第15話 初の指導係とてんぷら
各々の昼食が終わり、場所は図書室から訓練場に移った。僕は自分が指導係になるなんて思わず、どう指導すればいいか分からない。
でも、飛鷹は僕と一緒にできることを、物凄く嬉しそうな顔で示してくれた。自分ならできる。できると信じたい。
「見世瀬先生!」
「せ、先生!? 普段通りで……」
飛鷹から元気よく『先生』呼ばわりして、無意識に一歩下がってしまう。訓練場は僕たち以外誰も使っていない。
梨央や瑠華さんは別メニューで、今は第二訓練場でやっているらしい。
周囲の森林は紅葉をしていて、もうすぐ10月が始まることを知らせてくれる。
「だ、だって……。優人君が先生をするんだから……。ぼくは今優人君なんて……呼べない……」
今は僕が先生なんだと、改めて思い知らされる。仕方ないと僕は首を縦に振った。
「わかった。訓練をしている時だけ、僕を先生って呼んで」
「あ、ありがとう……ございます……」
「よし、じゃあ、訓練を始めようか」
とはいえ、訓練メニューなんて何も考えていない。僕ができること、それは水の球体を作る以外になかった。
(蓮。二つの属性を同時に使えたりできる?)
――『できるが……。制御が難しいぞ?』
(それでもいい。水と雷。この訓練時間だけ同時に使えるようにして)
蓮は僕の要望に答え、身体の半分を水。もう半分を雷に固定してもらう。流れる魔力の属性が、脳を混乱させた。
彼が言うには、利き手の右が雷属性。反対の左が水属性とのこと。なぜ、利き手を雷にしたのかは、答えてくれなかった。
「僕が球体を作るから、飛鷹君はそれを破壊してみて」
「わ、わかりました……!」
僕は水の球体を五つ作る。そして、1個だけ破壊してみせた。飛鷹もそれに続くよう、次々と壊していく。
少しずつ難易度を上げる。最終的には米粒くらいのを壊してもらう。実はというと、蓮が即興で考えた訓練法だった。
「見世瀬先生……。こ、こんな感じ……ですか……?」
身体を小刻みに動かしながら、震える手で問いかけてくる飛鷹。僕はその頑張る姿に、ちょっとだけ感動した。
「うん。精度の向上度は最初の訓練より上達してると思うよ」
「あ、ありがとう……ござい……!?」
飛鷹が後方に倒れかける。僕は彼の背中付近に水の球体を生成し、クッションを用意した。僕の反射神経も向上していたらしい。
「飛鷹君。大丈夫?」
「だ、だだだ……、大……丈夫……です……」
「良かった。ゆっくり立ち上がって」
僕は飛鷹を立ち上がらせる。その時の彼は顔を真っ赤にさせていた。とりあえず、魔力欠乏になってないか確認する。
魔力測定の時の流れをイメージ。それを、飛鷹に使ってみる。すると、飛鷹から流れる魔力の少なさがわかった。
「一旦休憩にしようか」
「だ、だめ……です……。まだ今のぼく……じゃ……」
「無茶こそダメだよ。飛鷹君の魔力は有限。せっかく第一部隊に入るのに、体調壊したら勿体ないって……」
僕は正直に言った。言ったつもりだけど、それは完全なるブーメランだった。僕も自分の体調なんて考えたことがない。
「ぼく。本当に第一部隊で合ってるのかな?」
「それは……。自分も同感だけど……。飛鷹君は、午前の訓練で瑠華さんに色々言われてたし、そう思うのも仕方ないよね……」
「う、うん……。ぼく自身。見世瀬先生を超えられる自信が無い……。だけど、努力はしてきた」
飛鷹はそう言って、地面に座り込む。僕はその隣に座り、話を聞いた。
「寮で……寝れなかった時、こっそり……そ、外で……訓練をしていたんだ……」
――『俺知ってる……。寒い中コイツ。魔法の訓練をしていたな……』
なんで蓮が知っているのだろうか。僕は完全に寝ているか、バイトで寮から出ていた。だけど、蓮は続ける。
――『コイツ。きっと夜の方が魔法が冴えるタイプだ。学校の訓練場は日中しか使えないんだったよな?』
なんでも知っている蓮が恐ろしい。僕は迷わず頷く。
「飛鷹君。訓練の続きは夜にしよう」
「よ、夜……です……か?」
「ちょっとね。飛鷹君、夜型でしょ?」
僕の言葉に驚いたのか、飛鷹は座ったまま少し仰け反る。僕は慌てて背中に手を添えた。蓮の観察眼は異常だった。
頭の中で蓮が鼻を鳴らすと、スマホを見るよう促される。送られてきたメール。
そこには、第二訓練場で訓練をする梨央と瑠華さんが写っていた。
「夜の訓練の前に……、もう一回やらせてください……!」
「わかった。もう一度、大きいのから小さい方へとやっていこうか」
「は、はい!」
その後、午後の訓練は順調に終わった。第二訓練場から戻ってきた怜音たちに、飛鷹の訓練成果を報告。
飛鷹の上達曲線。僕の訓練内容と進行法は、どちらも高評価をもらう。瑠華さんは、その成果を見せてほしいと、飛鷹を誘った。
「ぼ、ぼくでいいんですか?」
「もちろんよ。見世瀬からの報告によれば、かなり上達したそうじゃない」
「神代さん……。実は優しい……?」
飛鷹と瑠華さんは、訓練場の中心に立つ。審判は昨日に引き続き怜音が担当した。僕と梨央が見守る中、模擬戦が始まる。
最初に仕掛けたのは瑠華さんだった。飛鷹は昨日の僕の真似なのか、相手の様子を伺っている。
「ら、ライトニング……!」
飛鷹の震える声が響く。緊張のせいか、照準が合ってない様子。僕はアドバイスをしたい気持ちを抑え、じっと観察する。
「直哉くん! 神代さん! 頑張って!」
梨央が大声で声援を送る。そんな彼女を見て、声を出さずに飛鷹を応援する僕。
ただ見守るだけでも、こちらまで緊張するのはなぜか。自分の心理状況がわからない。でも、自分が育てたという証があった。
瑠華さんは、昨日の戦闘法を怜音から指摘されたのか、慎重にそしてレパートリーを増やしていた。
「神代さん。その調子!」
怜音が指示を出す。瑠華さんはそれに応えるように、無数の風切刃を出現させる。僕だったらどうするか。それだけを考えてみる。
「見世瀬先生! どうすればいいですか!」
戦闘中のあがり症をいつの間にか克服したらしい、飛鷹が質問を飛ばしてくる。僕は『自己判断に任せる』と丸投げしてみた。
するとどうか、飛鷹は昨日僕がやったように沢山の魔法陣を出現させ、高い命中率で瑠華さんの風切刃を撃ち落とした。
「双方、攻撃中止!」
怜音がそういうと、瑠華さんと飛鷹は大きく返事をして攻撃を止めた。成長した飛鷹は、とても輝いていた。
「お疲れ、飛鷹君」
「ありがとうございます。見世瀬せんせ……。はぁ~……」
「飛鷹君!?」
突然崩れ落ちる彼に、僕は手を貸す。どうやら魔力が完全に尽きたらしい。本当に頑張ってくれたと、心から思った。
怜音が飛鷹を寮まで送ってくれるそうなので、僕は彼の分の荷物を取りに走る。
回収後の下校はひとりぼっちだった。だけど、蓮がいるおかげで、寂しさだけは我慢できた。
――『そういやオマエ、最近読んでる小説があったよな?』
そう、実はこの前怜音と海鮮丼屋に行った時、彼からオススメされた小説があった。
実は、海鮮丼屋に行ったあと夜間図書館に行っていて、そこで怜音に紹介された本。元々はスマホで読めるネット小説らしい。
だけど僕の場合は内容先行で、タイトルが思い出せない。そこを蓮が汲み取ったのか……。
――『読んでる本人がど忘れして、どーすんだよ! 〝転生したら惑星管理者だった件〟だろ?』
「そう、それ! 略称は!」
〝転プラ〟。転生プラネットとも言って、最近話題になってる作品だった。
主人公の少年・日々野一が転生先として辿り着いたのは、全惑星を管理する惑星管理局。
一はそこで、新生児の仮命名担当をし、一日に数千人以上名付けたことで有名になっている人気作品だ。
――『優人。俺の名前をつける時転プラのこと考えてただろ?』
「うん。考えてた。一は惑星の国の管理もしてたしね……。年齢は僕と同じくらいなのに、あんなに頭がいいのは羨ましいよ」
――「まあそうだな……」
蓮は僕の感想に応える。僕でさえ、名付けたのは蓮ただ一人。一みたいに、大勢の名前なんて付けられない。
「僕も一みたいに頭が良ければ、もっと稼げたんだろうなぁ……。一は僕よりもずっとブラックな環境で働いてるのに、僕はなにもできてない」
――『それ自虐か?』
僕はそれに頷く。そうこうしているうちに、学生寮に到着した。寮生証を見せて入ると、僕は自室へ向かった。
――『名前付けてくれてありがとな』
「うん。こっちこそ、支えてくれてありがとう」
そんな話をしているうちに部屋へ辿り着く。そこには僕のベッドで寝ている飛鷹。可愛い寝息を立てながら、ぐっすり眠っている。
このまま起きそうになかったので、2階はちょっと怖いけど、我慢して飛鷹のベッドで寝ることにした。




