第38話 総司令室にて
夕食後のケーキは非常に重かった。だけど、味はとても美味しく、自分のお気に入りにもなった。
麗華さんに景斗総司令が帰ってきたかを聞くと、『戻っておられます』と返ってくる。僕は飛鷹とバレンを誘って、黄金扉へと急いだ。
夕食後の廊下は、部屋へ戻る隊員で溢れかえっていた。この圧に飛鷹が耐えられるか心配になったが、問題なさそうだ。
黄金扉の前に着く。二人に『開けるよ』と伝えると、僕は扉を開いた。そこには、椅子に座る景斗総司令と怜音がいた。
そして、椅子に座る景斗総司令の後ろから、ひょっこり別の人が出てくる。
「優人。ナオヤ。レン。遅かった。じぶん。一番乗り。いぇい!」
「なんで隼が……」
「総司令。呼ばれた。魔生物信教。新事実。判明した。総司令。焦ってる。永井。危険。危ない。怖い。部屋。判明。永井。苦しんでる」
「『え!?』」
隼の暗号のような言葉の意味。金髪少女でテレビでは明るく元気な永井彩音が危険ということ。
僕はバレンに解読してもらいながら、さらに噛み砕いていく。永井の部屋が判明した。続いて出される景斗総司令のパソコン画面。
そこは、コスメショップの『彩』の中と説明される。そこは地下通路が繋がっていて、関係者以外立入り禁止区域になってるという。
そこを進んで奥の2番目の扉。景斗総司令はそこまで行ったとのこと。どうやらこの部屋に永井がいるらしい。
「これは第一部隊ができることではない。これは、最上位クラスのみんなでやらないといけないこと。怜音さん。わかるかな?」
「は、はい……。全てボクが上手くやれなかったせいですので……」
「そうだね。今回は最上位クラスのメンバー全員と、隼さんにお願いしたい」
最上位クラスと隼。つまり総勢五人で行くということ。僕と飛鷹は顔を見合い。状況把握に急ぐ。
「優人さん。僕の推測だとこの地下通路は魔生物の瘴気が流れている。優人さんと隼さん。レンさんの三人は問題ないと思う」
「はい。たしかに僕を含め、それぞれ魔生物に関連するものへの耐性はあります」
「うん。そういうこと。だけど、怜音さんや瑠華さん。梨央さんに直哉さんは、魔生物への耐性がない。つまりどういうことか?」
答えは簡単だ。魔生物感染症に感染する可能性が少なからずあるということ。僕はそう答えると、景斗総司令は頷いた。
そして、総司令が取り出したのは注射器だった。ここから考えられること、それは、一つしか思い当たらない。
「優人さんの血液を、今回出動するメンバー全員に提供して欲しい」
「ぼ、僕の血液をですか!?」
「総司令。それはボクも疑問点があります!」
手を挙げたのは怜音だった。
「他人の血液を提供した際。適合しなければアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります」
「問題ないよ」
「問題なくありません! それによりにもよって……。そうか……」
「うん。ようやく意味が理解できたようだね」
景斗総司令は椅子から立つと、僕の方へやってくる。右腕を持ち上げられ、慣れた手つきで血を抜いていった。
「優人さん。隼さん。レンさん。三人ならもっとわかるよね。この血には、魔生物感染症を防ぐ効果がある。いわば抗体そのものなんだ」
「『抗体……』」
たしかに、魔生物信教の本部に行って血液提供をした時。苦しんでいた人含め多くの人を救うことができた。
だけど、熱烈な信者は接種するのを異常に拒んでいたのもたしかだ。もちろん、アナフィラキシーショックとやらを起こした人はいない。
「つまり、僕の血液を出動するメンバーに打てば、安全に潜入できるということですか?」
「大正解。君の血液型はnull。つまり存在しない。存在しない血液型は、ほかの血液に違和感なく溶け込む」
たしかにそれなら安全に予防できる。先程も言ったように、僕の血液のおかげで一部の信者を、バレンが教えてくれた強制獣化を防げた。
「だけど、景斗総司令。ボクにもう一つ疑問というか懸念点があります」
「懸念点とは?」
「はい。ボクはもちろん接種するつもりでいます。飛鷹さんや春日井さんは快く接種してくれるはずです。ただ約1名問題のある人がいます」
怜音はそう言ったあと、深呼吸をした。彼が言わなかった人。それは、小説から出てきたような悪役令嬢気質の黒髪少女、神代瑠華。
怜音が問題視しているのは、抗体の接種だけではないのは明らかだ。瑠華さんと永井は相性が悪い。
あの一件が原因で、永井は来なくなってしまったのだから。それもある上で、瑠華さんが協力してくれるはずがない。
「とりあえず。怜音さんは梨央さんを呼んできてもらえるかな?」
「わかりました。失礼します」
「よろしくねー」
すると、景斗総司令は僕の血液が入った注射器を持って飛鷹に近づく。飛鷹は少し落ち着かない様子だったが、左腕を差し出した。
「ありがと。じゃ、刺すよ」
「お、お願い……します……」
飛鷹の身体に僕の血液が入っていく。接種作業は数秒で終わった。無事完了したことに、飛鷹は膝から崩れ落ちる。
「こ、これで……。地下通路……行って大丈夫……なんですか?」
「うん大丈夫だよ」
「よかったね。飛鷹君」
僕が声をかけると、飛鷹はコクコク首を縦に振った。実行日までしばらく経過観察ということだ。
「怜音さんから聞いたけど、僕が外出中の時部屋の前まで来てたんだって?」
「はい。バレンと飛鷹君と一緒に」
「そう。つまり、直哉さんはレンさんの正体を知ってしまったと」
その言葉に、飛鷹はまた頷く。この空間には、〝バレン〟という名前を知る人だけが残った。
「じゃあ、君たちの話を聞かせて頂こうか」
「わかりました。バレン。はい」
僕はバレンに自分のスマホを渡す。
「おうよ。ここをこうして……。メモページを開いて。景斗。これを読んでみてくれ!」
「了解」
そのスマホをバレンは景斗総司令に渡した。彼は真剣な顔でそれを読んでいく。一瞬顔色が変わったのは気のせいだろうか。
「ありがとう。全部読ませていただいたよ」
「『ありがとうございます』」
「これはかなり重要な証拠になるね……。勝手ながらデータを僕のスマホに入れさせていただいたよ」
景斗総司令は僕のスマホを返す。そして、金色背面のスマホを操作し始めた。その表情はとても満足そうだ。
バレンと飛鷹の顔を見る。二人ともこれで問題解決に一歩近づいたというような、安堵の顔をしていた。
「これは後日関東地区政府の会議に提出させていただくよ。他にも情報があったら、ぜひ教えてもらいたい」
「総司令、わかりました。ってバレン!?」
ふと、バレンのことに関して思い出した僕は、無意識に呼んでいた。バレンは頭にハテナを浮かべたような顔でこちらを見る。
「なんだ?」
「バレン。他にも知ってることあったよね?」
「あ、ああ……。俺が魔生物信教で崇められていることか?」
「優人さん。それは本当なのかな?」
「はい」
僕は魔生物信教でのことをさらに詳しく説明した。バレンが魔生物信教の信仰元になっているということ。
バレンの人気が非常に高いということ。他にも、治療法をバレンが知っていたことなどなど。知っていること全部話し切る。
「バレンさんの人気は……凄まじかったです。みんなバレンさんのことを知ってて……。だけど、ぼくは……」
飛鷹はどうやら自分との比較対象にバレンを選んでしまったようだ。バレンは自分の人気はどうであれ、どこでも堂々としている。
だけど飛鷹は……。
「ぼくは、テレビの前だと堂々としていられる。自分じゃない自分になって、しっかり話ができる。だけど、実際には人見知りで……」
「直哉さんはもう克服してるよ」
景斗総司令が言う。たしかに、飛鷹は僕に全部を打ち明けてくれた以降、特定の人の前でハキハキと話せるようになった。
景斗総司令の意見には僕も同感だ。飛鷹は誰よりも頑張っている。それは、心から誇って欲しい。
「飛鷹君はすごいと思うよ。まだ僕の方が自信ないから。もっと頑張れば、もっと色んな人と話せるようになるんじゃないかな?」
「そう?」
僕と飛鷹が話してる時、ガチャリと扉が開く。そこには、梨央を連れてきた怜音と、なぜか瑠華さんが立っていた。




