第30話 憧れ、絶望、真実と加速
景斗総司令に報告へ行く十分前。僕と飛鷹はこの事実に混乱していた。飛鷹はこの事実に辿りつくのにかなり苦戦したらしい。
「飛鷹君。だけど、なんで夜の半分の時間で……」
「そ、その……。このソフト……使ったから……。手順が省けただけ」
そう言って、飛鷹はデスクトップ画面に表示された四角いアイコンを指さす。それは、〝ハッキングアシスタント〟というものだった。
このソフトは合法ではなく違法ソフトで、悪用するユーザーがほとんど。国が厳重に目を見張っているソフトらしい。
だけど、飛鷹は気になったサイトの情報を入手する為だけに使っているようだ。もちろん、正当理由で使用する約束で総司令から許可がおりているそうだ。
「これ、便利……なんだよね……。ぼくはネット小説をよく読むけど……。今のネットは危ないから、危険なサイトほど使用頻度多くて……」
「飛鷹君……」
「ぼく。力になれたかな?」
「なれてるよ。ものすごく」
僕の言葉に、飛鷹は目をウルウルさせた。それほど嬉しかったのかもしれない。それに彼は続ける。
「魔力測定があった日。優人君一緒に帰ってくれたよね」
「うん。そうだったね」
「その時。ぼくのおじいちゃんの話してよね」
「うん。したね」
飛鷹が声を震わせながら、僕の両目を見る。薄暗い部屋の中、静寂が包み込んだ。
「ぼくのおじいちゃん。小説家だったんだ。ぼくもそれを追うように小説を書き始めた」
「え?」
「それで、ぼくは小学6年の時にデビューした。嬉しくて色んな人に自慢したよ。だけど……」
こんなに饒舌に話す飛鷹は見たことがない。僕はその話に集中する。さっきの『だけど』には明らかな違和感を抱いた。
「ぼくがどんどん有名になった分。ぼくを虐める人が多くなって。しかもその虐める人が過半数を占めていて、殻に閉じこもるようになったんだ」
「だから、人と交流するのを……」
「うん。全部はぼくが弱いせいだよ。だけど、中谷先生の言葉で少し勇気が出た。ぼくを認めてくれなかった人が多い中。一番身近にいた認めてくれる人。それが、優人君で中谷先生で。最上位クラスの仲間たちなんだって」
「……」
飛鷹は清々しそうな表情で言い切った。今までのオドオドした感じの欠片すらない。ものすごくハキハキした、見違えるような姿。
最上位クラスに入ったことで、今の飛鷹は自信に満ち溢れている。僕は、そんな彼がものすごく輝いて見えた。
飛鷹がパソコンの画面を魔生物信教のページに変える。そこにはまだ信者リストが表示されていた。
「優人君。早く総司令に知らせないと」
「そうだね。行こう!」
僕と飛鷹は同時に飛び出す。黄金の扉前まで行くと、中でカチカチという音が聞こえた。ノックしてドアを開ける。
「『総司令。夜分失礼します!』」
僕と飛鷹の声が重なる。それも偶然なのか同じ言葉を発していた。景斗総司令はそんな僕たちを驚いた顔で見る。
「優人さんに直哉さん。こんな時間に何?」
その質問に先手を打ったのは、事実を突き止めた飛鷹だった。
「魔生物信教を調べる作業が終わりました。総司令。これをみてくだひゃい!」
飛鷹が大事なところで噛む。そんな彼が可愛く見えてしまうのは何故だろうか。僕は『大丈夫?』と声をかける。
「だ、だいひょうぶ……。でしゅ……」
結果、余計に可愛さが際立ってしまった。飛鷹は顔を真っ赤に染め、照れ隠しなのか俯いた。
「直哉さん。焦らないでいいよ」
「あ、ありがとうございます……。総司令。改めてこれを見てください」
「うんうん」
気を取り直して、飛鷹は自身のパソコンを景斗総司令に見せた。総司令はタッチパッドを操作してじっくり確認中。
「なるほどね……。Nは苗字のイニシャル。FMは女性って意味って訳か……」
「そうですね……」
「直哉さんに任せて正解だった。心から感謝するよ」
「ありがとうございます。総司令」
そこで飛鷹の緊張状態が解けたのか、ゆっくりと膝から崩れる。出来れば彼と同じ目線で見たいので、僕も座った。
だけど、入口で聞こえた『カチカチ』という音。それは一体なにだったのだろうか。景斗総司令の机を見る。
そこには煌々と光るパソコンの画面があった。どうやら、景斗総司令も仕事をしていたようだ。
「景斗総司令。そのパソコンに映っているのは」
「優人さん気になる?」
「はい」
景斗さんは、パソコンの画面を見せてくれた。それは、永井彩音の家系図。よく見ると、男性名と思われる名前が多い。
「永井さんの家系は男性社会だったみたいでね……。永井彩音さんは、唯一の女性だったことが判明したんだ」
「そのそれと、魔生物信教に関係があるんですか?」
「そうだね……。僕が見る限り、直接的な接点はないと思う。だけど、最近不審な動きがあることに気がついたんだ」
「不審な動き?」
景斗総司令は画面を変更していく。それは、事件リストだった。そのほとんどが未解決失踪事件に関する内容。
そして、その共通する失踪者の名前が……。
「『永井……一族……』」
これもまた飛鷹と重なる。同時にお互いの顔を見合わせ、景斗総司令に尋ねた。これが、魔生物信教が起こしたことなのかを。
僕は夢の中で片桐さんから意見を貰っている。最近起こる未解決失踪事件の被害者の多くが、夢をブロックしていたということを。
「景斗総司令。そのもう一つの共通点で、〝黒い物体〟または、〝黒い塊〟はなかったですか?」
「なるほど。優人さんの意見も大事だね。僕が見た限り、全体の6割にそのようなものが発見されてる。物は自分が大事に保管してるよ」
「その正体は。もしかして、この前見せてくれた、魔生物の残骸ですか?」
その僕の発言に、景斗総司令は肯定した。やはり、魔生物の残骸が見つかったとのこと。これは、かなりヤバいことになった。
景斗総司令は魔生物の残骸には依存性があると言った。その依存性は洗脳由来のもの。食べた途端に洗脳状態になり、依存する。
ただ、蓮や隼みたいに依存しないタイプの人もいる。その人は魔生物の残骸への耐性があるらしい。
「飛鷹君は事件の発端を探して」
「わかった。総司令、その情報をぼくに全部送って貰えますか?」
「もちろん。頼りにしてるよ」
「ありがとうございまひゅ!?」
飛鷹がまた噛む。舌の動きと口全体の動きが噛み合わないのか、滑舌があまり良くないようだ。無理させるわけにはいかない。
僕はこれからどうすればいいか。それを景斗総司令に聞いた。すると彼は、
「魔生物信教に潜入して、より詳しい情報を集めて欲しい」
と言った。もちろん僕は役に立ちたい気持ちがあったので承諾する。こうして僕は、今日から魔生物信教に通うことが決まった。
それにはもちろん、綿密な計画が必要だ。僕は景斗総司令と作戦会議をし、魔生物信教の入信者として装うことになった。
「バレないように気をつけてね」
「わかりました。情報はスマホのメールでいいですか?」
「うーむ。それだと、目立つから、潜入中は僕が常時通信魔法を飛ばしとくよ。できるだけ念話を使う形の方がいい」
「わかりました。でも、景斗総司令。この第一部隊本部を維持しながら、念話って可能なんですか?」
総司令は、その言葉に大きくサムズアップをする。どうやら問題ないようだ。この人の脳内がどうなっているのか、非常に気になってしまう。
「そろそろ解散にした方がいいね。今2時30分だよ」
そう景斗総司令が言う。
「そうですね……。優人君。部屋に戻ろ。ぼくも寝なくちゃ」
「そうだね。じゃあ、景斗総司令。おやすみなさい」
その後に飛鷹も『おやすみなさい』と言い、解散となった。これだけでもかなりの収穫だ。
明日から忙しくなる。しかし、その道のりは非常に険しいものになるとは……。




