第14話 本入隊と候補生
そして、一夜が明ける。今日は9月27日金曜日。もしかしたら、今日が学生寮から登校する最後の日になる。
僕は真っ白な背面のスマホのアラームを止め、制服に着替えた。脳裏に聞こえる声。ちょうど蓮も起きたらしい。
(おはよ)
――『おはよ〜……うぅ……ん?』
(どうしたの?)
蓮が何かに気づいたように、発言を辞める。『スマホに通知が来てるぞ』と言ったので、着替えるのをやめスマホを取った。
画面をつけて、通知を確認するとメールが届いていた。蓮に操作方法を教わって、メールのページを開く。
そのメールの送り主は、〝日本魔生物討伐協会本部からだった。
〝見世瀬優人様〟
〝日本魔生物討伐協会・第一部隊副隊長の推薦により、討伐部隊への加入が許可されました。詳細は後日担当者が参りますので、ご理解・対応のほどよろしくお願いします〟
これが、メールの全文。正式に決まってしまったことに、僕はどう捉えればいいかわからなくなる。
蓮はどうでもいいと思っているようで、喜びを示さない。それは、僕の気持ちを汲み取っての反応なのだろうか。
「優人君! 優人君!」
突然。二段ベッドの二階から声が聞こえた。高いところが苦手だけど、頑張って二階に上がる。そこでは、飛鷹がスマホを眺めていた。
「飛鷹君どうしたの?」
「ぼ、ぼく……。討伐部隊の……候補生に選出されちゃった……」
僕は、自分の身体が震えているのを感じながら、『おめでとう』と言う。すると、飛鷹は嬉しそうに笑ってくれた。
「僕もさっきメール見たよ。正規の第一部隊入隊だって」
「おめでとう……。実は……、ぼくが入るのも第一部隊みたい」
どうやら、僕の意見は通ったらしい。ブルブル震える身体を抑えつつ、一階に降りると、再びメールを確認した。
文面にはまだ続きがある。それは、飛鷹の扱いについてだった。現在、部屋数が足りないため、僕の部屋を共同で使うことになるらしい。
それを飛鷹に伝えると、ものすごく喜んで
くれた。脳内にいる蓮にも話すと、『コイツが喜ぶならそれ以上興味はない』と返される。
「飛鷹君。急いで学校に行こう!」
「う、うん! えーと……。たしか今日は寮食が出ないから……」
「コンビニだね!」
飛鷹が二階から降りてくると、彼も制服に着替える。鞄を持って部屋を出ると、仲良くコンビニに向かった。
着くと飛鷹はおにぎりを三つ買ってくる。気になったので僕も購入した。なんか最近食事への興味が持てるようになった気がする。
買ったのは、梅と辛子明太子。初めて食べたけど、とても美味しかった。特に梅の酸っぱさが癖になってしまう。
食事を終えて歩き始めた時、学校への道は非常に混みあっていた。みんな、寮で朝ごはんを作るメンバーで、早く出てくるのは夜間調理組だ。
飛鷹の様子を見ると、第一部隊への喜びか恐怖することなく背筋を伸ばしている。しかし、震える唇は普段と変わらない。
学校に到着し荷物を片付けると、図書室へ向かった。途中、梨央と飛鷹の二人と合流する。今日もなにか嫌な予感がしていた。
「おはよー!」
「おはようございます。怜音」
図書室の入口で待っていた怜音に挨拶。部屋に入ると瑠華さんが外を眺めていた。僕は、永井彩音も来ているだろうと探す。
しかし、彼女の姿は見当たらなかった。僕は瑠華さんに質問する。だけど、瑠華さんが口を開くことはなかった。
「怜音。永井さんは……」
「それなんだけど……」
怜音は口篭りながら説明を開始した。どうやら、永井に連絡をしても既読無視をされているらしい。
「きっと、永井は今頃引きこもってると思うわ。私はあんな人とは関わりたくない。最上位クラスの恥よ」
「瑠華さん。そんなに強く言わなくても……」
「見世瀬は黙ってて、まずまず、あの子は自分で自分の首を絞めているのよ?」
瑠華さんの毒舌節は止まらない。昨日星咲先輩に負けた彼女は、逆に過大評価をしすぎている気がした。
対して、自分を過小評価している僕は、まだ星咲先輩に勝った自覚がなく、しっかり現実を飲み込めずにいる。
「永井はなんでもヒトのせいにして、『自分は関係ありません』って言ってるのよ? 彼女から見世瀬のせいにされた本人の意見、聞かせて貰えるかしら?」
瑠華さんは、軽く握った右手を右頬に押し当てニンマリ笑う。その色気たっぷりの顔に、僕の思考が狂いだした。
「そ、それは……」
「やっぱりね……。本当は嫌だったんじゃない? 自業自得なのに、現実を受け止めない方が、人生最弱組よ……」
そう言って、瑠華さんは再び外を見た。怜音も飛鷹も、瑠華さんの態度には口出しをしなかった。
たしかに、永井が体調を崩したのは、彼女が勝手に僕が作った魔力水を飲んだからだ。今考えてみれば、彼女は僕が忠告する前に飲んでいた。
それを僕のせいにされたのjは、溜まったものじゃない。たしかに、僕が言うのが遅かったかもしれない。けど、それとこれでは話が違う。
「神代さん! なんでせっかく集まった最上位クラスなのに、クラスメイトを見下すんですか?」
梨央が緊迫とした空気を斬る。しかし、瑠華さんは答えなかった。怜音が『時間押してるから始めるよー』と言ったので、話題が中断される。
今日の怜音はいつもと違った。今まで午前の訓練は、コップに魔力水を注ぐだけだった僕はこれ以上難易度は上げられないとの事。
そこで、用意されたのは沢山の像だった。どれも、丁寧に作られている。怜音は満面の笑みと同時にドヤ顔をした。
「優人くん。昨日雷属性の魔法を使ったよね?」
「は、はい……。使いましたけど」
「今度、優人くんと飛鷹さんは第一部隊に入るでしょ?」
怜音の『第一部隊』という言葉に、鋭い視線が飛んでくる。その視線の主は、欠席した永井彩音に対して毒舌を披露した瑠華さんだった。
「飛鷹が第一部隊に入るですって?」
「うん。そうだよ。優人くんは第一部隊の本入隊。飛鷹さんは候補生として――」
「なんですって!? 飛鷹が候補生だなんて、ありえないことに決まってるじゃない。今すぐそちらのお偉いさんに取り消し願えるかしら?」
「それはできないよ。あくまでもボクは下っ端だし。これを決めたのは、第一部隊の総司令と、隊長の朝比奈さんだからね」
飛鷹を候補生に選んだのが朝比奈さん。脳内で話しかけてくる蓮に聞くが、彼もよく知らないらしい。
だけど、不思議なことに総司令のことは知っているとの事だった。僕は蓮に総司令のことを問いかける。
すると出てきたのは、過去に聞いたことのある名前だった。
「怜音。総司令って。この前話してくれた、怜音を拾ったっていう……」
「うん。宮鳥景斗総司令官だよ」
宮鳥景斗総司令。そんな凄い人に拾われた怜音も凄い。瑠華さんは、その現実に反論できないようだった。
討伐部隊の最上層部の人の判断なら、一般人である僕たちに決定権は存在しない。誰でもわかることだ。
「昔の日本はね。国会議事堂って場所があったんだ。そこで、お偉いさん。つまり議員が日本を支えていた」
「議員ですか……」
「だけどね……」
怜音は魔生物の襲撃で、国会議事堂が被害に遭ったことを話してくれた。今は、そこまで権力を持つ偉い人がいないらしい。
「今は簡易政府が管理している。そして、その簡易政府は各地区に一つずつあるんだ。景斗総司令は、主に関東地区を管理している」
「ぼ、ぼく……。知ってます。討伐部隊を作ったのも、その宮鳥総司令ですよね?」
「そうだよ。飛鷹くんは物知りだね」
「よ、よく……ネットニュースを……見るので……」
飛鷹は嬉しいのか、軽く俯いて微笑んだ。頬は真っ赤に染まっていて、照れ隠しをしているらしい。
「その宮鳥総司令が、飛鷹を候補生に選んだわけね」
「そーゆーこと」
ようやく状況が飲み込めたらしい瑠華さんは、飛鷹の近くまで歩いていく。そして、『せいぜい頑張りなさい』と冷たく言った。
「直哉くんすごーい!」
そう賞賛するのは、梨央だった。僕のことよりも飛鷹を選ぶなんて、正直許せない。だけど、もう梨央は僕には追いつけないと思う。
午前の授業は長話のせいか、半分以上の時間が消失した。まあ、そんなこともあるだろうと、割り切れる怜音が凄いが……。
僕は氷の像を雷属性の魔法で壊すだけ。午後の授業は、飛鷹の指導を担当することになった。




