第36話 音声ファイルによる魔生物信教の実態
飛鷹が音声を分解した結果。様々な謎と答えが出てきた。まずはデータの一番上に出てきたファイルを開く。
そこでは、女性の声と男性の声が流れる。話されていたのは、バレンに関してだった。飛鷹にバレンのことを知られてしまったが、仕方ない。
「ば、バレンって……誰?」
その飛鷹の疑問にバレンは自分を指さし、説明した。飛鷹は蓮がバレンであることを知り少しオドオドしていたが、すぐに理解してくれる。
「つ、つつ、つまり……。れ、蓮さんの本来の名前がバレンで……。この……会話記録を読み解く限り、史上最強の魔生物だった……と……」
「そうだな。まだ完全に記憶を取り戻したわけではないが……」
「き、記憶を取り戻して……ない……?」
「おん」
バレンは飛鷹の言葉を肯定する。そして、一つ残骸を食べた。飛鷹はその残骸に興味があるようで、一つ手に取るとスマホで写真を撮っている。
「ここ、これって?」
「残骸」
「な、何の……。黒くて……禍々しい……けど……。食べ物?」
「飛鷹、オマエは食べない方がいい」
「う、うん……」
そんな二人の会話を聞きながら、まだ頭がぼーっとしていた僕は、少し食べようと手を伸ばす。身体が欲しているから仕方ない。
なのに、飛鷹が僕の腕を掴んだ。もう少し残骸を食べれば治りそうなのに。
「飛鷹君。僕は大丈夫だから」
「た、食べない方がいいよ……。さっき調べたけど……。この残骸は危険……だから……」
「ん? 優人普通に食べてるぞ? 食べない方がいいと言ったのは飛鷹のみであって、優人はこれがないと生きていけないんだ」
「え、え?」
飛鷹はバレンの言葉に目を右へ左へ動かし、明らかに動揺した表情を見せた。離される手。僕は残骸を手に取り食べる。
過去を思い出したことで、いくらか口に合ってきた。相変わらず苦いのが気になるけど、そこまで問題視するほどではない。
「本題に戻そうか」
「優人君ちょっと待って……」
「何?」
「ここの部分なんだけど……」
飛鷹はバレンのことを話してる会話の一部分を選択した。そこではこのようなやり取りをしていた。
『あの優人って子? さっき残骸をたくさん食べてたわよね?』
『そうだな。けどあいつは何故魔生物にならないんだ? 我々は魔生物を信仰している身。身を滅ぼしたとしても、供養のためにも魔生物の残骸を蓄えることこそ、仕事なのに……。魔生物にならないものがいるのでは、形態が変わってしまうではないか』
『そうね……。あの魔生物信教に忠実な〝永井一族〟も、今では魔生物たちの血肉になって第二の人生を歩んでいらっしゃるのに、悲しい現実ね……』
この会話は僕でも誰でもわかるくらい重要な証拠だった。永井一族は魔生物になった。そして、それにはミサトさんも関わっている。
僕はそれをスマホにメモしようと思ったが、タイピングが遅く暗記も苦手なのでリタイア。代わりにバレンが担当することになった。
バレンはものすごく操作が早かった。まるでスマホの扱いに慣れ親しんでいるようで、〝ローマ字〟という入力方法でポチポチ打っている。
そしてバレンから『オマエ機械音痴なんだな』と笑われてしまった。正直言ってその考えはあながち間違いではない。
入力が終わり、次のファイルを開く。そこでは、子どもの声が聞こえた。どちらかと言えば、怖がっているイメージ。
『あのお兄ちゃん。すごいね……ぼくの分無くなっちゃった』
『わたしのもそうだよ。魔生物って強いからなろうと頑張ってるのに……。これじゃあ、からだが持たない。新しいざんがい来ないかなぁ?』
こちらは魔生物に憧れているメンバー。どうやら、第二のバレン級を生み出す目的らしいことがわかった。
だけど、それは不可能だとバレン本人が言う。人間が魔生物になる際自我の大部分が消えてしまうとのこと。
つまり、感情や思考までも失ってしまう。もちろん人格も全て。その中で唯一魔生物となっても自我と人格を維持できたのがバレンらしい。
「俺は元々……。今もそうだが、超ドMでさ。痛覚とか苦痛とか、全部興奮材料にしてたんだ。俺だけが使える魔法。それが獣化だった」
「獣化?」
「そうだ。人の身体を無理やり獣の姿に変える。俺が昔いた異界では禁術と呼ばれてたな……。それも一つ間違えれば自我を失う」
そう言ってまた一つバレンは残骸をザクリと噛み砕く。ポロリ破片が落ちた。それは、器から何かがはみ出たようだった。
「その獣化って……」
「するとかなり痛いぞ? 身体の構造そのものを変えるからな。まあ……。俺は痛かろうがなんだろうが、どっちでも良かったけどな」
「それ……。実際は無理してたんじゃ……」
心配になってきた。つまりは、魔生物の残骸を蓄えて強制獣化をした場合、その状態に陥った人はそれ相応の地獄を味わうということ。
それは、どうにかして止めなければならない。僕はバレンに、さっき言った情報もメモするようにお願いした。
「俺が無理をしていた……か……。最終的には元の姿に戻れなくなったからな……。骨が変形してしちまってさ」
「やっぱり……。でも、今は魔生物としてだから、問題ないよね?」
「まあな。たまには獣の姿にもなってみるか……」
そう言ってバレンは黒い煙に包まれる。煙が晴れると、一匹のオオカミの姿。これが、バレンの獣化した姿らしい。
赤い目はそのまま。毛は黒く、触れるとものすごくサラサラだ。バレンは目を細めて、身震いをした。
「勝手に触るんじゃねぇよ」
「あはは。ごめん」
「蓮……。か、かっこ……いい……」
「飛鷹ありがとな」
バレンが飛鷹に礼をすると、飛鷹は小声で『どういたしまして』と答えた。少しずつバレンに対する緊張がほどけてきたようだ。
「じゃ、じゃあ。次のファイル……開くよ。その前に蓮さん元に戻って」
「わかった。裏技があるから実際にやってみっか……」
そう言うと、再びバレンは煙に包まれる。少しすると、今度は人と獣が組み合わさった獣人になっていた。
だけど、飛鷹にはあまり評価されなかったようで、即座に人の姿になる。やっぱり、長身でかっこいい彼がいいらしい。
「開くよ……。あと二つファイルがあるから……」
「う、うん……」「おう……」
飛鷹がファイルを開く。そこで語られていたのは、またバレンのことだった。この魔生物信教はバレンを慕っている団体だと、しっかり証明できる。
「蓮……人気……。ぼくより人気……かも」
「それくらい、俺に憧れる人が多いんだろうな。俺が魔生物の長だったってのもあるのだろう」
「魔生物の……長……?」
「そうだ。俺は人間に危害を加えないよう指示していたつもりだったが……。上手くいかなかった。魔生物に反逆者生まれた」
その反逆魔生物は人里を襲う敵になり、異界から別の魔生物を呼び、日本中を襲撃した。それが魔生物襲撃事件らしい。
「それでだな、俺は優人の両親を見つけた。オマエの両親とはちょっと〝アレ〟をだな……」
「〝アレ〟?」
「今は申し訳ないが言えない。そんであいつら、混乱したんだよな……。オマエが生まれてから、ずっとなんも食ったり飲んだりしねぇってよ」
僕が飲み食いしなかった……。じゃあ。なんで僕は生きているんだろう。近く、僕がお世話になった孤児院へ聞きに行くことにした。
そして、飛鷹が最後のファイルを開く。そこでは、『痛い、痛い』という悲鳴の声が聞こえた。これが強制獣化によるものだと気づく。
こう考えたくないが、強制獣化をした時の激痛を自ら体験したくなった。飛鷹に聞くと、昔男性が女性の身体で起こる激痛を体験できる器具があったらしい。
きっと景斗総司令だったらすぐに作ってくれるだろう。僕はパソコンから流れる断末魔にも似た悲鳴を聞きながら、最後の残骸を食べた。




