第24話 ゼロから始める訓練生活 その2
※一部修正しました
朝食を食べ、制服に着替え、登校する準備ができた。僕は飛鷹を誘おうとしたけど、ドアをノックしても声がしない。
廊下を通り過ぎる隊員に聞いても、『今日は見ていない』と言われた。心配になり、一番状況を把握しているであろう総司令のところへ。
黄金の扉を一人で通るなんて、本当に身分違いの行動をしている。僕はノックして中に入った。そこには、ノートを持つ飛鷹の姿。
「ゆ、優人君?」
「おはよう。飛鷹君。なんでここに?」
僕が話かけた途端。飛鷹は逃げるようにして消えた。部屋の先に佇む景斗総司令。僕は『何があったんですか?』と問いかける。
「今日彼は一番重要なイベントに出てもらうんだ。みんなには内緒にして欲しいんだけど……。ごにょごにょ」
「え!? 飛鷹が……。それに……」
「特に怜音くんには言わないであげて、彼が知ったら、きっと執拗に絡もうとしてくるからね」
「わかりました」
僕はスマホの時間を見る。時刻は8時。そろそろ出発の時間になる。景斗総司令の部屋から出て、怜音の部屋へ向かった。
廊下はものすごく騒がしい。どうやら景斗総司令は一部の人に情報を共有し。怜音には内緒にするを心掛けるよう指示しているようだ。
怜音の部屋の前に着く。ここはものすごく閑散としていて、誰一人いなかった。怜音の部屋をノックする。
中に入ると、隼と怜音。星咲先輩がいた。
「あれ? 飛鷹さんは?」
怜音が質問する。
「え、えーと。飛鷹君はちょっと体調不良みたいなので……」
「そうかー。じゃ、行こうか!」
なんとか誤魔化せた。僕は怜音が作った亜空間を通って、学校の図書室に移動する。できるだけ不自然にならないよう。部屋の外だ。
『春日井の意見はわかったわ。けど、私が従うには私に勝ってからにしなさい』
『で、でも! 永井さんも大事なメンバーなんだよ? 条件付きなんてありえないもん』
『聞く耳持たず……ってことね……。じゃあこうしましょう』
中で話す二人の声。図書室のドアを開けると、神代瑠華が回転し髪を美しく流して、窓側を向くところだった。
そして、瑠華さんとの会話で疲れたらしい春日井梨央は、床に座り込む。同様に桃色の長髪が花を咲かすように広がった。
「おはようございます」
「おはよう。優人。直哉くんは?」
「その。ちょっと体調不良みたいで……。しばらく休むそうです……」
「そうなんだ……。なんか悲しいかも」
梨央の言ってる意味はわかる。元々五人いた最上位クラスは、今ではたったの三人。人数が減っていた。
一番は永井の不参加続きだ。僕も怜音も、みんな彼女の魔法を見たことがない。彼女の潜在能力を知らない。
それを悟ったのか……。
「じぶん。場所。知ってる」
隼が反応した。猫で機械的でかなり変わり者の彼だけど、信頼できる部分が多い。そんな感じがしている。
「中谷先生。彼は見ない顔ね……」
「そうだね。今日から最上位クラスの指導担当になった鳴海隼くん。年齢は君たちより下の12歳だよ」
隼の年齢を聞いて僕は驚いた。僕よりも身長が高く、魔法の練度も高い彼が僕よりも年下。そう考えれば、今朝の猫っぽい様子は納得がいく。
「12歳ね。それ以上に幼く見えるのはなぜかしら?」
「幼い? わからない。じぶん。可愛い? わからない。好きな色。ピンク。部屋。桃色だらけ」
「予想を遥かに超えるくらい、可愛いわね……」
なんと、隼は毒舌が強い瑠華さんを満足させてしまった。実際には満足させてないのだろうけど……。
僕は瑠華さんの方へ移動する。外は曇っていて、屋外訓練場での訓練ができるかは、正直わからない。
その後、梨央の方へ行ってゆっくり立たせた。髪に埃が付いていたので、優しく取ってあげる。
「名前。教えて」
「神代瑠華よ」
「春日井梨央です!」
「瑠華さん。梨央さん。うん覚えた。二人の腕触ってもいい?」
隼はこの行動で僕の能力を見抜いた。だけど、性別の壁があるのはたしかだ。特に瑠華さんは受け入れるはずがない。
「仕方ないわね……。一回だけよ?」
あっさり受け入れられてしまった。
「瑠華さん。魔力量。それなり。基本属性。風。熟練度は高め。おねえさんの魔力。じぶんの好み」
「好みって。本当に変わってるわね……」
「次。梨央さん」
隼は梨央の方へ向かう。同じように腕を触り、能力を行っていく。
「梨央さん。魔力少ない。でも。使用頻度的確。能力。理解してる。さすが」
「ありがと……。でも、なんでわか……」
「怜音。マタタビくれ!」
梨央の質問を無視して、隼はマタタビを要求する。『帰ったらね』という怜音に、隼は頷いた。
人数が少ないことから、僕たちは第一部隊で訓練することが決まった。今更だけど、亜空間内にある食堂にもテレビがある。
怜音にはここで本当のことを知って貰おう。僕たちは屋内訓練場に着くと、それぞれで魔力調整を行った。
「瑠華さん。そうじゃない」
「そうじゃないって……」
隼は瑠華さんに何かを教えているようだ。僕はとりあえず魔力水の準備をする。コップは怜音に用意してもらったものだ。
「瑠華さん。魔力の操作。得意?」
「隼くん。神代さんにくっつきっぱなしはダメだよ?」
「嫌だ嫌だ。じぶん。瑠華さん。調べたい。もっと。強く。なって……」
「仕方ない。はい。これで反省して……」
怜音が亜空間からマタタビを用意する。隼はそのマタタビを持つと、風に飛ばされたかのように走っていった。
瑠華さんも、梨央もなにが起きたのかわからないような顔をしていた。朝の僕と一緒だ。
僕の相手は気持ちが落ち着いたばかりの隼。朝の続きをするらしい。剣を作るコツは朝食中も頑張ってイメトレしていた。
「優人。剣。作って」
「わ、わかりました」
「好きな形。使いやすい形。色々ある」
そう言って、隼は剣を作る。それは蓮が苦戦した、非常に長く伸び縮みする剣だった。これを上手く操れるのは、隼だけだ。
僕も剣を作る。今回は、かなり上手くできて、納得はいってないけどまっすぐ伸びる刀身の剣ができた。
「優人。上達。早い。次。剣術する」
「けんじゅつ?」
「魔法戦。魔法だけじゃ融通効かない。もっと。攻撃の種類。増やす。近接戦。大事」
脳裏で蓮が言う。『隼の剣術は剣術ではない』と。だけど、この場で蓮を呼ぶわけにもいかなかった。
僕は剣の振り方から身体の使い方。もしもの時の対処法まで、色々と教えて貰った。隼の教え方はとてもわかりやすい。
重要な部分だけ引っ張りだして、僕が無駄な動きをした際は上手く指摘してくれる。僕よりも年下なのに、頭の良さには驚いてしまった。
「優人。実戦。しよ?」
「い、今からですか?」
「敬語。しなくていい。敬語。苦手」
隼は普通の剣を作る。審判は怜音がすることになった。この前は僕が初めて魔法で戦った。今日は初めて剣で戦う。
上手くいけるかわからない。自信が無い。だけど、やるしかない。精神年齢では隼の方が低いんだ。
遊び相手になるつもりでいないと上手くいかない。僕は水で作った剣で素振りをする。重心の置き方は少し理解できたと思う。
隼から最初に教えてもらった下段の構えをする。対して彼は上段の構えをした。怜音の『始め』の合図で行動を開始する。
まずは横に一閃。隼の剣が僕の皮膚を切る。一瞬できた隙に僕が潜り込むと、強く腹を蹴られた。胃の方から血の匂いがする。
身動きが取りづらくなった僕は、当然負けた。もっと、戦いたかった気持ちがあったけど、隼の戦闘技術には敵わない。
僕は隼に〝なぜお腹を蹴ったのか〟聞いた。すると隼は僕に、剣術と合わせるなら体術も大事と答えた。
次は体術の訓練かと、道のりの長さに不安になる。忘れかけていた瑠華さんと梨央を見れば、二人も疲れ果てたのか、床に座り込んでいた。




