第35話 魔生物に対する悲惨な扱い
2026年。新年明けましておめでとうございます
廊下で隼と別れ、自分の部屋に戻った僕。近くにはバレンが立っている。本人からは〝蓮〟でも〝バレン〟でもいいと言われているが……。
正直どちらでもいいと思った。結論からして、中谷怜音や朝比奈麗華さん。
そして、神代瑠華さんや春日井梨央など、総司令と隼以外の人に知られなければいい。
だから僕は、一部のメンバー間でバレンと呼ぶことにした。本人からも問題ないと言われている。
総司令の部屋から帰る時。いくつか残骸を貰った。今部屋にある小さなテーブルには山になった残骸が置かれている。
見た目からして漆黒の山だ。総司令は僕とバレンの二人で食べていいと言ってくれた。
テーブルを挟んで反対側には、バレンが座っていた。話す気満々なのが伝わってきて、こちらが縮こまってしまいそうだ
「バレン。なんで今更?」
「んーとな。話がそれなりに昔になっちまうが……」
そう言って、バレンが残骸を一つ取り齧り付く。真似して僕も手に持って食べた。本当のことを言うと残骸の味は苦手だ。
ただ、今僕の血液不足を改善するには、これを食べる以外方法はないようで……。嫌々食べている状態。いずれは慣れるだろう。
もちろん、目の前にいるバレンは普通に食べている。むしろ食べ慣れている様子だった。僕とバレンの違いは何なのだろうか。
「昔の話ってどれくらい?」
「そうだな……。オマエが10歳くらいか? 約6年前くらいだな。オマエの母ちゃんが死んだ」
「僕のお母さんが?」
唐突な始まり方に僕は食べる手を止める。対してバレンは二個目三個目と食べていき、僕の食べる分がなくなりつつある。
僕の母親が6年前に死んだ。それは知っている。だけど、『問題はここからだ』とバレンは付け加えた。
「んで、血縁であるオマエの心臓が埋め込まれ、復活。そんな中でもオマエは生きていたが……」
「……」
心臓がないのに生きていた。考えてみると、本物のゾンビだ。魔生物感染症どころの話ではない。
だけど、歴史の教科書に同じような記述があったと思う。景斗総司令と会話していた時に出てきた〝片翼様〟についての記述だ。
片翼様は異界の地にいた時。よく人体実験に付き合っていたという。それは、身体のありとあらゆる場所に爆弾を仕掛けるというもの。
他にも普通の食事ができない期間は毒草や毒キノコを食し。違法薬物による身体影響の経過観察用被検体にも参加していたらしい。
「幼少期のオマエと俺はずっと一緒に行動をしていた。他の人に馴染めないオマエが唯一懐いたのが俺だったんだ。心臓を失ったオマエを……俺は助けたかった……」
「つまり……。今僕に埋め込まれている心臓は……」
「そういうことだ。魔生物となり変質してしまった俺の心臓。オマエの中に俺がいたのもそれが理由さ」
もう一度整理してみよう。僕の心臓は今母親の方にある。そして、今僕の中にはバレンの心臓がある。
バレンの心臓にはバレンの意識が保存されていて、僕の中で展開された。ここまでは理解できた。
だけど、そこまでして僕の役に立とうとするのかがわからない。僕の中で展開された際もバレン自身の記憶が残っていてもおかしくないはず。
なのに、バレンは今の今まで過去を忘れていた。隼のおかげで記憶を思い出し、今があるわけだ。
「じゃあ、どうしてバレンは記憶を……」
「そうだな……。三龍傑の……黒白だっけか? アイツから警告を貰ってたんだ。裏では片翼も動いていた。オマエの命の灯火が消えるかもしれないってよ」
つまり、バレンは自分の意識を犠牲にしてまで、僕を生かすことに力を入れていたということになる。
そこまでしなくても。僕は他の人と同じものは食べるのを諦めてたし。興味も湧かなかった。あれ? どこかおかしい気がする。
僕が他の人と同じものを食べなかった。食べられなかったのではない。食べなかったんだ。昔食べていたものはたしか……。
朧気な記憶を引っ張り出して、過去を辿っていく。今まで食べてきたもの。
最上位クラスのメンバーと会って、蕎麦やとんこつラーメンを食べるようになる前。
人生のほとんどを魔力水とスープとバイト先の賄い。それよりも前。もっと、もっと前を思い出してみる。
モザイクがかかったように解像度の低い情報。そこにはたしかに黒いなにかが浮き出ていた。この見た目から考えるにこれは……。
「僕が、小さい時に食べてたもの……。魔生物の残骸だった……。孤児院の人が『これは君にしか食べられないものだから』って、言ってた気がする……」
「やはり……な……。だからオマエは俺の心臓を埋め込まれた際、発作を起こさなかったのかもな……」
「発作?」
「おう。実はだな……。俺以外にも犠牲になった仲間がいるんだ。俺が魔生物となった後に仲間になったやつらがな」
バレンは悲しそうな顔をして、何個目かわからない残骸を皿の外に置いた。きっと大切にしてきた仲間だったのだろう。
「俺以外にも、人間に心臓を提供した魔生物がいたんだ。だけど……。みんな適合せずに命の灯火を浪費してしまった。つまり、実験に使われるだけ使われて、死んで行ったんだ。悲しかった。ギルドを裏切ったあとにできた仲間だったからな」
「そう……だったんだね……」
正直聞きたくないと思ってしまう。僕が発作を起こさなかったのは、元々魔生物関係への耐性が完全にあったから。
そう仮定するしかなかった。もしかしたら、景斗総司令も知っているのかもしれない。状況が落ち着いたら、聞いてみよう。
「一旦この話はやめて、永井さんを救う方法を考えない?」
「そ、そうだな……。そっちが先かもしれない……」
僕はスマホを用意する。実は飛鷹が部屋にやってきた際、彼がバックグラウンドで音声録画する裏技を教えてくれた。
それを利用して、魔生物信教の本拠地で交わされていた会話を記録していたのだ。これは重要な状況証拠になる。
僕はそれを再生した。だけど、音声がガヤガヤしていて、聞き取れない。それが騒音に聞こえたのか、誰かが部屋の扉をノックした。
「入っていいよ」
ガチャリ。入ってきたのは飛鷹だった。右脇にはパソコンを抱えている。彼と会うのも久しぶりな気がした。
「優人君。任務お疲れ……だ、誰!?」
「ん? 俺の事か?」
飛鷹はバレンの返答に怯えながらうんうん頷いた。バレンは少し考えたのち『蓮だ』と答えた。
それでも緊張が解けないのか、飛鷹は唇をプルプル震わせている。どうやらバレンの瞳に怯えてるのかもしれない。
「蓮。目の色……」
「ん? あ、ああ……。赤じゃたしかに威圧感あるよな。青ならどうだ?」
そう言ってバレンは目の色を青くさせる。それが、飛鷹にとってよく知っている総司令に似ていたのか、震えが止まった。
「そうだ。飛鷹君。この前はバックグラウンド? での自動音声録音の方法教えてくれてありがとう。おかげで気付かれずに録音できたよ」
「どど……どういたしまして……」(チラッ)
飛鷹は僕と話してる間に3回ほどバレンの方を向いていた。どうやら、なにかがものすごく気になるらしい。
「なんだよ。俺の方を見て」
もちろんこれにはバレンも反応した。
「あ、青い目……。合ってない……。そ、そんな気が……します……。蓮さん……」
「そうか? んなら元に戻すが……」
「そそ、その方が……いいと思う……。い、違和感しか……なかったから……」
飛鷹のアドバイスに、バレンは目の色を元に戻した。やっぱり、バレンには赤い目の方が似合っていた。
一旦落ち着いたので、僕は録音した音声の解析を飛鷹にお願いする。スマホとパソコンをケーブルという配線で繋ぎデータ送信。
音声ファイルを飛鷹のパソコンで保存し、それをまた見た事のないソフトに読み込ませる。作業は数分で終わった。
その中身は、様々な事実と真実のオンパレードだった。
改めて本年もよろしくお願いします
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