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第12話 始まった入隊試験

 僕は今、暗闇の中を歩いている。足を動かしているだけで、進んでいないのかもしれない。


(ここは一体……)


 心の中で言ったはずなのに、空間全体に反響する。自分が今どうなっているのかが、全く理解できなかった。


 同じ風景だけが広がる世界。どこを見ても、何もない。そんな場所を彷徨っている自分。

 

「止まれ」


「ッ!?」


 過去に聞いたことのある声のトーン。周囲を見回す。しかし、姿が見えない。僕は、出口を探そうと、さらに進む。


「いいから止まれ!」


「で、でも……。みんなのところに向かわないと!」


「大丈夫だ。現実(・・)では他のヤツらと同じ方向に進んでいる」


 僕の声に返す声は僕に対して『現実(・・)』と言った。ではここはどこなのだろうか。


 僕は他に物がないか探る。腕を素早く振っても風切り音はしない。魔法を使おうとしても発動しない。


 余計に不安になる。一生ここから出られないのではないかと。僕は声に従い足を止めた。途端真っ暗な空間は真っ白に染まる。


「やっと来てくれたな。優人」


「だ、誰?」


 目の前に現れた少年。背は僕より高く黒髪。瞳は赤く、狼の目のように鋭く尖っていた。そして、僕の名前を知っている。


「誰って――ま、そうだよな。俺には名前なんてものはねぇんだ。オマエが今から付けろ」


「僕が? え、えーと……」


 突然、命名しろと言われても困るものは困る。僕だって、そこまで使えるような人間じゃない。名前を付けた経験すらないから。


 大図書館にある本のように、一日に何百人もの人に名付けできるほど、頭は良くないから。


 そもそもあれは、ここの世界とはまた一味もふた味も違う。もし同じ世界線にいたとしたら、僕はどうしているだろう。


 きっと、国家経営なんてできない。僕自身、責任を取れるか分からない。だけど、そんな夢も見てみたくなった。 

 

 僕はとりあえず候補を絞り出した。そこから気に入ったものだけにする。そういえば、三龍傑にも同じ漢字を使った人が……。


「じゃあ、(れん)で」


「ふーん」


「気に入らなかったかな?」


 興味無さげな彼に僕は自信を無くす。ネーミングセンスなんてない。思いついたことをただ言っただけ。


 少年はまだ悩んでるようだった。気に入らなかったらどうしよう。そんな不安だけが込み上げてくる。


 僕が呼ばれた理由でさえ伝えられてないのに、少年の思考時間だけが溶けていく。今は忙しい。今すぐ戻りたいのに……。


「オマエが俺を蓮と呼びたいなら、承認してやる。今度から俺は蓮だ。んと、オマエの苗字は見世瀬だったか。んじゃ見世瀬蓮だな」


「見世瀬……蓮……。なんか兄弟ができたみたい」


「あはは、いい事言うな。俺はただ意識上の存在だ。けど、擬似的なそーゆー関係もいいかもな」


 嬉しそうに蓮がそう言った。僕の意識上の兄弟。元々、兄弟のいない僕も、少し嬉しくなる。


 蓮は『これを見ろ』と言って何もない場所を指さした。すると、大きなスクリーンが現れ、外の世界の様子が映し出される。


 今いる場所は正に訓練場だった。いつの間に到着していたのかと、心から安心する。少しすると画面が一瞬揺れた。


 僕の目線が瑠華さんの方へ向く。さっきの蓮同様。興味のないような、だけど心配そうな顔。間に怜音が挟まり、瑠華さんの顔と被る。


 そこを、星咲先輩が勢いよく突き飛ばし、梨央が止めに入ろうとする。現実は相変わらず騒がしい状況だ。 


「オマエ。(あらた)と戦うんだろ? 昼食の時、俺がサポートするつったの覚えてるか?」


「うん。覚えてる。それじゃあ、今まで聞こえてた声って、もしかして……」


「そうだ。全部俺だ」


 自信のない僕とは正反対に、蓮はハッキリ言い切った。『そろそろバトルが始めるみたいだぞ』と蓮。


「じゃあ、サポートよろしく。特に僕の苦手な攻撃魔法のアシストを」


「承知! なんつってな。わかった。任せとけ!」


 直後。目の前が霧散して現実世界に引き戻された。まず驚いたのは、意識が戻った時真正面に梨央の顔があったこと。


 鼻と鼻がくっつきそうなくらいの至近距離だった。嫌な気持ちはしなかったけど、距離感くらい考えてほしい。


「みんなごめん……。ちょっと妄想世界に入っちゃってたみたい……」


「もう。優人急に無言になって歩くんだから! ちゃんと前を見ていたか心配になったんだよ?」

 

「梨央……。そ、そうだよね……。しっかり前を向かないと、ぶつかっちゃうし……」


 蓮と意識空間で話してたなんて言えない。僕は上手く誤魔化そうと頑張った。


 だけど、梨央の瞳は冷たくなんでも見透かしてしまいそうな視線だった。無意識に顔があらぬ方向へ向く。


「優人。準備はいいか?」


 星咲(ほしざき)(あらた)が一言。僕は目線を元に戻し、彼を見る。戦闘という戦闘をしたことがない僕。


 だけど、蓮が手助けしてくれるならきっと大丈夫。僕は星咲先輩と一緒に訓練場の中心へと移動する。


 審判は怜音がしてくれることになった。真ん中へ。真ん中へ……。中央に行くに連れて、緊張と胸の高鳴り。


「これより。関東地区、第一部隊副隊長、星咲斬と、挑戦者、見世瀬優人の公式戦を行います」

 

 怜音のその声は真剣で、いつもよりもトーンが低い。だけど、それが緊張を緩和させた。


「両者位置に着いて」


 僕と星咲先輩は一歩前に出た。僕の脳内では蓮からの指示が飛び交っている。公式戦なんてしたことがない。


 ――『大丈夫だ。まずは相手の攻撃を全部避けろ。俺が合図したら、防御に回れ』


(攻撃はしないの?)


 ――『攻撃はまだ無しだ。今オマエが攻撃できるように魔法式を組んでいる。準備できるまで待て」


 蓮が引っ込む。僕は大きく息を吸って、短く吐いた。怜音が『開始!』と言うと、星咲先輩が行動を開始する。


 僕は相手の動きを待った。真後ろが熱く燃え上がる。僕はすかさず水の球体を作り防御。だけど、守りきれない……。


 これが副隊長の実力。根拠無しに『勝てます』と言った自分が馬鹿みたいだ。僕は走り回る。星咲先輩の攻撃を防ぎ続ける。


 蓮からの応答はない。時折足がもつれそうになるが、水の球体を爆破させ身体を浮かし、もつれないように補助をかける。


「逃げてばっかだと疲れるんじゃねぇか? さっさと攻撃してこい!」


 星咲先輩が挑発してくる。でも、この挑発に乗ったら、最悪の方向へ向かうと、蓮がボソり。


 挑発に乗ってはダメ。それを自分に言い聞かせ。ひたすら避けた。後方から真上から、ありとあらゆる方向からの火炎。


 明日はきっと筋肉痛が酷くなる。そんなことを考えたって、最適解は浮かんでこない。僕は蓮からの号令を待った。


 ――『優人。構築が完了した』


 蓮が合図を出す。僕は身体を動かしながら、彼の答えを聞いた。

 

 内容は蓮の詠唱で属性変更ができるというもの。通常はできないことらしいが、彼がいうには、僕の魔力は特殊な構造らしい。


 どんな属性にも対応できる。突然変異と言ってもいい魔力。蓮はそれを知っていた。もしくは、僕の魔力を分析したのだろうか?

  

(属性は?)


 ――『オマエにとって身近な属性。雷属性だ』


(了解。属性変更して)


 僕は蓮に伝える。すると、蓮が僕の中で詠唱した。『タイプチェンジ、エレキ』。その瞬間、全身に電流が駆け巡る。


「星咲先輩。攻撃準備が出来ました」


「ようやくか。こちとら待ちくたびれてんだよ!」


「お待たせして申し訳ないです! ここからは僕も本気で行かせてもらいます!」


 頭の中に詠唱句の海が展開される。そのほとんどに、魔法の種別が書かれていて、攻撃魔法だけでも20種類ほどあった。


 その中から今すぐにでも使える初級魔法を選ぶ。〝ボルトフレア〟〝エレキブラスト〟。中でも気になったのは〝ライトニング〟だった。


 そういえば、ライトニングは飛鷹も使っていた。だけど、そんな彼でも扱うのが難しい魔法だ。僕に使えるのだろうか。


 ――『俺が補助する。盛大にやってやれ』


 僕は蓮の言葉を信じることにした。


「魔法陣、同時大展開。ライトニング!」


 僕が詠唱をすると、上空にたくさんの魔法陣が現れる。魔力が消費されていく感覚。このまま枯渇するまで使いたい。


 僕は『もっと、もっと』と願い、数を増やしていった。蓮はというと、魔法陣の向き調整で忙しそうに計算している。


 脳内に様々な数字の羅列。どんな式なのかはわからない。だけど、これが勝利への道ならば、僕は気にしない。


 蓮は僕にとって唯一無二の兄弟だ。心の中の新しい友達だ。そんな彼を裏切りたくない。そんな気持ちでいっぱいになる。


「ファイア!」


 一斉に降り注ぐ雷鳴の嵐。星咲先輩めがけて飛んでいく光は、とても綺麗だった。僕がこんな魔法を使えたなんて……。


 そんな世界を見ている裏で、蓮はニヤリと笑っていた。

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― 新着の感想 ―
おっ、前回の暗闇反転はそういう展開だったんですね?! あ、熱い…。 模擬戦が熱いぞ…!! “属性変化”ってめちゃくちゃすごくないですか?!
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