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第4話 最上位クラス

 無事にバイトが終わり、オーナーが用意してくれた塩おにぎりを食べながら帰宅。部屋には朝食を食べ終えたばかりの飛鷹がいた。


「優人君……おはよう。昨日……バイトだったんだ……」


「うん。休日よりも平日の方が給料高いバイトだからね……」


「そ、それじゃあ……。今までも……こうして早朝まで……?」


「ま、まあ。そんなところかな?」


 飛鷹は僕の顔を眺めながら、スっと指を近づけてきた。サッと拭ってもらうと、指先に二粒ほどの米がくっついている。


「急ぎすぎ……じゃないかな? もう少し……ゆっくりでいいから」


「ありがとう」


 僕は食べるペースを緩め、順々に進めて行く。着替えを済ませ学校へ。訓練場所の図書室には最上位クラスのメンバーが揃っていた。


「では、最上位クラスの訓練を開始します」


「先生。このメンバーは何よ。私以外使えそうな人いないじゃない!」

 

 怜音が一言発すると、それを黒髪ロングの女子生徒が切り裂いた。神代(かみしろ)瑠華(るか)、高校3年生。


 成績は全校2位の実力者。ちなみに1位は星咲(ほしざき)(あらた)先輩だ。


「まあまあ。神代さん……」


「最上位クラスの再編を要請してもいいかしら?」


「こ、怖い……。これが、最上位クラスの……圧力……」


「あたしお腹空いたー」


 空気を読まずに金色のツインテールを揺らすもう一人の女子生徒。爪は異様に長い彼女は2年の永井(ながい)彩音(あやね)だった。


 学校からの特例でメイクを許可された、コスメブランド会社の看板娘との事。成績もまずまずらしい。


「永井。飛鷹が言ってるのは圧力であって、圧力鍋ではないわよ。勘違いしないでちょうだい」


「あはは……。神代さん。言葉。強いと思い……」


「部外者はお黙りなさい。見世瀬。あなたは昨年度も今年度も学年最下位よね。飛鷹も、最下位から10番目。中谷先生、再編を要求します」


 現状のメンバーが気に食わないのか、神代は二度目の要望を出した。けれども、怜音は表情一つ変えずに――。


「すまないけど、それはできないよ。ここにいるメンバーは伸び代がある人達。最上位クラスはただ強いだけではダメなんだ」


 キッパリ言い切った。


「ただ強いだけじゃダメってどういうことよ。じゃあ、この学校の戦闘力計測制度に欠陥でもあるというの?」


 神代は今のメンバーに強い不満があるらしい。実際、昨日僕と飛鷹は『なぜ僕たちが選ばれたのか?』を話したばかりだ。


 外を見る。図書室は南校舎の二階。窓から差し込む光が眩しい。今日は異常なくらいの晴天だった。


「とりあえず。訓練を開始するよ。まずは魔力操作の練度確認といこうか。見本は誰にしようかな〜?」

 

 怜音の言葉に、神代は目を光らせた。それも、『絶対私に来る』とでも言ってるかのように。 


 僕と残りのメンバーは、その異様な自信を見せる彼女に硬直した。そう、見下されたこちら側は自信を失ってしまったからだ。


「じゃあ、優人くんにお願いしようかな?」


「え? 僕ですか?」


「うん。君昨日も魔力水を飲んだんだってね。水属性魔法で一番難易度が高いのは、小さいものに正確に水を入れること」


 どうやら飛鷹が情報共有していたらしい。ありがたいのだか迷惑なのか。きっと、飛鷹も怜音を認めているんだと思う。

 

「つまりは、僕の魔力精度が高い……」


 怜音は『そういうこと』というように、サムズアップをする。その後、長机ギリギリまで氷のコップを生成した。

 

「中谷先生。なんで2年連続最下位の見世瀬に……!」


「まあ、見てて」

  

 神代の意見を制止させたタイミングで、僕は集中力を高め始めた。一杯ずつ注ぐか、全て一括で注ぐか。僕ならいずれもできる。


「優人くんのやりやすい方法でいいよ」


「ありがとうございます。では、一括で入れます」


 こんなことできるわけが無い。神代の考えはこれだったようで、少し取り乱していた。僕は彼女を思考から消し、集中する。

 

「では行きます……。3、2、1……!」


 僕がカウントをすると全てのコップが満杯になった。これに神代は怖いものを見たような目で一歩退く。


 飛鷹は小さく手を叩き、永井はツインテールを両手で持ち上げ目を丸くさせている。僕にとっての普通は、他人には異常だったのか?


「な、何よ……。ちょっと注ぎ忘れがないか見てきてもいいかしら?」


「い、いいけ……」


「神っち。遠望魔法で確認したけど、注ぎ忘れないんだけどー?」


「注ぎ忘れ無し!? 加えて永井。神っちって何よ。私を愚弄したいわけ?」


 神代の意見に、永井は固まる。僕の後方では、飛鷹が震えていた。怜音が顎に指を押し当てて考え込む。


「じゃあ、神代さん。優人くんが注いだ水を全部凍らせるから、割り忘れないように風魔法を使って貰えるかな?」


「お安い御用よ。それくらいイージーよりも簡単だわ」


「神代さん。同じ意味を繰り返してるよー」


「余計なお世話ね。意味なんてもうどうでもいいわよ。ウィンドカット!」


 神代が詠唱してコップを割っていく。たしかにコップは全部割れたのだが……。後方にある本棚を傷つけて、窓ガラスをも粉々にしてしまう。


「な、なんで……。戦闘力ランキングでは上位の私が……」


「つまりそういうことだよ。風魔法は制御は楽だけど、距離を間違えやすいんだ。そう、こういう同じものがたくさん並んでる時。とかね」


 怜音の指摘に神代は顔を赤らめた。抗議でもするのかと思ったが、押し黙ったまま。その後彼女は静かに目を伏せた。

 

「じゃあ、みんな休憩タイムといこうか。人数分魔力水を凍らさないで……」


「怜音。その魔力水は飲まないでください!」


 怜音は『どうして?』と言って、魔力水の匂いを嗅ぐ。匂いなんてしないはずなのに、透明度が気になっての行動との事


「その魔力水。魔力99パーセントです……」


 僕の発言に空間が冷める。魔力99パーセントの魔力水は僕が作りなれているものだ。


 検査機関に出したところ、僕が使用した魔力は少量にも関わらず、魔力中毒を起こしかねないほどの魔力量が検出された。


 この高濃度魔力水は、僕だけが飲めるものでもある。だから、僕は怜音を止めた……のだが……。


「あ、ごめーん。半分飲んじゃった!」

 

 僕の警告を無視して、永井は飲み干しかけていた。顔は真っ赤に染まっていて、目が右往左往している。


「永井。話はちゃんと聞きなさい」


「えー。だってぇ……。喉渇いてたんだもーん。って、なんだろ……頭がクラクラする……。視界がぐらついて……」


 バタリ、永井はその場で倒れた。怜音が確認すると中度から重度の魔力中毒を起こしたらしい。


 状況の深刻さに怜音が行動を起こす。神代も『人の話は最後まで聞くことよ』と、小声で呟いた。


「ボクは魔力の放出の補助をするから、優人くんは魔力水の処理を。飛鷹さんは保健室に行って保健の先生を呼んできて」


「わ、わかった……」


 まだ動揺している飛鷹は、慌てて動き出す。ドアの前で1回コケてから、這うように開けて走っていった。

 

「魔力水の処理って、飲んでもいいんですか?」


「は? 見世瀬。あなた正気なの? 永井が魔力中毒を起こした魔力水は飲まないのをおすすめ……」


「ご馳走様でした」


 僕の早飲みに負けた神代は、茫然と立ち尽くす。特に体調の変化はない。むしろ、ベストコンディションになった。


「あ、神代さんも飲みます? 魔力量調整できるので……」


「い、いらないわよ……。あなたって、その……。変わってるわね……。見直したわ」


「あ、ありがとう……ございます……」


 今ここに手ぶらでいるのは僕と神代だけ。いつの間にか永井と怜音は消えていて、保健室に向かったらしい。


「その……神代さん?」


「なによ……」


「神代さんって、どうしてここに入ったか、想像つきますか? 予想できますか?」


「想像? 予想? どこの誰目線かしら?」


 神代は、僕の意見に心当たりがないようで、長い黒髪を手ぐしでとかしている。その横顔はシュッとしていて、本物のお嬢様だ。


 僕は呼吸を整え言いたいことを脳内整理する。文章構成を練るのはそこまで得意ではない。短い会話で済ませる方が好きだ。

 

「誰目線という訳では無いです。きっと、誰も理解できてない。最上位クラスに必要なのは実力以外にも何かあるはず。そんな気がするんです」


 僕がなんとなく思ったこと。間違っているかもしれないけど、神代は小さく頷いた。

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