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戦闘訓練

「……じゃあ次は...。そうだな、狼を一匹出してくれ」


シンは慎重に言葉を選んだ。

先ほどのヒグマはトラウマ級だった。さすがに次はもう少し、実戦的かつ現実的な相手がいい。


《了解♪》


白い空間がまた揺れる。

次の瞬間、数メートル先に現れたのは銀灰色の体毛をもつ一匹の狼。大きさはやや大きめの犬ほどだが、目つきと雰囲気はまさしく獣。油断すれば喉元に食らいつかれる、そんな本能的な警戒感を感じさせる存在だった。


「……さっきよりはマシだな」


刀を構え、前進する。

狼もまた低く唸り声を上げ、牙をむいた。だが――


バッ!


「っ……速い!」


視界から消えるように跳び退った狼は、十メートルほど先まで一気に距離を取った。シンの斬撃は虚しく空を切る。


「クソッ、逃げるのかよ……!」


近づけばあいても警戒しながら距離をとる。

これでは戦闘にならず訓練にならない。


「……シエル、行動範囲を制限できるか?」


《できるわ。移動範囲を、半径10メートルに設定するわね》


言葉と同時に、狼の周囲に淡く光る境界線が浮かぶ。どうやらその内側しか動けなくなるようだ。


「よし、これで……!」


再び突撃する悟。狼はまたもすばやく動いて回避するが、今度は逃げ切れない。とはいえ、そのスピードは変わらず、攻撃を当てるには至らない。


(……的が小さくて、動きも速い。捉えきれない)


一撃が決まれば倒せるかもしれない。だが、そもそも当たらないし当てられる気もしない。


(……操作魔法で動きを止められないか?)


試しに集中し、狼の足元に力を流す。魔力を腕のようなイメージで操作してを相手の足をつかんだ。

狼の動きがやや遅くなったような気はするが、それだけだった。


(ダメだ、せいぜい動きを鈍らせるくらいしかできない。妨害にはなるかもしれないが決定打にはならないな……)


結論として、狼は現状のシンにとって、非常に戦いづらい相手だった。

一度深呼吸をし、刀を下ろす。


「……倒すのは後だな。まずは基礎から鍛える」


斬撃の軌道、足の運び、重心移動。

基本に戻り、身体を作り直すことに決めた。

感覚だけで動いていたのでは、この世界で生き残れない。


ふと、思いついて質問を投げた。


「なあ……この世界に、剣術スキルとか、そういうものはないのか? いわゆる“スキル習得”みたいな」


《スキルの自動習得や能力補助機能はないと思うわ。戦闘技術は原則、身体的に実際に経験する必要があるんじゃないかしら》


「……つまり、地道にやれってことか」


コツコツ積み重ねるしかないらしい。


「ちなみに人間の剣士を用意して技を教えてもらったり組手をやったりはできないのか?」


「そうねえ。そもそも剣術自体私は知らない。そして知らないものは作れないのよ。」


「それはそうか。例えば素人でも剣士を2体用意して延々と戦闘を繰り返させたりして剣術みたいなものを生み出したりできないのか?」


囲碁や将棋のAIの学習として、似たようなことをやっているものもあると聞いたことがあった。


「そうねぇ。そういうことはできるけれど、シンがその技術を習得するにはその戦闘を繰り返す2体のうちの一人になるか、その2体のうちのどちらかと戦闘して習得するかになるわね。ちなみにそういう特殊環境で磨かれた技術は人間的にはマネできなかったり尖ったものになっている可能性もあるわよ。」


「そのあたりは複数の環境を用意したりしてどうにか...。まあ、これは確かに上手くいくかわからないから、可能ならってところだな。当面は地道に独学で進めていくしかない、か。」


(……とりあえず、一週間。まずはそこをリミットにしよう)


シミュレーション空間でなら、時間の感覚も自在に調整できる。現実の一週間を、二週間、三週間に引き伸ばせるかもしれない。


目標は――ヒグマ。おそらく地球上で最強クラスの生物を、倒せること。


「……やるしかない、か」


その時、ふと気がついた。

ずっと側にいたはずのシエルが、いない。


「……おーい、シエル?」


返事はない。

空間を見回すが、彼女の気配も姿もどこにも見えなかった。


(……いないのか。まあ、暇そうだったしな。もしかしたら剣術の開発をやってくれているのかもしれない、が、ただのさぼりという可能性もあるか)


軽く溜息をつき、肩をすくめる。


(……結局、頼れるのは自分の力だけだ)


そう思い直して、シンは刀を構えた。

振り下ろす。息を整える。姿勢を正す。


一振り、また一振り。

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