第29話 夢のお告げ
訓練が終わり夕食と入浴を済ませ、布団に入ったあと、僕はすぐに眠りについた。見た世界は蓮と初めて会った真っ白な空間。
ここには僕と蓮しかいない。この物静かな場所が癒しをくれる。それくらい、落ち着いた場所。
「蓮。来たよ」
「……。また……」
「蓮?」
彼は非常に落ち込んだ様子だった。それもそのはず、隼に全戦全敗しているからだ。加えて今日は瑠華さんから強烈な言葉を浴びせられている。
僕はどう声をかければいいのかわからなかった。勝負ごとへの執着はない僕が、慰めの言葉なんで絞り出すことすら不可能だ。
「なんで……! なんで俺は!」
「蓮、落ち着いて……。あとでウニ丼食べさせてあげるから……」
「そういう問題じゃないんだよ。隼が見せた記憶。そっちを思い出したいのに……」
どうやら僕が抱いた問題とは関係なかったらしい。隼が見せたもの。残念ながら僕は全くもって知らない。
部屋は広く。壁はない。一人にさせた方がいいと思った僕は、蓮から少し。ほんの少しだけ距離を取った。
すると、蓮は諦めたかのように僕のところへくる。そんな彼を、僕は優しく見詰めた。それが正解だと思ったからだ。
「もう大丈夫だ。余分に考えても意味ねぇよな。すまん。取り乱しちまって」
「ううん。いいよ。それが人である証なんだし」
「人である証……か……。オマエ面白いこと言うな」
「そうかな? 僕も無意識に言ってたから、どう思って出てきたのか……」
「それでいいんじゃないか?」
蓮はそう言うと、右手の指を鳴らした。すると、目の前にテーブルが現れる。その先には誰も座っていない椅子。
その中には僕と蓮の分もある。二人で椅子に座ったが、空席が気になって仕方ない。僕は隣に座る彼に問いかけた。
「蓮。椅子が一つ多いみたいだけど……」
「ん? 人数分だが……」
「え?」
少しして、その空席に座る人がやってくる。薄紫色の髪。小柄な身体。その正体は片桐夢乃だった。
片桐さんは軽く一礼をすると、椅子に座る。しかし、彼女はどうしてここにいるのだろうか。
過去を思い出してみる。片桐さんは、夢の管理者。夢世界を統一している人だ。だけど、僕の夢は夢というより意識間の場所。
そんな世界に干渉なんてできるはずがない。
「お久しぶり。優人くん。それと初めまして」
「蓮だ。よろしくな」
「蓮くんね。夢乃です。よろしくお願いします」
片桐さんはなんだか楽しそうだった。聞けば僕と会った以降、睡眠も改善して普通に暮らせるようになったのだとか。
それはそれで良かった。まるでこちらで起きたことのように、安堵のため息をつく。そんな僕を蓮と片桐さんが微笑んだ。
「ところで、片桐さんはどうしてここに?」
「はい。先日総司令から頼まれたことがあって……。永井彩音さんの夢状況を調べて欲しいって」
「永井さんの夢状況?」
「そう。夢の管理者としての仕事。なんだけど……」
片桐さんの声が曇る。ということは、なにか問題が起きたってことだろう。僕は蓮に話題を振った。
「蓮。片桐さん大丈夫かな?」
「わからないな……。夢乃。その永井の夢状況ってどんな感じなんだ?」
「それが……。永井さんの夢が見えないんです。不眠状態になってるのか……もしくは……」
永井の夢が見えない。それがどれだけ重大な問題なのか理解ができなかった。僕は片桐さんの言葉を待つ。
だけど、彼女は一向に話さなかった。僕はそんな彼女を元気づけたいと思ったが、片桐さんと永井はそれなりの交流があったらしい。
つまりは、片桐さんは永井を助けたいと思っているとの事。僕としても力になりたいが、それだけの能力は備わってない。
だけど、これが僕にしかできないことになる。それは、だいたいだけど伝わってきた。話さない片桐さんに蓮が切り出す。
「永井の夢が見えないってなると、考えられるのはあれか?」
「そうだね……。わたしも色々考えたんだけど、正直それしか浮かばないかな?」
どうやら彼ら彼女らで解決してしまいそうな展開。僕だけが置いてかれている。『どういうことですか?』と、首を突っ込んでみた。
「つまりは、永井さん自身が夢をブロックしている。ということだね」
片桐さんはそういうと、どこから出てきたのかわからないティーカップに口をつけた。その姿は、瑠華さんとはまた違う雰囲気を出している。
蓮が『同じの飲むか?』と聞いてきたので。お願いすると虚空からティーカップが出現した。夢の世界はなんでもありだ。
「永井さんが夢をブロック……」
「はい。過去にも何件か同じケースがあって。その人たちの共通点も最近見えてきたんだけどね」
「共通点?」
僕は慣れないティーカップを持ち上げて、口元に近づけた。夢の中なのに淹れたてで温かい。加えて、口をつけると唇がやけどしそうだ。
「共通点としては、違法宗教団体の存在だと思うの。例外もあったんだけど」
「はい」
「夢をブロックしている人の多くが、未解決失踪事件の被害者。そして、その親族が口を揃えて、魔生物信教に入信したせいだって」
「なるほど……」
つまり、永井はそれに巻き込まれている可能性があるということらしい。片桐さんはさらに続ける。
「魔生物信教に入信するとね。期間が長ければ長いほど、洗脳状態が続くらしいんだよね……。その洗脳状態がどうなのかわからないけど」
「洗脳……か……。他に情報はあるか?」
蓮が質問をした。
「そうだね……。黒い物体が部屋中転がってて空気が汚れていた。くらい?」
「やっぱりな」
「蓮くん。やっぱりって?」
蓮は少し考え込むように、僕を見た。そして、『今日の総司令の言葉を思い出してみたんだが……』と言ったあと、一拍置いて……。
「それは多分。魔生物の残骸だと思うんだ。景斗総司令は残骸には依存性が強いと言っていた」
「なるほど。蓮くんさすが!」
「まあな……。俺のせいなんだ……」
蓮は薄暗い表情で下を向く。『俺のせい』。その意味が理解できない。誰のせいでもないはずなのにだ。
片桐さんがティーカップを啜ると同時に、僕も飲む。ほんのり苦く、ほんのり甘い。これがなにか気になり、蓮に聞くと『紅茶』と言った。
この紅茶はものすごく美味しい。現実世界に同じ味の紅茶はあるのだろうか。それが、今の僕の謎だった。
「片桐さん。この紅茶。同じの知ってますか?」
「知ってるよ。あとで教えてあげる」
「ありがとうございます」
後日僕と片桐さんで会うことが決まり、楽しみが増えた。すると彼女は『次の夢訪問があるから、これで帰るね』と言った。
「ありがとうございました。それと、永井さんの件。僕たちも調べてみます」
「よろしくね」
「はい」「おう!」
そうして、片桐さんは退室する。しかし、永井が宗教に関わっているとは思えない。少しして、目の前が暗転した。
誰かの声が聞こえる。蓮ではないのは確かだ。僕は身体を起こす。夢から覚め意識が覚醒したようだ。
僕は声のする方を確認した。そこには、飛鷹の姿。彼はものすごく慌てた様子で、僕の身体を揺すっている。
「飛鷹君。どうかしたの?」
「う、うん……! きき、昨日、総司令に頼まれた件。さ、早速、魔生物信教について、調べたんだけど……」
飛鷹の様子がどうもおかしい。僕は彼に『ゆっくりでいいよ』と伝えた。一体なにが起こっただろうか。
飛鷹は亜空間からパソコンと取り出す。画面を開き、魔生物信教のホームページへ。そこはどこもおかしくないブログ画面だった。
しかし、本番はここからだ。どういう手順なのかわからないけど、そこのページから隠し通路を通り、ふぁいるというものを引っ張り出す。
どこで入手したのかわからないパスワードを入力すると、信者リストというものが展開された。
「こ、ここのNの欄。そこから……女性リストを開くと……。ほら」
「永井……彩音……。永井さんが?」
「そう。い、いつの間にか。永井さん。信者に……」
片桐さんの懸念が当たってしまった。僕たちは急いで景斗総司令のもとへ走る。時刻は深夜2時。
総司令はこんな夜中でも受け入れてくれて、事を全て話した。




