第39話 決めきれない場所。嵐の前触れ
景斗総司令の部屋に入ってくる梨央と瑠華さん。たしか、景斗総司令は梨央だけを呼ぶようにと言ってたはずだ。
だけど、なぜか瑠華さんも付いてきている。僕が怜音になぜ瑠華さんがいるのか聞くと、『ちょうど二人がいたから』と言った。
「それで、梨央と瑠華さんはなんで一緒に?」
「そうね……。彼女と中谷先生から聞いたのよ。永井のこと。本当はあの子好きじゃないけど、言い過ぎた私にも非があるわ」
「神代さん。ようやく私の意見を聞いてくれたの正直遅すぎると思ったよ。中谷先生のおかげで緊急性が出たっていうのもあるけどね」
どうやらそういうことらしい。景斗総司令はまた無言で僕の血を抜く。これは、梨央と瑠華さん。そして怜音の分だ。
本当のことを言うと、僕のこの血にどれだけ影響力があるか心配でならない。
景斗総司令は、まず先に怜音へ打った。問題ないことを確認すると、今度は梨央に打つ。
最後は瑠華さんだけになった。問題は彼女が素直に打ってくれるか。そこが不安になってしまう。
「景斗総司令。この黒い液体は何かしら?」
やはり質問を飛ばしてくる。それに総司令は淡々と続ける。
「優人くんの血液だよ。今度最上位クラスのメンバーには、魔生物信教に関連する場所へ行ってもらう」
「魔生物信教ですって? そこに何があるのよ」
「おそらくだけど、そこに永井さんがいるはずなんだ。僕の予想だけどね」
言い切った景斗総司令は続けて血液のことに関して説明した。
僕の血液には血液型が存在しないこと。アナフィラキシーショックという拒絶反応を起こす危険性が極めて低いこと。
そのことを後から説明を受けた梨央は、少し怖気づいた顔をしていた。問題はないのに……。
「これは潜入の任務ですよね?」
「梨央さんそうだよ。君たちには、魔生物信教に関連している施設に潜入してもらい、永井さんを救うのが目的だね」
「つまり、その前準備として、優人の血液を投与している……と」
「そういうこと」
梨央は自分にされたことを気にしてなかったのか、余計に気になってる様子だった。
対して慎重な瑠華さんは、漆黒の髪を手ぐしで梳かしながら、僕の方に近づいてくる。
「あなた。親の血液型ってわかるかしら?」
「え? し、知らないです……」
「そう。親が普通ならあなたも普通のはず。だけど血液型がないのは根本部分からおかしいわね……」
瑠華さんはポケットから金色のヘアゴムを取り出した。それで、腰のあたりまで長い髪を後ろで結ぶ。
首元がすっきりした瑠華さんを見るのは初めてかもしれない。僕はそんな彼女に目を奪われた。
「景斗総司令。さっさと終わらせていただけるかしら?」
「君も打つんだね」
「ええ。むしろ、これを打たないと永井を助けにいけない。間違ってるかしら?」
「間違いじゃないよ。じゃあ、腕見せて」
景斗総司令は素早く瑠華さんに僕の血を投与した。瑠華さんの中に入っていく流れは非常にゆっくりだ。
無事に終わると瑠華さんは髪をおろした。なんだか瑠華さんの美しさに見とれている自分がいる。
「総司令。これで私も問題ないのよね?」
「うん。大丈夫だよ」
「そう。では、今回の任務について詳しくお願いできるかしら?」
瑠華さんがそういうと、僕の隣に座り込む。その動きに乗るように隼が近づいた。
「瑠華さん。顔色。悪い? 大丈夫? 瑠華さん。体調。よくない」
「あなた。私のことを思ってるつもり?」
「うん。レン。瑠華さん」
「あいよ」
バレンが瑠華さんの治療にあたる。バレンは本当に万能というか、僕の知らない部分が多い。
本人曰く150超えてるバレンの魔法知識量が気になって仕方なかった。
治療を終えるとバレンがその場を離れる。ものの数分で終わっていた。
ところどころ、隼に聞いていたことから、最善の治療法を教えてもらっていたのだろう。
僕の後方から動かない怜音は『ボクに頼めばよかったのに』と、みんなに聞こえる声でぼやいた。
隼はバレンと瑠華さんに懐いている。というよりも、僕の相手をしてくれたのはたったの数回だ。
「瑠華さん。元気なった。大丈夫。大丈夫」
「私がどうなってたのかは知らないけど。まあ、とりあえず助かったわ」
「どういたしまして。レン。さすが」
「どうも」
バレンは満足そうに、その場を去る。景斗総司令は『そろそろ本題に入ろう』と言う。
「君たちには、コスメ『彩』の地下通路へ行ってもらう」
「コスメ彩って、たしか永井さんの実家だよね?」
総司令の発言に梨央が反応する。
「そう。そこに、永井彩音さんが監禁されている可能性がある」
「なるほどね……。春日井。あなた彩の場所わかるかしら?」
「えーと……。たしか、桜ヶ咲オフィス街だったよね」
梨央の回答に瑠華さんが頷く。そして。
「見世瀬。飛鷹。二人は行ったことあるんじゃない?」
「行きましたけど……。なんで知ってるんですか?」
「じゃ、種明かしするわよ。ミルキー! 出てらっしゃい」
瑠華さんがミルキーと言うと、僕の背後から小さな生き物が出てきた。くりくりとした目に、まるまった尻尾。
これは……。
「カメレオン?」
「そうよ。私の使い魔と言ってもただのペットだけど、カメレオンのミルキー。メスよ」
「か、可愛い……」
僕はそのミルキーというカメレオンの背中を撫でた。舌を伸ばしたりひっこめたりしてものすごく嬉しそうだ。
しばらくして気持ちがリラックスしたのか、ミルキーは姿を消す。
「ミルキーお疲れ様。実はと言うと、彼女は壁のすり抜けも得意なのよ。今回の潜入の手駒にピッタリじゃない?」
「そうですね……」
「これで、メンバーは揃った。早速作戦会議と言いたいところだけど……。今日はもう遅いわね……」
誰も指名していないのにも関わらず、進行を始める瑠華さん。これに反論するような人はいなかった。
僕は一人、自分の本当の役割について考え込んだ。リーダーはたしかに瑠華さんが適任だ。
サポートには梨央が入ると安心できる。飛鷹は情報管理に一任させた方がいい。
怜音とバレンはやはり前衛がいいかもしれない。隼の場合ならどんな場面でも対応できるだろう。
じゃあ僕は……。僕はどうすればいい。
「瑠華さん。僕はどの立ち位置に?」
「今から決めるつもり? 早まるにもほどがあるわ。私と中谷先生、そして春日井。飛鷹は……その様子だとあなたも打ったみたいね」
「僕は早まってるというか……」
「迅速に助けたい気持ちはわからないわけじゃない。だけど、あなたの血液を打ったばかりの人が計四名。体調を万全にするのが先だわ」
瑠華さんの指摘に、梨央も飛鷹。怜音まで頷いた。僕は頭のモヤモヤを抱えながら、帰っていくメンバーを見送る。
取り残されたのは、僕とバレンそして隼の三人だけだった。隼はまた景斗総司令の後ろへ移動している。
両肩の上に両手を乗せてもみもみする仕草。どうやら隼は総司令のマッサージをしているらしい。
「んじゃ。俺たちも戻るか……」
「それよりも。バレン。まだ訓練場開いてると思うから、一緒に訓練しない」
「ん? なんでだ?」
僕だってもっと強くなりたい。僕の目に留まったのは景斗総司令の近くにある二本の木刀だった。
それも、見た感じ普通の木刀じゃない。どんな強い衝撃にも耐えられそうな、金属質の輝きを持っている。
「剣技を極めたい。ってわけか……。面白いな。よし、俺が付き合ってやる」
「ありがとう」
景斗総司令に木刀を借りていいか聞くと、借りるどころか、そのままもらっていいとのことだった。
二人で訓練場に向かう。場内は誰もいなかった。ちょうど入浴前の訓練が終わったころらしい。
僕とバレンは木刀を構える。思ったよりも重い刀は、なんとなく手に馴染んだ。
僕たちは三戦ほど勝負した。結果は僕の惨敗。バレンもかなり身体の扱いに慣れたようだ。
刀の片付けはお風呂に入ることができないバレンにお願いした。
毎日入っているお風呂だけど、ここに入る前は数日に一度が普通。
今ではしっかり綺麗にしないと落ち着かない。
入浴を済ませ部屋に戻り布団へ潜ると、そのまま眠りについた。
それは、僕が今の僕になる前の両親との思い出が詰まった夢。
やがて悪夢に塗り替えられる前に、日付は10月2日に切り替わっていた。




