第41話 最終調整
訓練場に集まり、それぞれ最終調整が始まった。ここには先客がいたようで、星咲斬先輩と景斗総司令の姿。
訓練の人数確保のために集まってくれたらしい。それはそれでありがたい。僕は、景斗総司令が担当することになった。
バレンはもちろん隼だ。梨央は怜音。瑠華さんは星咲先輩が担当することになる。ただ、飛鷹には担当者がいない。
戦闘能力として不安定な彼は、努力家で頑張り屋。だけど、今回は完全サポートに入ることになった。
「景斗総司令。なんで僕なんですか?」
「ふふ。それはね。さっきお父さんから連絡があったんだ」
「景斗総司令のお父さん? 今景斗総司令は133歳だから……」
単純計算で160近い。生きているなんてありえない。だけど、彼が言うにはそれは本当だとわかった。
「僕のお父さんからね。君に預けたい魔法があるって言われたんだ。魔法式送るから自分で解読してみて」
「は、はい……」
景斗総司令から魔法式を送ってもらう。その文字列は、今まで見た文字列よりもわかりやすかった。
解読するのも数分で終わった。これは水属性の魔法だ。名前は……。
「幻水と、水壁……」
「正解。僕のお父さんが編み出した魔法式だよ」
「景斗総司令のお父さんが?」
「うん」
景斗総司令の父親は何者なのか、それが気になって仕方ない。だけど、攻撃魔法が少ししか使えない僕にとってはものすごく嬉しかった。
早速水壁を使ってみる。辺り一帯が海のように水で満たされる。それを手のひらで操作するのが非常に難しかった。
それを壁として形にするのに十回の試行。それだけで僕の魔力がどんどん減っていく。水壁は魔力の消費量が多かった。
だけど、迫力もあってものすごく気持ちがいい。魔法を使うのがここまで気持ちいいなんて、初めての経験かもしれない。
球体と魔力水しか作れない水魔法使いの僕が、それ以外の魔法を使っている。そんな今にこれほどまでにない高揚感。
「優人さん! 優人さん!」
「!? す、すみません……。使うのが楽しくて……」
「それはいいことだと思うよ。魔法は楽しまなくちゃね」
景斗総司令は『幻水も使ってみてよ』と言う。試しに使うと、水でできた一人の分身が生まれる。
その状態で今度は水壁を併用すると、今度は波が二つできた。これは面白い。幻水を大量行使する。水壁を併用する。
訓練場が水で満たされていく。かなり使い勝手のいい魔法だった。だけど、この水どう処理するかに悩んでしまう。
「景斗総司令。これどうします?」
「うーん。じゃあ、僕の亜空間に入れておくよ。自然消滅させておくから安心して」
「わかりました」
次は剣術に関しての訓練に移ることになった。僕は水壁の水操作を応用して、水の剣を生み出す。
隼から教わった方法よりも遥かに簡単だと感じた。魔法式から魔力操作を覚えると、習得も早いらしい。
「じゃあ、始めるよ!」
「はい! 総司令お願いします!」
「始め!」
景斗総司令の合図でお互いに接近する。昨日バレンと一緒に訓練したけど、まだ剣術に関しては苦手意識が強い。
真っ直ぐ近づく、右手に握った剣。一閃。一閃を繰り返す度に、弾かれる。133歳とはいえ、景斗総司令の身のこなしは異常だった。
全部の動きを読まれている。だけど、それは牽制ではなく、むしろ挑発だ。僕はそれに乗らないよう意識を高める。
「身体が引っ込んでるよ。もっと積極的に!」
「は、はい……!」
僕は右から左に剣を振り、回転斬りに繋げる。だけど、それを軽々避けられ、振り切った時には景斗総司令は背後にいた。
僕の反応速度を試しているのだろうか。総司令は容赦なく切り刻もうとしてくる。頬の皮膚が切れる。痛みは感じない。
「この剣撃は……」
「無痛で与える特殊剣術だよ。これが使えるのは僕と隼さんくらいかな?」
「隼さんが使えるんですか?」
「うん。彼は、第一部隊の特殊暗殺部隊隊長だからね」
隼はまだ13歳。それで暗殺部隊の隊長。そんなすごい人がバレンの相手をしている。僕でさえ基礎しか教わってないのに。
「よし、一旦休憩にしよう」
携帯総司令がそう言う。僕たちは訓練場の中心に集まった。総司令が現在の戦闘能力を全員分発表する。
梨央はヒーラースキルの向上を目指し、短時間での治癒魔法を習得。瑠華さんは、風魔法の制御向上に成功したらしい。
怜音も回復スキルのレベルアップをして、前衛回復担当として役目を果たすと、高らかに宣言した。
問題は隼とバレンだ。休憩時間になっても二人はバチバチとやり合っている。疲れ知らずの似たもの同士だ。
僕はそんな二人を見て、もっと頑張らないとと、心のどこかで思った。
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俺は隼との勝負に全集中していた。今までのバトルでは全戦において惨敗。150過ぎているにも関わらず、本領発揮すらできてない。
「バレン。右。危ない」
「惑わされねぇよ!」
「バレン。迷い。なくなった。すごい」
「褒めてんのか?」
「褒めてない。思ったこと。言っただけ」
隼の動きは全く読めない。一気に速度が上がれば、急に動きが遅くなり、距離感が掴めない。
これが本当に13歳なのかと疑ってしまうくらい、魔法にも戦術にも磨きがかかっている。
俺は今までいろんなヤツらと戦ってきた。反逆者とも戦った。戦闘能力も今はだいぶ回復してきている。
俺の身体を活かした戦術。それは煙となり身を隠すことのみ。瘴気となって隠密移動をする。だけど、身体の一部分に隼の剣が触れた。
身体を元に戻す。すると、俺の右腕から血が流れる。俺の血は優人と共有している。それ故に、俺の血が無くなれば優人の血もなくなる。
むしろ、血を流す仕事が俺の役目だろう。優人の身体は俺が改ざんした。血を流せば流すほど、アイツは強くなる。そんなように。
俺だけではできなかった怒りのパーセンテージ。それがまだ芽生えていない優人には、最高の発火剤だろう。
「バレン。怪我。大丈夫?」
「こんくらい平気だ。けど、オマエどうしてそんなに強いんだ?」
「分からない。だけど。じぶん。見える。魔力。次の動き。全部」
「つまりは、神眼持ちって訳か……」
神眼。それは一部の魔法使いが使えるという、神から授かった特別な力。種類は様々で、隼の場合は分析に長けた神眼だろう。
俺も実は神眼持ちだったりする。だから、優人の身体で発動しようとした時、身体が耐えきれず激痛がした。
神眼は便利に見えてしまうだろうが、面倒なことも多い。見たくないものまでも見えてしまうというものだ。
隼はその部分をしっかり理解できていると見た。俺ももっと勉強しないとな。そう思ってしまう。
「じぶん。神眼。使いこなしてる。と思う。自信ない」
「おいおい。そこまで分析能力あるなら自信持てよ」
「じぶん。時々。間違える、だけど、みんなの魔力。見るの。楽しい。それだけ。魔力。見る。遊び。面白い」
「あはは。やれやれだな。あとでマタタビくれてやる」
「ありがと」
俺たちのバトルはようやく終わった。先に訓練を終了していたメンバーと合流する。それぞれ満足のいく仕上がりになったようだ。
俺自身も結果に満足している。隼の判断で引き分けとなったからだ。それがどれだけ嬉しいか、測りでは表現できないくらいだ。
もっと、もっと強くなりたい。その気持ちが高まっていく。この気持ちだけでも大切にしたい。
俺だって、いつまで優人の近くにいられるか分からないんだ。もっとたくさん思い出を作って、そして永井を救って。
誰からも認められる存在になりたいと、俺は決心を固めることにした。




