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第19話 空間魔法はカロリー控えめですが、なにか?

 優人と交代して、俺は自分の意識を全開にした。人の身体を動かすなんて久しぶりだ。この身体は俺が選んだ依代だから。


「怜音! 麗華! 下がれ!」


「ゆ、優人……くん……?」


 俺の言葉に、怜音が困惑の表情を見せる。声のトーン。それが優人と違うのはわかっていた。一番驚いているのは麗華の方だろう。


「急に呼び捨てにされるとは思いませんでしたが、正当な訓練を受けていない見世瀬さんの方が下がった方がいいです」


「は? これくらい俺には簡単すぎる」


「『お、俺……?』」


 怜音と麗華の声が重なった。『説明は後だ』と返し、俺の周りに漂う外部魔力を一点に集中させる。


 魔力には内部魔力と外部魔力の二種類がある。内部魔力は言葉の通り、人体の中で生成される魔力のことだ。


 対して外部魔力は基本的に空気中に浮いていることが多い。これを上手く使うのは、かなりの技量が試される。


「タイプチェンジ! エレキ!」


 ここは俺だけの戦場だ。麗華も怜音も置いてきぼりにさせてやる。放出する魔力量を調節する。視界には言葉として成立していない数字の羅列。


 新しい魔法の構築開始。魔法は特殊な文字列を使い暗号化などを施す。他人が使えば術式も違う。


 俺は常人や神より上の演算速度を持っている。だから戦闘中でも10秒あれば十分だ。


「術式構築完了。同時属性展開デュアルタイプキャスト! サイドライトエレキ。サイドレフトアイシクル!」


 俺の詠唱に人々が足を止める。優人の華奢な身体からは考えられないだろう。


 こんな弱々しい人が、無数の敵と対峙できるのかと。俺の魔力量はさらに膨れ上がる。もっと、もっとだ……。


「サイドレフト! アイスフィールド! フィフスバリケード。ロングレンジアクティブ!」


 俺が詠唱した直後。道のど真ん中を氷の壁が何枚も出現した。塞ぐように密集した魔生物全ての動きが止まる。

 

「優人……じゃない……。魔法の構成が優人くんじゃない……」


 そう怜音が言ったあと、


「だ、誰なんですか……」


 麗華が続いた。

 

 今はそれを答えている暇がない。魔法操作に意識を集中させることだけを考える。そして、俺は飛行魔法を並行使用した。


 優人が内側で悲鳴をあげてるが、気にしている暇もない。魔生物はかなり遠くから来ているようだった。


 最初に使った氷属性魔法。その透明なガラスに魔生物が凍てついている。足止めにはいいが、継続するほど時間がない。


「麗華と怜音は一般人の避難に徹してくれ」


「ゆ、優人くん!? だけど……」


「詳しい話は後だって言っただろ!」


 俺は俺なりの戦い方。自分のプレイスタイルで戦いたい。それをするには、一般人が非常に邪魔だ。


 見上げた空は漆黒に染まっていく。自分の魔力が暴走を始める。他人の魔力ではあるが、一心同体である以上俺のものでもある。


「早く!」


「わ、わかった……。麗華。ボクたちは避難誘導を」


「仕方ないですね……。わかりました。今回は見世瀬さんに従いましょう」


 麗華と怜音が行動を開始する。一般人の避難が徐々に効果を出し始め、道には魔生物の群れと俺だけが残った。


「これで本気が出せるな……」


 ――『蓮。本気ってどういうこと?』


「本気ってのは本気だよ。俺自身、この身体を動かすのには慣れてない。俺が()だった時は、もっと身長あったしな」


 そう。元々俺は人だった。魔法で獣にもなれた。第一次魔生物襲撃事件は、今から113年前。その時俺は、獣の状態から戻れなくなった。


 俺はそのまま戦い続けた。自分の意識がボロボロになって、自分の存在すらもわからなくなって。


 いつしか、人の意思を持つ特殊個体として、研究対象にされた。そこで、優人と会ったんだ。今となっては懐かしい思い出だ。


「優人。ここからは空中戦だ。高いところが嫌なら静かに寝ていろ」


 ――『う、うん……。終わったら教えてね』


「おうよ!」


 優人の意識を引っ込めさせて、魔法行使を続ける。魔生物は増えていくばかりだった。そこをどう対処するか。俺は考える。


 上空から見た限り、総数は500から600。加えて、動きを止めるにはちょうどいい幅だが、一掃するには非常に狭い。


「ここからどうすっか……」

 

 幅に合わせて術式を変化させていく。魔法錬成が得意で良かった。これができるだけで、戦闘を有利にできる。 

 

「サイドライト! ボルトフレア。マルチアクティブ! ファイア!」


 調整した術式を発動させる。縦一列を真っ直ぐに焼き尽くす雷撃。身体が悲鳴をあげる。さすがに消費魔力を多くさせすぎたか……。


「慣れないな……」


 まだ操作が上手くいってない気がする。脳が魔力消費量に追いついていない。息が切れてしまいそうだ。


 優人はもう既に眠っている。その状態で俺の意識が切れれば地面へ真っ逆さま。


 そこへ、避難誘導を終えた怜音と麗華が戻ってくる。二人は俺を探しているのか、周囲を見回す動きを繰り返していた。


「麗華! 怜音! こっちだ!」


「優人くん……。高いところ苦手なんじゃ……」


「まあ、アイツは高いところ嫌いだな……。俺は問題ないが……」


 怜音が頭にはてなを浮かべるように、首を傾げた。『優人くん。さっきアイツって……』と彼は呟く。


「仕方ないな……。ここで種明かしだ。俺は優人じゃない」


「でも……。優人くんの身体を……」


「そうだな……。俺は優人の身体を借りている状態だ。種明かしはここまで、俺が名乗るのはまだ早い」


 俺がそこまで言ったタイミングで、第二陣の魔生物が現場に到達する。これ以上は一人で戦えないと思った。


「麗華。オマエの術式を俺に送ってくれ!」


「く、空間魔法を……ですか? 私のは他の空間魔法よりも難易度が高いですし。短時間での解析は……」


「可能って言ったらどうする。俺ならどんな魔法でも問題なしだ」


 麗華は『わかりました』と言って、俺の方へ通信魔法を飛ばす。そこで魔法式を教えて貰った。たしかに彼女の魔法は特殊だった。


 空間と空間を繋ぐ式。空間と現実を繋げる術式。それ以上に複数を同時展開させる拡張術式。


 文字として成り立たない数字が、黄金比と呼べるほど綺麗で心が躍った。


 それをひたすら弄り始める。この再構築が最高に楽しいんだ……。既存の魔法から新しい上位互換を作るのが、一番楽しい。


「術式解析完了。再構築最終段階へ移行」


「も、もう解析終わったんですか!?」


「まあな。これくらいチョロすぎるぜ」


 麗華はかなり引き気味で、『私の魔法を解読できる人がいるなんて』と零す。しばらくして、完成した魔法を展開させた。


 氷属性の魔法で、亜空間内に無数の剣を生成する。そして、地上に魔法陣を設置。空間を開き射出させる。


 これを無限ループだ。魔力消費量も最低限まで節約できている。空間魔法って魔力のカロリー消費量少ないんだな……。


「アイスシフト。フィールドAからフィールドBに移動。対象を一斉転送開始」


「す、すごい。私の魔法を……ここまで……」


 氷の刃で行動できなくなった魔生物を、魔生物が普段棲息している森や、湖畔に繋がる空間に通す。


 魔生物が消えていく。それだけで気持ちがいい。仕事を終えると、俺は地上に降りた。駆けてくる麗華と怜音。


「見世瀬さん……。いえ。今は名無しさんと呼びましょう。貴方は何者なんですか?」


「ん? 俺か? んー。優人から見た兄貴分? 俺、景斗総司令よりも歳上だし」


 ちなみに俺の年齢は多分150を超えている。数えるのをやめた分、知識量おばけだ。


「総司令に報告した方がいいのでしょうか……」


「ん〜。今はやめてくれ。おっと、優人がちょうど起きたな……。交代するぜ! んじゃな!」


「わかりました……」


 俺は意識空間に戻る。優人()の意識が表に出ていく。僕は状況を把握するのに時間がかかった。魔力消費が今までと違う。


 蓮が好き勝手に暴れてくれたからだろう。身体が非常に重たかった。


「え、えーと……。ただいまです……」


「お、おかえり……。今は……優人くん?」


「は、はい……そうですけど……」


 怜音はものすごく慎重に話しかけてくる。オフィス街には人がいない。きっと誰かが避難誘導をしてくれたのだろう。


 ――『楽しかったぜ!』


(それはどうも。蓮ちょっと雑すぎない?)


 ――『雑で悪かったな』


 蓮との会話も短く終わらせ。僕たちはオフィス街を後にした。途中。黒いローブを羽織った人が数人通りかかったが、気のせいだろうと自分に言い聞かせる。


 しかし、これが今後非常に厄介な事件へと発展していくことは、まだ誰も知らなかった。

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― 新着の感想 ―
バトルが本格的にすごい中で、詠唱がかっこいいぞー!! 前回コメントで、総司令の年齢に驚きましたが、それよりも上?! びっくりしまくりですが、なにか?
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