第27話 総司令の瞳
午後の訓練。僕は自分に何を求められているのか、だんだんわからなくなっていた。
部屋に戻り残ったムニエルを食べたが、なんだか満足できない。
僕の意識が強制的に切り替わった時、蓮が〝魔生物の残骸〟を勝手に食べていた。問題が起きたのはそれからだ。
食堂で料理を出された時。僕はその見た目で食欲が増した。だけど、残骸を食べた後、同じものを見たのに食欲が湧かない。
依存性に関して話されてたけど、なんだか残骸しか求めてない気がする。普通の食事を受け付けてないような。
今思い出したこと、それは景斗総司令が僕を引き止め言った言葉。
――『君はいずれ、自分の秘密への真実へ近づくことになる』
と、僕はその意味がわからなかった。場所は現在いる訓練場に戻す。午後の訓練は景斗総司令も参加することになった。
彼は傍観するように、宝石のような水色の瞳を輝かせていた。僕はそんな景斗総司令の瞳が気になり、集中ができていない。
梨央と瑠華さんは、それぞれ怜音と星咲先輩が相手をしていた。僕の相手は例の通り隼だけど、彼はまだマタタビ酔いが治ってないのか……。
「マタタビ……。マタタビ……。はぁ~」
床に寝転がったまま、鼻の穴を大きくさせて両手の匂いを嗅いでいる。その表情はまるでアニメの激カワ犬のようで、口が変に波打っていた。
これでは訓練どころではない。僕は彼を正気に戻そうと思ったが、非常に可愛くて邪魔したくないので諦めた。
「景斗総司令。ちょっと聞いてもいいですか?」
「なに?」
「その……。景斗総司令の瞳……。他の人と全然印象が違うから……」
「この眼のこと? 知りたいなら話してもいいけど……」
景斗総司令は、床に座り込む。僕も同じように座った。彼の瞳は生まれつきのもので、治療法が確立していない、魔力の類の障害とのこと。
「先天性……魔力眼球症……。それってどういう?」
「僕の魔力はね。他の人と構造が違うんだよ」
「景斗総司令の魔力ですか?」
「うん」
景斗総司令は、手の甲に刻まれた刻印を光らせる。すると、彼の両目が白く光った。
「今の僕は耳も目も使えない。じゃあどうやって会話してるかわかるかな?」
「え、えーと……」
「その反応をしてるということは、わからないってことで合ってるかな? 正解は空気の波長と振動。それで判断している」
景斗総司令の手の甲の光が消え、白くなった瞳は澄んだ水色に戻った。僕は凄いものを見てしまった感に襲われ、開いた口が乾燥する。
『そんなに驚くことじゃないよ』と、総司令。それでも、驚くはずだ。空気の波長なんて、気にしたこともないのに……。
――『やっぱりな……』
(蓮?)
――『景斗総司令。俺が知ってるやつだ。もうちょい年老いてると思ったが、逆に若返った気もするな……』
蓮がそんなことを言う。どうやら、景斗総司令と蓮は旧友らしい。ただ、蓮は本来の名前を失っているので、総司令が気付いてないと結論づける。
「いい気分。満足」
ようやく普段通りに戻った隼。僕は景斗総司令に礼をして、隼の方へ向かった。すると、彼は記憶を失ったようにポカーンという顔。
「隼さん。訓練どうするんですか?」
「訓練。楽し? じぶん。わからない。訓練。好き? わからない。訓練。きつい? 普通。訓練。大事。けど。じぶん。嫌い」
「え?」
「じぶん。訓練。嫌い。遊びたい」
隼はそう言って、どこかに消えていく。しばらくして戻ってくると、景斗総司令が見せたのと同じ見た目の残骸。
それの匂いを何度か嗅いだ彼は、かぷりと食べ始める。それを見た怜音が走り寄って、奪い取った。
「隼くんは食べちゃダメだよ」
「なんで? わからない。じぶん。それ。お気に入り。おやつ。食べる。残骸。美味しい。好き。食べる。返して」
それでも、怜音は『ダメ』と言う。この場合は僕が回収した方がいいのだろうか。だけど、僕にそんな勇気なんてなかった。
その様子を見たからなのか、今度は景斗総司令がやってくる。怜音になにか魔法をかけると、彼は力を失ったようにヘタレこんだ。
総司令は残骸を持つと隼に返す。僕はその様子を見て、もしかしたら、僕と隼の体質が似ているのかもしれないと思った。
「怜音さんには悪いけど、この残骸は僕が隼さんに渡したものなんだ。彼はこれを食べても問題ないと判断したからね」
「で、ですが!」
「大丈夫。安心して。隼さんもあまりふざけすぎないようにね」
「わかった。気をつける」
こうして、隼は残骸を食べきった。ようやく訓練をする気になったのか、彼は『レンとしたい』と言う。
僕は蓮と相談して、交代した。俺も訓練は好きではない。多分優人の方が熱心にやっているだろう。
勝負事が大好きだが、練習というものをしてこなかった。その影響が強いのか、優人ほど集中力はない。
「隼。俺はどうすればいいんだ?」
「魔法練習」
「は? 魔法練習?」
隼は俺の方に近づいてくると、袖を捲ってチェックを開始した。本当にコイツは異常だ。行動が一切読めない。
彼は、しばらくチェックをすると俺の瞳を見つめる。俺本来の目に変えることもできるが、そうすると優人の視力に影響が出る。
なのに……。
「レン。隠してる。今の目。慣れない? 魔力」
「お、おう……」
「レン。目。変えて。レンの目。優人と違う。魔性視力。違う。合ってない」
彼には完全に見破られているようだった。こうなったら、優人には我慢してもらって、視力調整をするしかない。
俺が持つ特異性質魔力を解放させる。すると、両目に衝撃が走る。脳全体に改変による激痛が起き、自分自身に我慢してくれと願った。
これに優人の身体がこれに耐えられるはずがない。俺本来の身体ならいらないこと。しかし、それを他人の身体にするのは、初めてだからだ。
「レン。大丈夫? 痛そう。無理してる? じぶん。わからない」
「だ、大丈夫だ……。なんとかなる」
しばらくして痛みが癒えると、訓練場の反対側までがよく見えるようになった。今度は優人用の色をした魔力眼術式を構築しておこう。
「レン。目。赤い。充血? 違う。魔力。強い。じぶん。天才」
「ったく。自画自賛してんじゃねぇよ……。けど、なんとか成功したみたいだな。優人の身体が思ったより頑丈で良かったぜ……」
「訓練。やる。レン。本気できて」
そう言って、隼は俺から距離をとる。本来の瞳に変えたからか、相手の魔力構造が丸見えだ。
しかし、俺――自身――の目は最初の時よりも精度が劣っていた。通常であれば、魔力構造の他にも見えたはず。
「これより。見世瀬レンと鳴海隼の勝負を開始する」
その言葉で、一瞬空気がザワついた。これには俺も気付いていた。審判をしたのは景斗総司令だ。そして彼は俺を『見世瀬レン』と言った。
下の名前が優人ではないと気付いた梨央と瑠華。二人の視線が俺の方へ向く。
「景斗さん。さっき優人のことを……」
梨央は景斗総司令に問いかける。同様に瑠華も質問をした。
「うん。さっき僕は〝レン〟って言ったよ」
「その……レン? って誰なんですか?」
梨央がさらに問い詰める。ここは俺が出た方がいいのだろうか。正直どの行動が正解なのかわからなかった。
隼は『早く。早く』と催促する。だけど、梨央たちの問いかけは止まることを知らず……。結局俺自ら出ると決めた。
「すまん……、勝手に優人の中に隠れてた」
「『優人の中に隠れてた?』」
「ま、まあ……。その……。優人の命の恩人……的なやつ? 本人は覚えてねぇみたいだけどな……。ってことで、見世瀬蓮だ。よろしく頼む」
とりあえず自己紹介を済ませ、戦闘態勢に入った。景斗総司令が気を取り直して、同じ言葉を繰り返す。
今回隼は剣を用意していない。本当に魔法と魔法のぶつかり合いだ。コイツの魔力。尋常じゃない。
景斗総司令が『始め!』と言った瞬間。俺と隼は同時に詠唱を開始した。




