第17話 討伐部隊、隊長登場
僕と飛鷹が着替え終わると、お互いに写真を撮った。僕はオレンジを基調とした、できるだけ血色をよく見せるコーデだった。
対して飛鷹は水色や緑など、大人しい彼がチョイスしないような服装。だけど、そんなに違和感がない。
「優人君。似合ってる……」
「飛鷹君こそ。ベースカラーってすごいね……」
「うん……、すごい……。着る前は合わないんじゃないか……って。思うけど……。いざ着ると、自信湧いてくる……」
いつも通りの飛鷹だけど、いつも通りじゃないオーラ。控えめなのに、主張も激しくない服装。
その後、僕は今着ている服と今後普段着になる十着の服を買った。飛鷹も嬉しそうに大人買いをしている。
「ミサトさん。今日はありがとうございました」
僕は店前に立つミサトさんにお礼を行って、手を振った。ミサトさんは『ご来店ありがとうございました』と手を振り返す。
お金がなくて、普段着こそボロ服だった僕。今回人生初の大人買いをして、明日からの生活がより一層楽しみになった。
――『嬉しそうだな』
(うん。嬉しい。だって僕、なんでも似合うって言われたんだよ?)
――『そいや、そうだったな』
蓮との会話をしていると、怜音が『お昼にしよう』と言ってくる。スマホの時間を確認すると、12時になるところだった。
「これから二人に会わせたい人が合流するから、ボクたちは先に店へ入ろうか」
「『わかりました』」
そうして入ったのは、この前行った海鮮丼屋だった。前回は店名を確認してなかったので、改めて確認すると〝鮨屋二丁目本店〟と書かれている。
僕は席につくと、タブレットを操作した。前回2杯食べたいくら丼を探す。
他のものも食べたいが、味を知ってる料理の方が安全だと思ったから。早速カートに入れて注文を押した。
「そういえば、優人くん。あの後〝転プラ〟読んだ?」
「はい。さすがに図書館で借りられないので、スマホで原作を」
「それは良かった。あれ冒頭から災難だよね……。盗難車に轢かれて死亡して、過去を払拭するために働け言われて」
そういえばそうだった気がする。主人公の日々野一は、勉強もなにもしないナマケモノ高校生だった。
そんな彼は、人生をやり直す修行のために惑星管理局の下っ端に転生する。いつも思うことだけど、その惑星管理局がブラック企業で……。
「僕はあんな企業で働きたくないです。死にますよ……」
――『オマエ、読みながら端末濡らしてたもんな』
(それ言わないでよ……)
すかさずツッコミを入れてくる蓮に、僕は心の中で答えた。不自然に僕の口が動いてしまったのか、怜音と飛鷹が不思議そうに見つめてくる。
「えーと、少し戻して……。優人くんの意見はボクも同感かな。ほら、主人公より先に転生してきた双子のセリフ」
「ああ、あれですね! 二人が交互に愚痴を言って大泣きするやつ!」
「そうそれ」
僕と怜音の会話は止まらない。転プラは予想以上にドラマがあって、キャラの過去が丁寧に描かれていて。
そこで僕が感情移入しやすい人とも、教えてくれた。面白いところはお腹を抱えて笑ってしまいそうになるし――それで図書館のスタッフに怒られた。
「飛鷹くんは、転プラ読んだことある?」
「え……?」
怜音は飛鷹に話題を振った。男性3人で同じ話題ができるのならば、僕も嬉しい……のだが……。
「ぼ、ぼく。転プラ……し、しら……」
「知らないの? もったいない。面白いから読んでみたら?」
「い、いや……。転プラ……。そう呼ばれてるんだ……。初めて知りました……」
飛鷹はオドオドしながらそんなことを言う。どうやら彼は〝転プラ〟という略称を知らなかったようだ。
――『優人。飛鷹のやつ、きっとなにかを隠しているぞ?』
(え?)
蓮がなにかに気がついたようだが、僕はそれ以上聞かなかった。そもそも、僕は小説読みデビューしたばかりなんだ。
「1名様ご来店です~」
入口の定員がそんなことを言う。流れてくる風で、何度も嗅ぎたくなるような美しい香りが漂い始める。
残念ながら僕は入口に背を向けていた。だけど、向かいに座る飛鷹の表情が驚きに満ちていく。
「中谷さん。お待たせいたしました。そちらのお二人が明日第一部隊に入る方々ですね」
「うん。そうだよ」
僕たちの目の前に現れたのは、20代くらいの長身女性だった。髪は純白でとても綺麗で華やかだ。
悪役っぽい瑠華さんとは真逆。清楚系の令嬢のようで、凄く大人な人だった。
「お二人ともお初にお目にかかります。日本討伐協会。関東地区第一部隊隊長。朝比奈麗華と申します」
「だ、だ……」
飛鷹のオドオドが激しくなる。彼の隣に座る怜音が、優しく背中を摩っていた。麗華さんは、僕の隣に座る。
「その……。初めまして。見世瀬優人です。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます」
「いえいえ。私こそ時間を作ってもらってありがたいです。今日は明日からの日程説明をするために来ましたから」
「そうなんですね……」
麗華さんは、僕の前を遮るように手を伸ばし、タブレットを取った。何を頼むのか気になり、僕は覗き込む。
慣れた手つきで操作をして、選んだのはこの前蓮が食べたがっていたウニ丼だった。2500円でも頼む人がいるんだ……。
「今回、誰が支払うんですか?」
僕はメンバー全員が聞こえる声で聞いた。すると、麗華さんが無言で手を挙げる。どうやら麗華さんが全額払ってくれるらしい。
少しして、僕が注文したいくら丼が届く。見た感じ麗華さんは優しそうなので、ウニの一個くらいくれるだろう。
そんなに高級なものを食べられるほど、舌は肥えてないが……。
「麗華隊長、明日は何時頃、優人くんたちを迎えに?」
「そうですね……。9時頃でしょうか……。私は昼前の訓練は欠席しますので、それくらいですね……」
朝9時にくるということは、それまでに準備をしないといけないということ。だけどここで気になったのは、訓練の数だ。
「昼前の訓練があるってことは、他にも――」
「ありますよ。朝は4時起床。そこから早朝の訓練が始まります。6時に二度目の朝食をして一時間後に昼前の訓練。3時前まで休憩。おやつを挟んで夕食前に訓練ですね……」
転プラの主人公よりもハードかもしれない。そう思ったが、怜音は『これくらい序の口だよ』と言う。
「斬くんなんて、3時前までの休憩時間は、第一部隊本部に併設されたジムで特訓してるからね……。彼が休憩してるところなんて見たことがないよ……」
「そうなんですね……」
僕の料理が届いてすぐ、怜音と飛鷹の分が到着した。怜音はマグロタタキ丼を二つ。飛鷹はお寿司セットを頼んでいた。
「お待たせしました。ウニ丼になります」
最後に届く麗華さんが注文したウニ丼。黄色い宝石がたくさん乗っていて、かなりの贅沢品だとわかる。
――『それ……食べたい……』
(蓮……。本当に食べたいの?)
――『食べたい……』
頭の中で、ジュルジュルという音が鳴る。それだけ蓮は食べたいのだろう。僕は麗華さんにウニ丼を少しもらっていいか聞いた。
すると、『どうぞ』と言ってくれたので食べてみる。いつかは蓮にたっぷり食べさせてあげたい。
見るのは時間をかけられるけど、食べてしまえばあっという間だ。四人で食べるのは。とても楽しかった。
すると、誰かのスマホが鳴る。飛鷹がポケットからスマホを出し、なにかをスクロールしていた。
「飛鷹君。どうしたの?」
「すす、すみ……すみません……!」
飛鷹はスマホの画面を胸に押し付け、挙動不審になる。何が起きたのかわからない。怜音が画面を見せてと言ったが、飛鷹は首を横に振った。
「ちょ、ちょっと……。しめ……いや……その……。大事な用事ができたので……。し、失礼します……! あ、あと来週月曜日から金曜日までは訓練欠席で……!」
飛鷹はそう言い残し、猛ダッシュで店を出た。そんな彼に、残った僕と怜音。麗華さんは、顔を見合うとそれぞれで食事を続けた。




