最強の剣術
一週間が経過した。
白いシミュレーション空間での訓練はきついものだった。
何十回もヒグマに殺されては挑む日々。
それで、ようやく――何回かはヒグマに勝てる程度にはなった。
勝率は三割ほど。
それが、この訓練で得られた結果だ。
食料は残り一週間分。
鍛錬に不安はあるが、外の状況がわからない以上、そろそろ出るしかないだろう。
シンはそう決意し、現実空間で目を開けると周囲を確認した。
白く静まり返った部屋。
その端に、ずっと姿を見せなかった“彼女”がいた。
「……おはよう、シン。三日ぶりくらい、かしら?」
何食わぬ顔であくびをするシエル。床に寝転び、片手をひらひらと振っている。
「どこにいたんだ」
「ん〜、まあ、いろいろと、ね。モンスター生成とか、初日で自動化してたから特にすることもなかったし」
「いろいろって?」
こいつのことだ。どうせさぼっていたんだろう、という目で見やると、セシルはやや焦ったような顔をした。
「いやぁ~。まあ、いろいろは、色々よ。ああ、あと、剣術のシミュレーションなんだけど、やっぱり難しそう。なんか人としての行動を制限したり、とかの初期値の設定がかなり面倒でね。最初は面白かったからいろいろ弄って楽しかったんだけど、ある程度触ってたら、相当難しそうな感じがしてね。」
「要は、飽きただけだろ」
「ち、違うわよ!そこまで言うなら一回戦ってみる?マジでヤバいわよ!」
「......。まあ、現状の把握は必要か。仮想空間でやるのか?」
「そうね、すぐ繋ぐわ」
仮想空間の戦闘訓練エリアに入ったシンは、自分のコピーのような相手がいるのに気付いた。
「もしかして、俺のコピーのようなやつらで実験していたのか」
「そりゃそうよ。あなたの肉体で得た技術のほうがモノにしやすいでしょう?」
「.....それもそうか。じゃあ、さっそく実力を見させてもらおうか」
そういってシンは剣を構える。武術の心得はないが過去に剣道などで目にしていた正眼の構えをとる。もっとも実際に教えを受けたものでもなく、細かい部分は異なるだろう。だが、多くの実践を経て改良を加えた結果、しっくり来ているか前の一つだった。
一方の俺のコピーはというと、どうみても野球のバッティングフォームというか、そういう構えをしていた。
「おい、これはマジでやっているのか?」
「大マジのマジよ。どうやらバッティングによるスイングによる攻撃力はおそらく剣を用いた中でもトップクラス、つまりその攻撃が当たりさえすれば勝利するのよ。このバッティング戦略はとても優秀なの。白鳥の湖やチェスト戦略もそれなりなんだけど、安定感が違うわ。ただこの戦略は基本的に待ちになるから同じ型同士だと戦闘が始まらなくなるんだけど」
確かに待ちとしては優秀な構えなのかもしれない。だがそんな消極的な剣術は実践で役に立たないような気がする。
互いにバッティングフォームで構え、お互いに手を出さない自分のコピーの画を思い、何とも言えない気分になった。
なんとなく、いや、確実にシエルはそのシュールな画を見て笑っているような確信がある
「……マジでお前の評価、地を這ってるからな」
「ひどっ!? 忠実に見守ってたのに〜!」
シン呆れたようにため息をついたが、すぐに話を切り替えた。
「さて……そろそろ行く。もう時間の余裕はない」
「ふむふむ。ヒグマ、倒せるようになったもんねぇ。じゃあ……」
不意に、シエルの口調が変わった。
軽いノリで、しかしどこか試すような視線を送ってくる。
「そんなに不安なら、非常事態用の特別装備、使ってみる?......。?」