第28話 失われた記憶と勝敗
物語は最終章!!!!
ここから物語が動き(まくり)ます
バトルが始まった途端。隼の姿が消えた。いや消えたんじゃない。霧の中に隠れたんだ。俺はどこから攻撃が来るか全感覚を研ぎ澄ます。
立ち込める霧は、俺の魔力を奪っていく。そんなの幻覚だと思っても、上手く理由を、仕組みを読み解くことはできなかった。
視界が揺れる。目の前に投影される二人の少年。それは、昔俺が関わっていた旧い友の姿。そうか、もう彼らはこの世にいないんだ。
――『――は凄いよね。命を狙われてるのに、真正面から突っ込んで、それでも尚生きて戻ってくるんだから』
一人は骨ばった身体で肉付き悪く。それでも存在感を見せるような優しい少年。
――『そうっすね。オイラには真似出来ないっすよ! あれこそ王って感じ』
もう一人は少し小太りで、体格がいいんだか、前の少年とは正反対な見た目。年は同じくらいだ。
(この二人の名前……、なんだったかな……。思い出せねぇや……)
俺は昔の出来事を思い出そうとしたが、上手く引っ張り出せなかった。俺個人の記憶が破損している。それしか考えられない。
だけど、これだけはわかった。彼らは昔俺と共に旅をした人。大事な親友であることを……。
名前は思い出せない。でも、その姿だけは、覚えている。このまま、彼らとの思い出を振り返りたい。そう思った時。
「勝負あり! 勝者、鳴海隼!」
「ッ!?」
戦いは決着していた。全ては俺の不注意。そうとしか考えられない。視界が回復すると、俺の身体は床に転がっていた。
「レン。夢。見てた。じぶんの魔法で。レン、なにか隠してる。多分。旧友。思い出せてない。不思議。優人とは別。記憶。持ってる」
「もしやオマエ。あの霧で……」
「うん。そうだよ。じぶんの魔法。幻覚魔法。レンの記憶。見てた。レン。思い出せてない。レン。旧友。裏切った」
「そう……だな。俺は旧友を裏切った。勝手な行動で利用されてたな……」
俺はさっき見た幻覚を思い出そうとする。しかし、なかなか上手く再生させることができない。
隼の魔法は異質だ。まだ12歳。なのに剣術も体術も、魔法戦も強い。結果、俺の実力では勝てないことがわかった。
しかし、幻覚魔法の術式構造が知りたくて仕方ない。きっと隼の術式を教わって解読、解析すれば再現程度はできるだろう。
「なあ。隼。オマエの幻覚魔法ってやつ。俺にも教えてくれないか?」
「できない。じぶん。術式。構築してない。その場で構築。使用後忘却。じぶんに術式の概念ない」
(天才かよ……。それであんな高性能のを……)
俺はこの時点で負けていたのかと、その差に愕然とした。俺と何歳離れてんだ。今の時代は昔よりも発展している。
水魔法しか使えない優人の方が不自然なくらいだ。その差を埋めるにはどうすればいい。ただそれだけが脳内で渦巻く。
「レンさん。簡単に引っかかったね」
景斗総司令が微笑を浮かべながら近付いてくる。俺を嘲笑っているのではないと、直感でわかった。
景斗総司令はこの結末を最初から知っていたのかもしれない。そういえば、景斗は母親に似て勘が鋭かったはずだ。
「景斗。俺……」
「大丈夫。隼さんと魔法戦する際。誰もが通る道だから。僕も完全に引っかかったしね」
「景斗も……?」
「うん」
景斗総司令はそれ以上のことを言わなかった。俺に対して余計な心配をしないよう、合わせているのかもしれない。
「12歳の彼に簡単に負けるなんて、無様にも程があるわ。貴方。見世瀬優人よりも弱いんじゃないかしら?」
瑠華がそんなことを言ってきて、腹が立った俺は。
「んだと! これでも150年は生きてんだぞ!」
怒りと共に叫ぶ。それでも、瑠華の思考は揺るがず。
「その150年生きた意識上の人物が、12歳の少年に負けることこそ、無様なのよ。わかる? 貴方は優人よりも弱い。さっさと統合して消えなさい」
「ちょっと、レンさん。瑠華さん。喧嘩はやめてください」
景斗総司令が止めに入った。これ以上侮辱される訳にはいかないと、俺は瑠華から距離を取る。
総司令は瑠華の方に問題があると思ったようで、彼女を色々と説得してくれた。
こんなことになったのは、無念にも俺が負けたからだ。本当なら俺の方に分がある。本調子に戻ってさえいればと思うほどに。
「レン。疲れてる。優人。変わった方がいい。あと、誰か帰ってきた」
隼がそういうので、俺は優人と交代した。同時に襲いかかる頭痛。蓮が僕の身体に何かをしたのだろう。
非常に全身が重だるい。その分理由がわからない。床に打ち付けられた感覚。上半身は起き上がっていたものの、座ったまま。
「優人。おはよ」
「おはよう。隼さん。なにかあったんですか?」
「じぶん。レン。勝負。じぶん。勝った。レン。夢見てた。記憶。破損。思い出。壊れてた」
相変わらず暗号のような喋り方をする隼。だけど、後半の意味が理解できなかった。
〝蓮の記憶が壊れている〟。つまりはそういうことなのだろうけど。僕の近くを歩く隼が歩幅を合わせてくれる。
それよりも、歩く度に関節が痛いのはなぜだろうか。僕はそれに疑問を持っていた。問題があるとすれば、蓮の戦い方だろう。
どんな戦い方をすれば、こんなにダメージを負うのだろう。正直、非常に気になって仕方がない。
蓮の意識が全開の間は、僕の意識が停止し、強制的に睡眠状態へ移行してしまうのは申し訳ない。
現実を知りたいのに、知ることが許されない。そんな理不尽な身体なのが、本当に残念で……。
「梨央。瑠華さん。隠しててごめんなさい!」
「今誰?」
「え……?」
僕の言葉は一瞬にして掻き消された。それでも、僕は謝り続ける。そして、今の意識が『優人本人』であることも伝えた。
「つまりはさっきのがレンで、今が優人?」
梨央が不思議そうに見詰め、問いかける。
「うん。そういうこと」
「結局。統合はしないってことね……。あんな馬鹿消えてしまえばいいのに……」
瑠華さんがそう一言愚痴った。それに、僕と梨央は苦笑するしかなく……。
「蓮にはしっかり反省してもらいます。彼、魔法に関しては負けたくなかったみたいですし」
「そうね……。次回に期待しましょ。鳴海先生に勝てたら、何杯でも彼の好物を奢ってあげるわ」
「となると、かなりお金消費しますよ。高額のを選びがちなんで」
僕の言葉に、瑠華さんは『それでも奢るわ。いくらでも』と言ってその場から離れた。彼女が訓練場を出たのと同時に、一人の少年が入ってくる。
「さささ、櫻井直明大先生!?」
真っ先に反応したのは、やはり怜音だった。亜空間からサイン色紙を取り出し、帰ってきたばかりの櫻井先生――飛鷹直哉に詰め寄る。
「櫻井先生! サインください!」
「さ、サイン。ぼく、そんなの持ってないし……。櫻井はペンネームだし……」
「それでも、ください! ボクファンなんです! どうかサイ……!?」
そんな怜音の暴走はすぐに止まった。よく見れば、隼が片手を正面に向け、怜音の動きを封じている。
12歳に負ける19歳。この違いは何なのだろう。今の怜音が滑稽で、両目で見るのも恥ずかしいくらいだ。
「直哉さん。君にお願いしたいのがあるんだけど……」
動きを封じられた怜音と代わって、冷静に話しかける景斗総司令。僕はその言葉の続きが知りたくて耳を傾ける。
「君にしかできない仕事。魔生物信教のサイトを調べて、『NFM』について解読してもらいたい」
「ぼ、ぼくで、い、いいんですか?」
「うん。君、パソコン得意だよね?」
景斗さんの要望の意味がわからなかった。だけど、それに飛鷹は応える。彼は、大きな声で『やります』と言った。
今日の訓練はこれでお開きとなった。梨央と瑠華さんを元の場所に戻す。そういうことも考えたけど、梨央が僕と一緒にいることを希望した。
そこで、景斗総司令が新たに二部屋作成。梨央と瑠華さんも、第一部隊で生活することが決まった。




