おじいちゃんの海
夏休み。
おじいちゃんおばあちゃんの家へ向かっている。お盆の恒例だ。
昭和60年代前後の小学生低学年。国語の教科書に「戦争の話」が出てきた。
「君達のおじいちゃんおばあちゃんは、戦争を体験されてるだろうから、もしお話が聞けそうなら聞いてみて。」
先生が言っていた。それと、
「でも、とても悲しい体験もされているかもしれないから、ちょっと嫌そうだったら、無理には聞かないで」とも。
おじいちゃんおばあちゃんの家は、海のすぐ近くだ。
いとこ達と集まって、1日は海で遊ぶ!それが今から楽しみだ。
お昼前には到着した。
いとこ達は明日来ると聞いた。
お昼ご飯を皆で食べて、午後からどうしようかなぁと考えているうち、ふと国語の戦争体験の事を思い出した。
「そうだ、おじいちゃん、戦争てどうだったの?」
大人達が、えっ? と一瞬困惑した。
国語の教科書に出てきた話と、先生が言っていた事を伝えると、皆納得はした。
でも、何をどこまで聞いてよいやら、話してよいやら、大人達のちょっと気まずい感じは、なんとなくわかった。
「おじいちゃんはねぇ、外国に行ってたんだよ。」
少しして、おばあちゃんが言った。
「そう、船であっちこっち行ったんだよ。」
また少しして、おじいちゃんが言った。
食後の片付けやら、荷物の整理をしながら、お父さんとお母さんも、とても気にしている。
あまり知らないのかもしれない。話してこなかったのかもしれない。そう思えた。
ふいに、
「なぁ!船がもう沈むって時にはな、早く海に飛び込んで、できるだけ離れるんだぞ!」
おじいちゃんが言った。
「沈まないから!今は!」
お父さんとお母さんは、つっこんで笑った。おばあちゃんも笑っている。
「そうか!…そうだな!」
おじいちゃんも笑った。
和やかな雰囲気になり、戦争の話は一旦終わってしまった。
午後からは、おばあちゃんの月に1度の定期健診の日で病院に行くから、一緒に来るか? と誘われたので、行くことにした。
帰りに喫茶店でお茶をする!というのにも惹かれた。
おばあちゃんの健診の間、おじいちゃんは、パチンコ!に行き、それによって、喫茶店でのメニューが変わる、らしい。
「年に1度くらい、豪華なおやつ!になるんよ。」
おばあちゃんが楽しそうに話す。
おじいちゃんの運転で向かう間、どうしても気になっていたので、聞いてみた。
「ねぇ、さっきの話。どうして、沈む船から離れるの?」
「うん、船が沈む時にはな、大きな渦ができるから、それに引き込まれたら、もう上がってはこれないんよ。」
おじいちゃんの乗った船は、2度沈められたんだって。
「おじいちゃんは、海の近いここで生まれ育ったけど、今は海があんまり好きではないんよ、ね。」 おばあちゃんが言った。
おばあちゃんを病院へ送って、おじいちゃんは、
「海へ行くか!」
と言った。
車を停めて、いつもの海水浴場が少し遠くに見える辺り。
「ここの景色はいいだろう? 釣りもできる。」
少し岩場もあって、小さな魚が泳いでいるのも見える。
おじいちゃんの昔からのお気に入りの場所だ。
海は穏やかに、緩い波が続いている。
沖に陽が反射して、キラキラとまぶしい。
平たい石を、おじいちゃんが慣れた手付きでサイドから投げた!
水面に3回か4回くらい跳ねて、消えていった。
やってみる!!
石の選び、持ち方、投げ方、教えてもらい、何度かするうちに、コツ!をつかんだ。
石をいっぱい集めてきた。
2人で投げあった。
ふいに、おじいちゃんは、投げるたび、
「鈴木!」「佐藤!」「田中!」…と名前を呼ぶ。
本当にたくさんの名前を呼び続ける。「太郎!」「次郎!」とか、「大尉!」 「兵長!」とか、あだ名のような名前も。
石が足りない!石集めに専念した。
どれくらいの名前を呼んだだろうか?
おじいちゃんは、泣いていた。
「どれだけ石があっても足りない。皆、死んだ。」
しばらく2人は黙って海を眺めた。
穏やかな波の音が続く。
「綺麗だな!」
「うん!」
「なぁ、海はこうでないと!」
「戦争なんてしちゃいかん。戦争で人やら船やらが沈むなんて、いかん。」
「うん!」
「絶対にな!しちゃいかんぞ!」
「うん!」
「頼んだぞ!」
「うん!」心に誓った!!
「今日の2人の約束な!!」
「行こうか。」
おばあちゃんを迎えて、帰り、いつもの喫茶店で、パフェを食べた!
おばあちゃんは、少し何かを察したようで、
「今日は豪華ね!」と笑った。
翌日、いとこ達が到着して、いつものように海へ出て、墓参りや、花火など、思いっきり遊んで、
恒例のお盆の行事が終わった。
夏休み明けの作文に、遊んだ事と、おじいちゃんの船と、海での話、を書いたところ、選ばれて発表される事になった!
報告の電話をする。
嬉しそうな、おじいちゃんおばあちゃんの声。
「じゃあ、2人の約束ね!」
「約束な!」
合言葉のように言って、もう1度心に誓って、電話を切る。
半フィクション!おじいちゃんのモデルは、私(多雄)のおじいちゃん。
26才の輝ける年頃に、兵隊に。
兵隊に否応なく駆り出されるなんて、被害者だよね。
でも海外では(おそらく)加害者。~国の~に、一番乗り!なんて自慢気に言ってたから。
複雑だね…
海外で、おじいちゃんが傷つけたかもしれない皆さま、ごめんなさい。
私は、私が、謝ります。
戦後80年。終戦の日に掲載したかったのだけれど、間に合わなかった (笑)
何せ、初投稿!!四苦八苦 (汗)
本当は初投稿は、もっと ふんわり したストーリーを挙げる予定!~この戦争話、のつもりだったんだけどな。
何か踏ん切りつかず、ズルズルと… 終戦の日も過ぎちゃったし…
どうする? 戦争話、また来年?
いや、来年は…長過ぎるやろ!!
と、終戦の日、3日遅れの投稿!となります!!
3日遅れは、ギリ許される!?としておこう (笑)
このストーリーでの、夢!は、小学校の教科書への採用(笑) デカく出た(笑)
いや、でもね、本当に、語り継いでいかなあかんと思うのよ。
ね、おじいちゃん。(生きていたら110歳) 私なりに
継いでみました。1人でも多くに届いてほしい。継いでほしい。