僕はハデス以上にこの世界を襲う魔生物が怖いんだ。高所恐怖症で空が嫌いな僕でも、それ以上の恐怖を感じる」


 ――『それを抑えるために、それだけに自我を失いたいとでもいうのか?』


「うん」


 僕の身体にさらなる闇が流れ込む。だけど、だんだん心地よく感じてきた。そして、いつの間にか僕はハデスを呼び捨てで呼んでいた。


 ハデスは僕の意思に答えてくれる。それが嬉しくて堪らない。バレンに指示を飛ばす。彼は魔法を行使して蹴散らしていく。


 僕は自分の意識を集中させ、ハデスが分けた闇の力を剣を持っている右手に集めた。そして、左に雷の魔力を纏わせる。


 魔力操作がいつの間にかできるようになった。それも嬉しかった。きっと隼も褒めてくれるだろう。


「バレン! 後方に気をつけて!」


「後ろな! 了解!」


「優人くん。ボクの方は終わったよ」


「怜音、ありがとう。梨央たちに連絡して」


「おーけ!」


 知らず知らずのうちに、僕が司令塔となっている。まず僕は麗華さんと合流しなければならない。


 しばらく真っ直ぐ進むと、亜空間から射出される剣が見えた。きっと麗華さんだ。僕はそこを目的地に走って向かう。


 麗華さんの身体はボロボロだった。身体を左右に揺すり、完全に疲れ果てている様子。美しい白銀の髪も泥がついたように黒ずんでいる。


「麗華さん!」


「み、見世瀬……さん……」


 僕の言葉で力尽きたのか、麗華さんは横倒しになる。ハデスの協力のもと、魔力量を確認すると、完全に限界状態になっていることがわかった。


「怜音。こっち!」


「おけ!」


 僕は怜音を呼び寄せて、氷のコップを作ってもらう。そこに、魔力量70くらいの魔力水を注いで麗華さんに飲ませた。


 これでそれなりに魔力が回復するだろう。改めて景斗さんに連絡をし、麗華さんの身体を安全な場所へ移動させる。


 次は星咲先輩だ。景斗総司令によると、桜ヶ咲オフィス街の西口にいるとのこと。今いるのが南口なので、怜音の亜空間を利用する。


 西口の魔生物はほとんどいなかった。ここなら休憩場所として利用できそうだ。そこには、梨央に治療をしてもらっている星咲先輩の姿。


 星咲先輩は少々怒り気味の様子だった。彼はダメージを受けることで強くなる特殊な人だ。怪我なんてどうてことない精神なのだろう。


「星咲先輩!」


「な、なんだよ。優人」


「梨央に治療されて嬉しいですか?」


「う、うるせぇな。オレはまだピンピンしてんだぞ。治療なんていらん」


 本当に強がりで仕方ない。梨央に聞くと、星咲先輩の怪我の程度はそれなりに軽いものだったらしい。


 でも、もしものことを思い治療を決断したのだとか。それは星咲先輩も怒るわけだ。彼は、僕よりも数倍強く見える。


 弱点なんてどこにもないかのように。それくらい芯がしっかりしている。ただ、自分にストイックすぎるだけだ。


「僕は、次のところ行ってきます。星咲先輩。あとで合流しましょう!」


「あいよ!」


 僕は走って北口に向かった、さっきから脳内に景斗総司令の声が響いている。どうやら彼は、第一部隊の隊員全員に命令を飛ばしているらしい。


 景斗総司令は北口が危険な状態だと言っていた。北口といえば、海鮮丼屋があるあたりだ。僕は水壁を利用して波乗り状態になる。


 こういう使い方もありなんだと、ちょっと心の中で笑ってしまった。でも、そう楽しんでいる場合ではない。


 オフィス街の中心に着く。そこからスマホで方角を確認。北口に向けて移動を再開する。そこには十数人ほどの隊員が戦っていた。


「皆さん。僕の指示に従ってください!」


 僕は大声で叫ぶ。魔生物が多すぎる。僕は雷魔法で掃討し、怪我をしている隊員を、景斗の誘導利用で西口に動かした。


 最終的に残ったのは僕と三人。遅れてバレンが来たので、現在合計五人。それだけでも、もはや十分な人数だ。


 僕は雷魔法を解除して全身に闇を纏う。ここからが勝負だ。剣に魔力を覆わせ、一気に振り抜く。


 衝撃波が発生し、数百の魔生物を一掃した。それだけでは済まさずに二発三発と切り払っていく。


「優人。なんでオマエはアビスレクイヴァントを使いこなせるんだ?」


 バレンが質問をする。僕は、『自分が弱いのを知っているから』と答えた。自分を理解していないと溺れてしまうという意味を込めて。


「そうか。俺は自分が最強だと思ってたな……。それも、なんも理由付けなく。だから俺は溺れたんだろうな」


「そうだね。ってバレン前!」


「ん!」


 バレンが煙と化す。そして、魔生物を飲み込んだ。魔生物の残骸は魔生物を倒した時に出現するもの。それがよくわかった。


 人の姿に戻ったバレンはお腹を叩いて、満足そうな顔をする。これが、魔生物同士の捕食なんだと気が引けてしまった。


「腹ごしらえは済んだし。俺も本気出しますかね……」


 バレンはそう言うと、狼の姿に変化する。それは、しばらく前に見たものよりも大きく勇ましい姿。


 赤い瞳がギラリと光り、僕の身体を咥えると、空へ投げた。着地したのはバレンの背中の上。毛がふわふわしていて気持ちいい。


 そのまま駆けていく。バレンが仲間を回収して、魔生物を蹴散らしていく。その作業はあっという間に終わった。


 ただ、一人。たった一人だけ見当たらない。それは地下通路に残した隼だった。さっきから彼の姿が見えない。


 バレンに他の隊員を本部へ預け、地下通路に向かわないかと提案する。彼もそれに同感だったらしく、景斗にお願いして隊員を移動。


 二人で地下通路に向かうと、未だ戦っている隼がいた。身体の状態を見る。怪我は一切していない。


 バレンに頼んで魔力量をチェックしても、隼の魔力は満タンだった。どういう戦い方をすれば、ここまで無傷でいられるのか。


「隼さん!」


「助太刀。助かる。敵。まだいる。終わったら。マタタビくれ」


「相変わらずマタタビですか……」


「報酬。100万円とマタタビ」


 お金遣いの荒らさがよくわかる回答だった。僕はバレンの背中から降りる。ハデスの声は聞こえなくなっていた。


 彼も意思を持っている存在、闇の魔力を常に流したことで疲れたのだろう。本当にお疲れ様といいたいくらい。僕も頑張った。


「大技。使う。優人。バレン。危険」


「大技?」


「魔力全開放。バーニングエクスプロージョン!」


 隼の魔力が膨大に増加する感覚。魔力が濃くなっていく。そして、それらが粉塵に変化し、大爆発を引き起こした。


 隼が地下通路の中央に立っている。それだけでもすごい。僕たちは隼の魔力が落ち着くのを待ち、地上に移動した。


 桜ヶ咲オフィス街がほとんどの店舗が倒壊や半壊をした。その修繕費用は全額を景斗総司令が負担することになった。


 本部に帰る前。桜ヶ咲オフィス街の外れにあるペットショップで、マタタビドーナツを購入。隼の渡すと1分も経たずに消える。


 彼の猫感は健在だった。やっぱり、ものすごく可愛い。だけど、これが本当の最強だとは思えない。


 魔法はすごく強かった。そしてあんな秘技を持っているとも思わなかった。彼の強さはどこにあるのだろうと、バレンが悩む気持ちがわかる。


 本部に着くと、仲間たち全員が出迎えてくれた。僕はバレンに剣を返す。アビスレクイヴァントの狂気的な力は毎日使えない。


 これはやはり、バレンの剣だ。僕が持っていても仕方ない。これが、大きな理由だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
怒涛の戦闘回!優人くんの覚醒が止まらない! 闇と雷を操り、仲間たちを的確に導く司令塔としての成長には本当に驚かされました。 あのかつて自信がなかった優人くんがここまで頼れる存在になるなんて……感慨深…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ