第22話 訓練場の野良猫
ここからは、私独自の書き方になってます。過去話とは大差ないようにしていますが、よろしくお願いいたします
今日の訓練は見学のみ。僕は初めて入る屋内訓練場に、思わず尻もちをついた。僕が知ってる施設とは、別格の広さだったからだ。
蓮も『ここなら存分に暴れられるな』と、興味深そうに言っている。訓練を見学している最中、僕は麗華さんに聞いた。
「ここは面積はどれくらいなんですか?」
それに麗華さんは答える。
「関東地区の面積では収まらないですね……。ここは亜空間内なので、面積という概念が存在しませんが……。そうですね……」
彼女はポケットからスマホを取り出し、一つの画像を出した。それは、四つ角の星型に近い形をした島。
「ここはかつて北海道という名前だった場所です。ざっと言うと、これくらいの広さはありますね。関東地区の総数でペアを組んで本気の戦闘をしても、問題ない広さかと」
北海道は今や、北側の北海地区と南側の南海地区に別れているそうで、それぞれ討伐部隊が設置されているとの事。
僕は訓練を眺めながら、隊員の戦闘を研究した。一人は僕と同じ水魔法を、もう一人は星咲先輩と同じ火属性魔法を使うペア。
火は水に弱い。実力では明らかに水が勝利する。僕の場合では雷属性を使ったが、僕みたいに複数属性を使えるのは少数らしい。
戦闘の様子に僕は早く加わりたいと思った。先程の水属性と火属性のペア。単純に考えるとやはり水属性が優勢。
だけど、そこでも実力の差が出てくるようで、この勝負は火属性使いが勝利した。麗華さんの見解によると、魔力消費量の差。
魔力消費を激しくした水属性使いに対し、効率よく計画的に消費した火属性使いの方が、有利に立ち回れたとの理由だった。
「麗華さん。僕もそろそろ訓練に参加したいんですけど……」
「そうですね……。本当は飛鷹さんがいれば人数的にちょうどいいのですが……」
そうだった。なんとか呼び出して昼食を食べて貰ったあと。彼は再び部屋に篭っている。訓練よりも大事なことをしているらしい。
麗華さんがどうするか悩んでいると、他の隊員を優先的に指導していた星咲先輩がやってくる。
「お前。本当に今日から訓練に参加したいのか?」
僕はそれに無言で頷く。
「そうだな……。うーむ……」
星咲先輩は考え込むように下を向く。あくまでも僕は、『できれば』という枠で言ったのでそこまで期待はしてない。
むしろ燃えてるのは蓮の方だった。
「一人だけ良い奴がいる。隼! 来い!」
星咲先輩は耳が破裂するくらい大声で叫んだ。その声に全隊員がこちらを見る。その肺活量はどこから来るのか不思議だ。
しばらくして、のそりのそりとこちらへ来る一人の男性。まるで猫のように細い目は、何もかもを見透かすように怖い。
「なに?」
隼というらしい男性は、高身長で細身。そして髪がカラフルに染められていた。それだけでかなり目立つ。
「隼。此奴の相手をしてやってくれ」
「こいつ? ……。うーん……。君、何歳?」
なにかを探るように、僕の周囲を回る彼は、興味を持っているのか持ってないのか。僕は『16歳です』と答えた。
「16歳……。見えない……。明らかに身長低い……。腕触ってもいい?」
「え、いいですけど……」
隼は僕の右腕を持つと、袖を持ち上げた。太さを測っているのか、手首から肘にかけて握られ離されを繰り返される。
「肉付きも悪いね……。今日。お昼。たくさん食べてた。けど、肉になってない。食生活の問題……かも」
「え?」
「運動。大事。君。運動嫌い? 好き?」
その問いに僕は『どちらでもないです』と回答する。
「どちらでもない……。うん。だいたいわかった。君。運動してない。だけど、よく食べる」
「は、はい……」
「体質……。それしか当てはまらない。それと、君の魔力。桁違い。総司令よりも多い。かもしれない」
少し触っただけでここまで分析できる隼。僕はどうしてこんなにも情報を引っ張り出せるのか、ものすごく気になった。
「君の属性。当ててもいい?」
「え?」
「君の基本属性。水。サブ属性。雷。解放済み。氷。空間。未開放で使える属性。他全属性」
僕の能力情報がわかった気がした。しかし、この隼って人。ものすごい観察力と洞察力で素っ裸にされた気分だ。
「君と対等に戦える隊員。不明。もしかしたら……。君。もう一人いる?」
「!?」
「もう一人。いる? 知りたい。君のこと。もう一人の君」
だんだん逃げたくなった。ここで蓮のことを知られたら困る。それだけは避けたかった。けれども……。
「名前当ててもいい? レン。レンでしょ?」
ついに蓮の存在を赤裸々にされてしまう。こんなにも早く、他の人に知られるとは思わなかった。
――『はぁ……。ったく。意識潜めても意味ねぇじゃんかよ!』
(そうだね……。どうする?)
――『まあ、仕方ないだろ? ここからは俺に任せとけ』
蓮が表に出る。隼は俺の存在を見抜いた。それだけでも、問題だ。俺はどうやって説明しようか悩んだ。
できるだけ違和感のないようにはしたい。俺ができること、それは俺の時にだけできる変化だった。
「ん。オマエ。なんで俺がいるってわかったんだ?」
「レン。おはよ」
「あ、ああ。おはよ。もう夕方になるけどな……」
「おはよ。鳴海隼。じぶん。レンと戦いたい」
コイツが俺と? 死んでも知らないと言いたいが、彼から感じるオーラは殺気にも見て取れる。
俺自身あまり戦いたくない相手だ。彼は俺の――正しくは俺と優人の魔法属性を言い当てた。それだけでも怪物だ。化け物だ。
「戦ってやれ」
斬がそう言う。俺は一旦どうしようかと頭を回転させた。だけど、コイツがどんな手を使ってくるか、全く想像もつかない。
「戦お? じぶん。レン。戦う。じぶん身体柔らかい。ひんと」
「わ、わかったよ……。俺が相手すればいいんだろ?」
「やった……! 相手してくれた!」
片言なのか、意図的なのか。かなり愛らしい口調をする男性だ。俺が相手の思考を読めないのに、コイツは俺の思考を読んで来やがる。
「これより、野良猫隊員、鳴海隼と、挑戦者、レンとの戦いを開始する」
斬が審判を開始。どうやら、俺の名前はあっという間に浸透したらしい。これはいいんだか、悪いんだか……。
隼は異型の剣を取り出した。見た目はものすごくグロテスクで、蛇のように長い。俺が人間だった時に見た漫画の武器によく似ている。
俺も剣を用意した。今回使うのは、雷剣だ。まっすぐ伸びた長剣はビリビリという音を立てて、俺の心臓と共鳴する。
「始め!」
星咲先輩のその言葉で、俺は力強くダッシュした。だけど、隼は動こうともしない。むしろ、剣をブンブン振り回すのみ。
「じぶんの剣。だれにも避けられない。と思う。変幻自在。じぶんの魔力の結晶。子供みたい」
「は? 意味わかんねぇ……って!?」
俺は完全にミスをしていた。俺の身体がまるで操作されているように、決められているであろう位置に誘導されている。
魔法を放とうとしても、避けるのに精一杯で、俺の動きも全て読まれている恐怖を感じる。
こんなところで負けてたまるか! 俺は剣を振り回し、隼の剣を切り裂く。それでも、数秒で彼の剣は回復してしまう。
理不尽にも程がある。そういう勝負なんて嫌いだ。真っ平御免だ。だんだん思考が焦り出す。ここで負けられない。
その分先読みされて、俺の動きがパターン化してきてることを自覚する。ここでパターン化を回避すればいいものを……。
結局バトルは引き分けに終わった。何も出来なかった自分が非常に悔しい。もう、隼とは戦いたくないと思ってしまう。
「レン。いい勝負だった。また、戦いたい。次は種明かし。する」
「あいあい……。また今度な」
そうして、俺は拭えない無力感に襲われながら、優人と交代するのだった。




