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例えば初期マップに魔王がいるようなもの

ステータスを見るとまさかのLv300越え。

あまりのありえなさに苦笑する。というか本当に意味が分からない。


一体何なんだ。実は主人公の街にラスボスがいたり、初めの街の近くに魔王城があったりとか、そういうシナリオなのに、本来はすぐにはいけないところをフラグ無視してたどり着いてしまったとでもいうのか。


本来ならありえないような気はするが、なにせスタートからフラグ管理が異常になっていてもおかしくないような状態である。

考えすぎか。だが、実はこの世界にはあるゲームの世界だったりすると、ある程度ストーリーがあって、というパターンもあり得る。


あるいは俺の転生に関わっている何者かによる意図なのか——。



いろいろ考えていたが、とりあえず一旦考えをまとめる。

俺は記憶を失っている。つまりゼロからのスタートというわけだ。


頼れるのは自分のみ。この先起こることが誰かの意図であれ、偶然であれ、それを乗り越えていくしかない。考えることが無駄とまではいわないが、結局答えが今出ることはないだろう。

だったら()()()()()()()得だろうと。


相手はLv300越え。シエルのこのステータス機能を完全に信用できるわけではないが、これまでの戦闘である程度信頼性はあると感じていた。


そうであればまともに戦闘して勝ち目は少ないだろう。

ここは何とか交渉してこの場を凌ぐのが最善か。


魔力から生まれた人型だったものはさらに輪郭をはっきりさせ、そして美しい女性になった。

髪は黒く美しく腰ほどまでに至るほど長い。瞳の色は黒く、そして高い知性を感じるようだ。

17、8くらいの年齢に見える。無表情ではあるが何とも人間離れした神々しさを感じる。


「この場に勝手に入り込んだことをお許しください。私はシンと言います。」


俺は片膝をつき頭を下げながら言った。


「——ふむ。勇者語か」

「勇者語?」

「過去に勇者が話していた言葉じゃな。二ホン語とも言うの」


目を伏せていたため表情はうかがい知れない。だが言葉が通じたのは助かった。


「そしてヒト族、と」

「ヒト族——?」


ヒト族?つまりそれは人以外の種族もいるということだろうか。であればこの女もヒト族なのか。

そもそも魔石から出てきたようにも見えた存在だからただの人間というわけではないだろう。


「ということは、お主、勇者なのか?」


どう答えるべきだろうか。確かセシルは俺を勇者だと言っていた。詳細は知らないようだったが。

であれば俺は勇者ではあるのだろうが、本来勇者としてあるべき姿からは離れているだろう。受けられるべきサポートがなく、覚えるはずだった魔法は使えず基礎しか使えないのだから。


そして相対している女。魔石から出てきた黒い魔力から現れた存在。

勇者の使命もわからないのだから敵か味方かもわからないが、黒い魔力というところから敵という可能性がある。


「ふん。まあ、そう緊張するな。別に勇者だったからといってお前を殺したりはせん。そもそも今の我にはそこまで力はないしの。とりあえず面を上げるがよい」


俺はゆっくりと視線を上げ、相手に目を合わせる。


「ふむ。度胸もありそうだ。ただのヒト族なら我の存在に恐れをなしてもおかしくはないからな。やはり勇者か?その割には天使の存在が見当たらぬが」


天使?シエルのことだろう。ということは勇者という存在は天使と共に在るのが普通ということか。

今は別行動しているから胡麻化すことは可能かもしれない。だが、この女は俺を普通のヒト族ではないと感じているのだろう。そもそも勇者語?を話しているのだから確信に近い。殺されないということならこれ以上隠し通すより、正直に事情を話してみるべきだろうか。


「ええ、実は自分は勇者として転生したらしいのですが、天使が天界と交信できないらしく、勇者としての力を得ていないのです。それに天使も拠点からあまり離れられないようで今は別行動をしています」


どうせ隠してもこの実力からいずれ話さざるを得ないかもしれない。そうであれば初めからある程度の情報を話した方がいいだろう。


「——。」


答えはしたが、反応はない。

こちらを探るような眼差しを向けられ、少し緊張する。なにせとんでもない美少女だ。嘘をついたわけではないから疚しいところはないのだが、じっと目を向けて見つめられていてはずっと見返しているのは気恥ずかしい。少し目を逸らしてしまう。


「——。それで、転生したといったが、いつ頃のことじゃ?」


「3週間くらい前です」


「——。」


相変わらずこちらを見つめ続ける。なんだろう。見ているだけで幸せになれるような美少女から見つめられるのは恥ずかしいがうれしくはある。だが、さすがにこの沈黙はつらくなってきた。


「ふふ。クックック。だははははははは!」


堪えていたのにこらえきれなくなって笑い出したのだろう。腹を抱えて笑い始める美少女。

笑い方は可愛くはないかもしれないが、可愛い。


「ふう、ふう。いやあ、本当に笑わせてくれるな。お主、勇者ではなく芸人ではないか?」

「いえ、たぶん普通の高校生だったと思います。実は記憶もなくしていて」

「ぷぷ。記憶も、記憶も無いだと!やめろやめろ、我を笑い殺す気か!?」


事実なんだが。

ツボに入ったのか、呼吸もつらそうにしばらく笑いながら、やっと落ち着きを見せる美少女。可愛い。


「はあ、はあ——。ふう。いやいや、こんなに笑ったのは初めてかもしれん。褒美をやるぞ!」

「褒美ですか。実は先立つものもないので、いただけるのであれば嬉しいですが」

「くく。まさか文無しとでもいうまい」

「いえ、じつは3週間前に転生してまだお金がないんです。価値あるものかわかりませんが、魔石くらいしか持ってません」


「ぷ、ぷ、ぷ——だははははははは!」


正直に話しているだけなのだが、なかなか話が進まない。でも可愛い。

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