第47話 闇の魔力に包まれて
駆ける。駆けて斬る。魔生物はどんどん数を増やしていく。意識が遠のく。それでも自我を保とうともがく。
そのもがいた分だけ僕は強くなる。強くなれるんだ。できないことが多かった自分。食事も興味がなかった自分。
自分を労ることをやめた僕はもういない。ハデスとの会話を通して、バレンの思考もわかってきた気がする。なんとなくだけど。
「ハデス。僕のことは気にしなくていいから」
――『しかし。王族でも貴族でもないのだろう? 其方にこれ以上闇の魔力を分けるわけにはいかない』
「わかってる。だけど、僕はハデス以上にこの世界を襲う魔生物が怖いんだ。高所恐怖症で空が嫌いな僕でも、それ以上の恐怖を感じる」
――『それを抑えるために、それだけに自我を失いたいとでもいうのか?』
「うん」
僕の身体にさらなる闇が流れ込む。だけど、だんだん心地よく感じてきた。そして、いつの間にか僕はハデスを呼び捨てで呼んでいた。
ハデスは僕の意思に答えてくれる。それが嬉しくて堪らない。バレンに指示を飛ばす。彼は魔法を行使して蹴散らしていく。
僕は自分の意識を集中させ、ハデスが分けた闇の力を剣を持っている右手に集めた。そして、左に雷の魔力を纏わせる。
魔力操作がいつの間にかできるようになった。それも嬉しかった。きっと隼も褒めてくれるだろう。
「バレン! 後方に気をつけて!」
「後ろな! 了解!」
「優人くん。ボクの方は終わったよ」
「怜音、ありがとう。梨央たちに連絡して」
「おーけ!」
知らず知らずのうちに、僕が司令塔となっている。まず僕は麗華さんと合流しなければならない。
しばらく真っ直ぐ進むと、亜空間から射出される剣が見えた。きっと麗華さんだ。僕はそこを目的地に走って向かう。
麗華さんの身体はボロボロだった。身体を左右に揺すり、完全に疲れ果てている様子。美しい白銀の髪も泥がついたように黒ずんでいる。
「麗華さん!」
「み、見世瀬……さん……」
僕の言葉で力尽きたのか、麗華さんは横倒しになる。ハデスの協力のもと、魔力量を確認すると、完全に限界状態になっていることがわかった。
「怜音。こっち!」
「おけ!」
僕は怜音を呼び寄せて、氷のコップを作ってもらう。そこに、魔力量70くらいの魔力水を注いで麗華さんに飲ませた。
これでそれなりに魔力が回復するだろう。改めて景斗さんに連絡をし、麗華さんの身体を安全な場所へ移動させる。
次は星咲先輩だ。景斗総司令によると、桜ヶ咲オフィス街の西口にいるとのこと。今いるのが南口なので、怜音の亜空間を利用する。
西口の魔生物はほとんどいなかった。ここなら休憩場所として利用できそうだ。そこには、梨央に治療をしてもらっている星咲先輩の姿。
星咲先輩は少々怒り気味の様子だった。彼はダメージを受けることで強くなる特殊な人だ。怪我なんてどうてことない精神なのだろう。
「星咲先輩!」
「な、なんだよ。優人」
「梨央に治療されて嬉しいですか?」
「う、うるせぇな。オレはまだピンピンしてんだぞ。治療なんていらん」
本当に強がりで仕方ない。梨央に聞くと、星咲先輩の怪我の程度はそれなりに軽いものだったらしい。
でも、もしものことを思い治療を決断したのだとか。それは星咲先輩も怒るわけだ。彼は、僕よりも数倍強く見える。
弱点なんてどこにもないかのように。それくらい芯がしっかりしている。ただ、自分にストイックすぎるだけだ。
「僕は、次のところ行ってきます。星咲先輩。あとで合流しましょう!」
「あいよ!」
僕は走って北口に向かった、さっきから脳内に景斗総司令の声が響いている。どうやら彼は、第一部隊の隊員全員に命令を飛ばしているらしい。
景斗総司令は北口が危険な状態だと言っていた。北口といえば、海鮮丼屋があるあたりだ。僕は水壁を利用して波乗り状態になる。
こういう使い方もありなんだと、ちょっと心の中で笑ってしまった。でも、そう楽しんでいる場合ではない。
オフィス街の中心に着く。そこからスマホで方角を確認。北口に向けて移動を再開する。そこには十数人ほどの隊員が戦っていた。
「皆さん。僕の指示に従ってください!」
僕は大声で叫ぶ。魔生物が多すぎる。僕は雷魔法で掃討し、怪我をしている隊員を、景斗の誘導利用で西口に動かした。
最終的に残ったのは僕と三人。遅れてバレンが来たので、現在合計五人。それだけでも、もはや十分な人数だ。
僕は雷魔法を解除して全身に闇を纏う。ここからが勝負だ。剣に魔力を覆わせ、一気に振り抜く。
衝撃波が発生し、数百の魔生物を一掃した。それだけでは済まさずに二発三発と切り払っていく。
「優人。なんでオマエはアビスレクイヴァントを使いこなせるんだ?」
バレンが質問をする。僕は、『自分が弱いのを知っているから』と答えた。自分を理解していないと溺れてしまうという意味を込めて。
「そうか。俺は自分が最強だと思ってたな……。それも、なんも理由付けなく。だから俺は溺れたんだろうな」
「そうだね。ってバレン前!」
「ん!」
バレンが煙と化す。そして、魔生物を飲み込んだ。魔生物の残骸は魔生物を倒した時に出現するもの。それがよくわかった。
人の姿に戻ったバレンはお腹を叩いて、満足そうな顔をする。これが、魔生物同士の捕食なんだと気が引けてしまった。
「腹ごしらえは済んだし。俺も本気出しますかね……」
バレンはそう言うと、狼の姿に変化する。それは、しばらく前に見たものよりも大きく勇ましい姿。
赤い瞳がギラリと光り、僕の身体を咥えると、空へ投げた。着地したのはバレンの背中の上。毛がふわふわしていて気持ちいい。
そのまま駆けていく。バレンが仲間を回収して、魔生物を蹴散らしていく。その作業はあっという間に終わった。
ただ、一人。たった一人だけ見当たらない。それは地下通路に残した隼だった。さっきから彼の姿が見えない。
バレンに他の隊員を本部へ預け、地下通路に向かわないかと提案する。彼もそれに同感だったらしく、景斗にお願いして隊員を移動。
二人で地下通路に向かうと、未だ戦っている隼がいた。身体の状態を見る。怪我は一切していない。
バレンに頼んで魔力量をチェックしても、隼の魔力は満タンだった。どういう戦い方をすれば、ここまで無傷でいられるのか。
「隼さん!」
「助太刀。助かる。敵。まだいる。終わったら。マタタビくれ」
「相変わらずマタタビですか……」
「報酬。100万円とマタタビ」
お金遣いの荒らさがよくわかる回答だった。僕はバレンの背中から降りる。ハデスの声は聞こえなくなっていた。
彼も意思を持っている存在、闇の魔力を常に流したことで疲れたのだろう。本当にお疲れ様といいたいくらい。僕も頑張った。
「大技。使う。優人。バレン。危険」
「大技?」
「魔力全開放。バーニングエクスプロージョン!」
隼の魔力が膨大に増加する感覚。魔力が濃くなっていく。そして、それらが粉塵に変化し、大爆発を引き起こした。
隼が地下通路の中央に立っている。それだけでもすごい。僕たちは隼の魔力が落ち着くのを待ち、地上に移動した。
桜ヶ咲オフィス街がほとんどの店舗が倒壊や半壊をした。その修繕費用は全額を景斗総司令が負担することになった。
本部に帰る前。桜ヶ咲オフィス街の外れにあるペットショップで、マタタビドーナツを購入。隼の渡すと1分も経たずに消える。
彼の猫感は健在だった。やっぱり、ものすごく可愛い。だけど、これが本当の最強だとは思えない。
魔法はすごく強かった。そしてあんな秘技を持っているとも思わなかった。彼の強さはどこにあるのだろうと、バレンが悩む気持ちがわかる。
本部に着くと、仲間たち全員が出迎えてくれた。僕はバレンに剣を返す。アビスレクイヴァントの狂気的な力は毎日使えない。
これはやはり、バレンの剣だ。僕が持っていても仕方ない。これが、大きな理由だった。




