第13話 入隊試験の結末
目の前は真っ白に染まった。雷光のせいだろうか。星咲先輩の顔が見えない。僕の魔力は枯渇したと思ったが、予想以上に余裕がある。
永井さん見てるかな? 彼女は僕に不満を持っているようだったから心配だ。だけど、今更彼女のことを考えても遅い。
もし彼女が見ていたとしたら、どんな表情で見ていただろう。もしかしたら、やっぱり、考えないという選択肢がなかった。
だんだんと視界が開けてくる。星咲先輩は横倒しになって、ほんの少しだけ痙攣を起こしていた。
「星咲先輩!」
僕は慌てて駆け寄る。大丈夫。意識はあるようだ。だけど、僕でも全身が痺れるのに、こんなに元気なんてありえない。
怜音が治療に入る。梨央と瑠華さん。飛鷹は目を丸くして硬直していた。僕も何がどうなったのかわからない。
「お前容赦ないな……」
「その……。すみません……」
「フッ。ま、別にいいだろ。それくらい戦闘能力があるなら十分だ。合格にしてやる」
合格とは。そういえば、昨日怜音が入隊試験をすると言っていた。バトルに集中しすぎて、完全に抜けている。
梨央たちも硬直が解け、走ってくる。まだ、僕は合格した事実を受け入れることができなかった。これは、僕の実力じゃない。
全て蓮が計算してくれたからこそ、できたことだ。だから、僕に達成感が生まれない。そう結論づける。
「星咲先生。あんな雷撃を全て受けるんだからバカね……。普通は避けるに専念するわよ」
僕の前に瑠華さんが立ちはだかる。向いてる方向は星咲先輩の方だ。彼女から放たれるオーラは怒りに満ちている。
「テメェなんもわかってねぇな」
治療が終わった星咲先輩が立ち上がる。僕の電流は致死量レベルと言われたが、彼はピンピンしていた。
瑠華さんは立ったばかりの星咲先輩に近寄る。彼女の怒りは一方通行。午前中、永井に向けてしていた状況と一致する。
「なにもわかってないですって? 先生こそ……」
「敵を知るには身体を張ってでも受け止める。それが死ぬ前提でもだ。オレはそれ一筋で生きてっからな……」
「あなたはほんとバカな先生ね……」
たしかに瑠華さんの意見には同感だ。そもそも、なぜそこまで負傷度を低くできるのか。
第一部隊の隊員ってみな同じなのだろうか。僕は目で怜音に助けを求めた。しかし、彼は優しく微笑むばかり。
梨央は状況に慣れきれてないのか、困惑の表情を浮かべている。
「飛鷹君。大丈夫?」
僕は、梨央の隣で両耳を塞ぐ飛鷹に話しかける。両目はウルウルしていて、今にも泣きそうだ。
「大丈夫……じゃ、ないかも……」
「そう。ちょっとこっち来て」
「わ、わかった……」
僕は、飛鷹を連れて静かな場所に移動する。自分の実力かはどうであれ、僕は試験に合格した。
僕はいずれ、学生寮を出ないといけないかもしれない。その時飛鷹をどうするか。実は昨日の夜ずっと考えていた。
訓練場の脇道を歩き、少し遠回りではあるが体育館の外階段前まで移動するする。人の気配はしない。それ故にとても静かだ。
「そ、その……。優人……君……。おめでとう。」
「ありがとう。まあ実感はないんだけどね……」
「そ、そう……だよね……。ぼく、気づいてた」
気づいていたとは、どういうことだろうか。僕はその理由を聞くため、階段を椅子代わりにして飛鷹を座らせる。
飛鷹は僕の顔を見ては下を向きを繰り返し、少しして口を開いた。
「優人君の、魔法陣。照準を合わせる時動きが不自然だった。きっと、裏で誰かが……」
「飛鷹君。その通りだよ……。魔法陣の照準を合わせたのは、僕じゃないんだ。雷使いの飛鷹君には隠せなかったね……」
「だ、大丈……夫。でも、凄かった」
飛鷹は震える声で僕を賞賛する。それを嬉しいと受け取っていいのか、さっぱりわからない自分がいた。
「その……。近いうちに、僕は学生寮を出ないといけないかもしれない。星咲先輩が言ってたよね。討伐部隊の本部のこと」
「で、でも、あれは、過去の話……、みたいだし……」
「ううん。きっと、怜音と星咲先輩は、本部から直接来てるんだ。下校する時星咲先輩のこと見たことある?」
飛鷹が学生寮に入ってくる前、僕は朝食を食べずに、朝イチで登校していた。その時には既に星咲先輩のいる場面が浮かぶ。
星咲先輩は登校していて、登校していない。歩いて学校に来てないんだ。きっと、飛鷹君も気づいているかもしれなかった。
「朝……。星咲先輩みたことない……」
「だよね……。だから、僕もいつかは第一部隊の本部から直行するかもしれないってこと」
「ぼ、ぼく……。ずっと、優人君と一緒の場所がいい」
飛鷹はこの前『優人君がいない朝は、ぼくの朝じゃない』と言っていた。それを、僕は叶えてあげたかった。
だから、今誘っている。もちろん、どこかで会う星咲先輩より上の人にも相談する。僕だって、飛鷹とは離れたくなかった。
「優人! ここにいたんだ!」
さっき僕たちが通って来た道から、梨央が駆け寄ってくる。僕は飛鷹に『さっき話したことは出さないで』と伝えた。
「優人も直哉くんも、急にいなくなるから心配したんだよ?」
「そ、それは……」
「もしかして、内緒話でもしてたんでしょうね?」
梨央の鋭い指摘に、僕は飛鷹と顔を見合わせた。隠し事なんてできそうになかった。僕は梨央にも説明する。
「なるほどね……」
「ごめんなさい……」
「問題ないよ。だけど優人と一緒に帰れないのは寂しいかな?」
梨央はそう言って、一歩前に出る。彼女は両手を差し出してきた。僕と飛鷹は一緒に彼女の手を握る。
三人で訓練場に戻ると、星咲先輩と瑠華さんの公式戦真っ只中。どう見ても、星咲先輩の方が優勢だ。
瑠華さんが放つ風は、全部炎に消えていく。様子からして、星咲先輩はかなり手加減をしている様子だった。
僕との戦闘で魔力を消耗しているはずなのに、威力の凄さには驚くしかない。けど、僕よりも優しい炎だった。
梨央と飛鷹は訓練場の入口で足を止め、ジッと観戦している。そんな二人を置いて、僕は審判をしている怜音のところまで歩いた。
怜音は真剣な顔で戦闘を見ていた。どうやら、今回のバトルは様子がおかしいらしい。
「怜音。星咲先輩もう大丈夫なんですか?」
「まあね。あの子は何に対してもストイックなんだ。自分を追い込むことに快楽を感じるかなり変わった性格でね……。だけど……」
怜音は言葉を止めた。瑠華さんが、嵐を巻き起こした時、彼は再び口を開く。
「今の斬くんは本気、本領を発揮しきれていない。何故かわかる?」
「え、えーと……。もしかして、瑠華さんが使う技がパターン化してる……から?」
自分で言ってわかったが、瑠華さんはずっと同じ動きを繰り返している。星咲先輩に恐怖しているように、突き放そうと……。
では、僕の場合はどうだったか。僕は自分がしたことを覚えていない。たしかに、僕は雷の魔法を使った。照準は全て蓮にお任せだ。
「まだ君と戦ってた斬くんの方が良かったよ。ボクも同感だった。瑠華さんと君の違い。それは、技のレパートリーだよ」
「レパートリー……」
「瑠華さんは同じ名前の、決まった技しか使わない。種類が少ないんだ。だから応用が効かない。では、優人くんはどうか」
さっきも言ったように、僕は雷の魔法を使った。そこで、僕は気づく。
「僕がメインで使ってる。水魔法以外の属性を使ったから、星咲先輩は予測が出来なかった……」
「そういうことだね。優人くんの属性は魔力測定をした段階で〝水〟という第一印象が付いている。なのに、君は雷を使った」
「予測できないことを、星咲先輩は楽しんでいる……。ですか……」
怜音はコクリと頷く。結果、星咲先輩の追い込みに押し負けた瑠華さんは、その場に崩れ落ちた。
「な、なんて強さなの……。これが、第一部隊副隊長の実力……」
「お前の魔法は非常に読み易いからな。全く面白くもない……。非常につまらないバトルだった」
これで、言い合いの決着がついたらしい。最上位クラスの訓練はこれで解散となった。それぞれが教室に戻り、鞄を回収する。
その道中。僕は怜音を呼び止め、飛鷹の今後について話した。それに彼は、上の人に確認をしてみると言ってくれた。




