王の思惑
やがて、召喚された勇者たちは王の前に集められた。勇者たちはまだ状況が呑み込めていない。状況が呑み込めていない勇者たちをよそに、アルメルスは王に報告を始めた。
「陛下、無事に勇者三十二名を召喚することに成功しました。」
「ご苦労だった。よくぞ来られた、勇者たちよ。」
王は勇者たちを歓迎した。しかし、勇者たちの反応はあまり良いものではなかった。王の話を聞かずに混乱する者、騎士たちに怯えている者、堂々としている者、様々いる。王はその様子を見て、警戒をさらに強めた。
「お前たちはこの国の危機を救うためにこの場に召喚された。この国は今、危機に瀕している。お前たちには、国を脅かす者を排除してもらう。」
「は?何言ってんだ、あのジジイ。」
一人の勇者が、そう呟いた。その瞬間、その勇者は一人の騎士に取り押さえられた。第三騎士団長 イフリール・ノヴァフェルノだった。
「その言葉は看過できんな。いくら客人とはいえ、陛下を侮辱することは許されん」
イフリールはハルバ―ドを勇者の首に近づけた。勇者は恐怖のあまり、とても小さな声で呟いた。
「す、すいませんでした…」
「…イフリール、よい。下がれ。」
イフリールは王の言葉を聞き、ハルバードを勇者の首から話した。勇者は恐怖のあまり、口元が小刻みに震えている。この状況を見て、他の勇者も恐怖した。この時、勇者たちには「逆らえば殺される」という共通認識が生まれた。
部屋に緊張が張り詰める中、王が再び口を開いた。
「この国には危機が迫っている。その危機とは、国の反逆者たちだ。かつて、彼らは私の良き配下であった。しかし、今は敵となってしまった。この国の平和を守るためにも、どうか協力してほしい。」
勇者たちは協力するしかなかった。この状況下で、断ることのできる者は、誰一人としていなかった。
「では勇者たちよ。宝物庫へ行くがよい。我が国最高峰の武器をお渡ししよう。」
勇者たちは一人残らず、アルメルスについて行った。今度は誰も話すことはなかった。アルメルスはこの状況に酷く安堵した。
王は勇者たちが部屋から出て行ったことを確認すると、第四騎士団長 ウディンルト・トワイラインを呼び出した。
「陛下、お呼びでしょうか。」
「…トワイライン、お前にはこの世界はどう見える?」
唐突な質問に、ウディンルトは困惑した。王はウディンルトが返答に困っている様子を見て、話を続けた。
「私は、この世界は不安定だと考える。」
「不安定…と言いますと?」
「…このマイティグレ大陸の長い歴史に、いつも刻まれているのは争いの歴史だ。オーレス、バグズ、エストリア、トルール。これらの国家で、争いの歴史を持たぬ国はない。他国への侵略、または国内での争い。実に、不安定だ。」
ウディンルトは理解に苦しんだ。王は一体何が言いたいのか。ウディンルトに緊張が走る。もし、自分が誤った返答をして王の機嫌を損ねてしまったらとんでもないことになってしまう。そう考えた。
「…そこで、私は【英雄循環理論】を考えた。どの時代でも邪魔な存在は英雄だ。英雄は民を扇動し、国家を滅亡に導く。私の考えた英雄循環理論はこうだ。生まれてしまった英雄を、別の新たな英雄によって殺させる。殺させた英雄を、また新たな英雄が殺す。この循環こそ、真の安定なのだ。」
ウディンルトは恐怖した。王のこの話にはちゃんと筋が通っている。しかし、言っていることはただの狂った思想の独裁者だ。否定したくても否定しきれない、何とも言えない感情が取り巻いている。
ウディンルトは、言葉を失ったまま跪いた。正しいか、間違っているか。そんな問いを挟む余地は、この場には存在しない。
「……ご命令は」
王は静かに、しかし迷いなく告げた。
「勇者の中から優れたものを見つけよ。その者をお前が徹底的に鍛え、あの忌々しい”英雄”を始末しろ。ある程度鍛えたら、ロシュエル遺跡群へと連れて行け。良い鍛錬になるだろう。」
ロシュエル遺跡群とは、かつて栄えた魔法文明、ロシュエル文明の遺跡だ。ロシュエルの魔法技術は現代文明を遥かに凌ぐものだったといわれている。
「しかし、なぜロシュエル遺跡群なのですか?」
「あの遺跡の調査を頼みたい。あそこには私が求めるものが必ずある。ロシュエルに関する書物を遺跡から持ち帰れ。必要であれば第四騎士団を使え。」
「…承知しました。」
ウディンルトは一礼をし、部屋を後にした。王はウディンルトが去った後、満足そうに、静かに笑った。部屋には、王の不気味な笑い声だけが響いた。




