表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色の英雄  作者: 夕凪
冒険の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

新たな始まり

 第四騎士団長ウディンルトが王の間を去った後、王城ペリディウスには重苦しい静寂が戻っていた。


 王はゆっくりと立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。眼下には王都が広がっている。活気ある市場、人々の往来、平和そうな日常。

 その光景を見つめながら、王は小さく呟いた。


「……愚かなものだ。平和とは、常に刃の上に成り立つものだというのに」


 王は再び玉座へ戻り、肘掛けに手を置いた。


「英雄が生まれれば、必ず民はそれに縋る。縋り、信じ、そして王を疑う。ならば――英雄など、循環させてしまえばよい」


 王の瞳には、もはや感情は宿っていなかった。あるのはただ、歪んだ確信だけだった。


 ◇◇◇


 一方、勇者たちは宝物庫へ到着した。目の前に広がる無数の武器に、勇者たちは沈黙した。


 ある者は目を輝かせながら武器を手に取った。

 ある者は震えたまま動かなかった。

 ある者は黒い笑みを浮かべて武器を吟味した。


 アルメルスはこの状況を「危うい」と感じた。そして、武器選びに熱中する勇者たちに一言告げた。


「これらの武具は、王国が誇る至宝だ。各々、自分に合ったものを選ぶがよい。ただし……」


 アルメルスは一拍置き、低い声で続けた。


「それを手にした瞬間から、お前たちは"勇者”だ。王国の剣であり、盾である。その自覚を忘れるな」


 勇者たちは互いに顔を見合わせた。拒否権など、最初から存在していない。


 ◇◇◇


 その頃、王都から遠く離れたリンドウ平原の丘の上。

 トラストンの屋敷へと戻ったイステルは、静かな庭に立っていた。


「…守りたい、か。」


 イステルは季節外れに咲く薔薇を見つめていた。薔薇は、ただ静かに風になびいていた。


 スモックは迷っていた。しかし、村を守りたいという確固たる目的はあった。それに比べてイステルは、空っぽだった。未だに自身の目的を把握できていない。


「…本当に迷っているのは、俺だったのか。」

「…考え事かの、イステル。」


 後ろからトラストンが現れた。イステルは一瞬振り向いたが、すぐにまた薔薇を見つめた。


「トラストン殿。王は……動いているのでしょうか」

「…あぁ。儂らが想像もつかぬことを進めているのだろう。時間は少ない。」


 トラストンはそう言って、重々しく息を吐いた。その声には、戦場を知る者の警戒が滲んでいた。


「おそらく王は、"英雄”という存在を必要としておる。だが同時に、恐れてもいる」

「恐れて……?」


 イステルが眉をひそめる。トラストンは庭の奥へと視線を向けた。


「民は英雄を称え、神のごとく崇める。やがてその視線は、玉座よりも高い場所へ向かう」

「……だから、排除する?」

「あるいは、使い潰す。あるいは、次の英雄で塗り替える」


 淡々と語られるその言葉に、イステルの胸がわずかに軋んだ。


 風が吹き、薔薇の花弁が一枚、地面へと落ちた。


「イステル、お主は問われておる」

「……何を、ですか」

「剣を振るう理由だ」


 トラストンはゆっくりとイステルの方を向いた。その眼差しは鋭く、しかしどこか哀しみを帯びている。


「守りたいと口にするのは容易い。だが、何を、誰を、どこまで守るのか。その答えを持たぬ剣は、いずれ自らを滅ぼす。」

「……俺は」


 言葉が続かなかった。頭の中には、王城で見た光景、スモックの迷い、アイスロンド集落に残してきた未練。それらでいっぱいだった。


「目的がないのではない」


 トラストンは静かに言った。


「お主はまだ、"選んでいない”だけだ」


 沈黙が二人を包む。遠くで鳥が羽ばたく音がした。


「王は動き出した。ならば、我らも動かねばならん」

「……何を、するのですか」


 トラストンは微かに笑った。その笑みは、優しさと覚悟が入り混じったものだった。


「誰もが笑える、そんな世界を作る。そのために――緋色の剣が、必要になる」


 その言葉に、イステルの胸奥で何かが、確かに目を覚ました気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ