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非常事態とは

(非常事態......?)


思わず眉がぴくりと跳ね上がる。

シンは一歩前に踏み出し、低い声で問う。


「おい待て、今さらそれを言うのか?」


「え、だって“非常事態用”だからね? そもそも基本は“自分の力で生き残る”が方針だから、なるべく出さないほうが良いかなーって」


怒りと呆れが混じった表情で悟が睨むと、シエルは肩をすくめ、壁に手をかざす。


ゴゴゴゴゴ……。


床が震え、機械的な駆動音と共に、地面の一角がせり上がる。

そこに鎮座していたのは黒く頑丈そうなアタッシュケース。そして、その蓋には大きく赤字で書かれた一言。


**《EMERGENCY》**


「見た方が早いでしょ♪」


シエルが手をかざすと、ケースはカチリとロックを外し、自動的に開いた。


中には――光沢のある鋼鉄製の、巨大なリボルバー。


「……でかすぎないか?」


シンは圧倒されながら、恐る恐る手を伸ばす。

手に取ると、ずしりと重い金属の塊が骨に響く。


「シンの転生前の時代で、最強クラスのハンドガンを参考にした逸品よ。50口径のマグナムとかなんとか」


「それで、どれくらいの威力があるんだ?」


「ヒグマくらいなら――一撃、ね」


「……すごい今さらだな」


訓練に汗を流して、必死に身体を鍛え、斬撃の精度を磨き、ようやく辿り着いた勝利。それを一発で飛び越える存在、というわけだ。


「……使えば楽になる。でも、なんか納得いかないな」


「まあ、あくまで非常用。弾薬も制限あるしね」


「どれくらいだ?」


「とりあえず在庫が200発。あとは、作る、かな?」


「作る……?」


シエルはニヤリと笑い、壁に手をかざす。


すると今度は部屋の壁がスライドし、新たなスペースが現れた。中には作業台と、1立方メートルほどの透明なガラス張りの装置が据え付けられている。


「これが“クラフトボックス”。中に素材を入れると、設計通りのものが自動で作られるの」


「お前、それ……どう考えても最初に説明すべきだったろ」


「ふふっ、これは本来、チュートリアルの“魔法”パートのあとに紹介する予定だったのよ。順番、大事にしたくて」


シエルは悪びれる様子もなく、ケースの横から金属の塊を取り出した。


「はい、これはお試し用の玉鋼ぎょくこう。刀剣の素材になるわ。弾丸の素材はここにはないけど素材リストは用意できるし、素材さえあればこのボックスが自動で生成してくれるわ。素材も細かいことは気にしなくてとりあえず突っ込んどけばストレージに入ってその中から作成可能なものが作れるって感じだから」


「……なるほど」


シンはリボルバーを手に取り、冷たく重い質感を確かめた。

ヒグマを一撃で葬る威力。その安心感は確かに魅力的だ。


だが同時に、これは最後の切り札だとも思った。


(自分の力だけでは、どうしようもない状況になったら……)


「……持っていく。でも、これは使わないのが理想だ」


「了解〜。お守り代わりってやつだね」


それは決して、楽をするための武器じゃない。

命を守るための、保険。


そう認識しながらシンはケースを閉じ、ゆっくりと立ち上がる。


「……さて。出発するか」


「うん。いよいよ、冒険の始まりね♪」


扉の先に、どんな世界が広がっているかは分からない。


準備も整っていない。だが、もう行くしかなかった。

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