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緋色の英雄  作者: 夕凪
冒険の始まり

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急襲

 それからイステルとトラストンは村を出た。不意に、トラストンは平原のある一点に目を向けた。そこには改造した馬車が数台、ものすごい速度でヘーゲン村へと向かっている。さらに、各馬車には数名の武装した男が乗っている。山賊だ。


「山賊か!ここにも出るとは。戻るぞ、イステル!」

「ええ、すぐに行きましょう。」


 イステルとトラストンは引き返した。この国の危険な部分は、国が放置している魔物だけではない。救済制度がないために、貧しい民が人から金品を奪う、山賊となってしまっている。これもまた、この国の犠牲者だ。


「金目の物をよこせ!女子供を人質にとれ!」


 山賊のリーダーらしき男が部下に命令した。部下たちは素早く村を包囲し、誰も逃げられないようにした。すぐに女性と子供たちが村の中央に集められた。この山賊は手慣れていると、イステルとトラストンは感じた。


「ちっ、何にもねぇな、この村は!」


 山賊のリーダーは家々の中を漁りながら怒鳴っている。村人たちに緊張が走る。


「そこまでじゃ!」


 トラストンが大きな声を上げて現れた。山賊全員の視線がトラストンへ向けられる。


「信頼の騎士…まだ生きてやがったか。老いぼれが。」

「その者たちを離せ。罪のない人を傷つけてはならん。」

「うるせぇ!!俺たちはこうでもしないと…明日を生きるための食事にもありつけねぇ!!」


 イステルは影からこの様子を見ていた。いつでも飛び出せるように、もう剣は抜いてある。機会をうかがい、いつ斬りかかるかを見計らっていた。


 その時、あの小屋の方から大量の白煙が流れ、辺りに立ち込めた。山賊は急なことで混乱し、狼狽えている。


 白煙が消えるころには、女性と子供たちが姿を消していた。人質が居なくなったことで、山賊たちは慌てだした。山賊のリーダーは剣を抜いて、大きな声で叫んだ。


「どうなってやがる!!畜生!!こうなったら全員ぶっ殺してやる!!」


 トラストンはすぐさま剣を抜いた。しかし、山賊のリーダーが剣を向けたのはトラストンではない。家の中にいる子供だった。一人だけ家の中に残ってしまっていた。子供は何が起きているのかがわからず、慌てているだけだった。


「死ねぇぇぇぇ!!」


 山賊の刃が子供に振り下ろされる前、鈍く銀色に光るものがそれを受け止めた。辺りには再び白煙が立ち込めた。


「…この村に手を出すな。」


 そこに現れたのはシルバ―――いや、スモックだった。スモックは子供に合図を送り、子供はトラストンの後ろへと逃げていった。


「だ、誰だ、テメェは!!」

「俺が誰かは誰でもいいだろう。お前…生きて帰れると思うな。」


 スモックの周りにはさらに濃い白煙が立ち込めていく。山賊のリーダーは恐怖のあまり情けない声を上げて後ろに向かって走っていった。刹那、山賊のリーダーは動かなくなった。白煙に隠れた鈍い銀色が、山賊のリーダーの体を貫いていた。


「お、お頭!」

「…次はお前たちだ。」


 スモックは白煙の中をすばやく移動し、山賊たちがこの環境に適応する前に斬りかかっていく。まともに戦闘訓練を受けていない連中が、この視界の悪い中で戦えるはずがなかった。山賊たちは次々に倒れていく。恐怖して逃げようとした者もいたが、数秒後には倒れていた。


 イステルとトラストンはこの状況に驚いていた。何よりも、スモックの剣技と戦闘経験に驚いた。一切の隙がなく盗賊に斬りかかる姿は歴戦の騎士を彷彿とせるほどである。


 観念した山賊たちは、とうとう降参した。武器を捨て、両手を上げて地面に座り込んだ。スモックはその様子を見て白煙を消した。イステルは剣を鞘に納め、小屋からロープを持ってきた。


「大人しくしろよ。そうすれば殺すことはない。」


 スモックはイステルからロープを受けとり、残った山賊たちを縛り上げた。山賊たちは抵抗することなかった。トラストンは他に怪我人がいないかどうかを確認し、村の中央へと戻ってきた。


「感謝するよ。貴方たちがいなければ、俺の対応が遅れてしまっていた。」


 スモックはイステルとトラストンに礼をした。トラストンは慣れた様子で返した。


「はっはっは、こういう展開は慣れておる。じゃが…ここに山賊が出るとはのう。」

「珍しいことではない。この国は、狂っている。彼らもまた被害者だ。」


 スモックはそう答えた後、死体を回収した。死体は村はずれの森に埋葬されることになった。


 スモックは村の入り口まで、イステルとトラストンを見送りに来た。トラストンは入り口を出る前に、スモックへ言った。


「スモック。お前もわかっているだろうが、この国はもう安全ではない。何かあれば儂の屋敷に来るといい。リンドウ平原の丘の上にある。」

「ありがとう。もしもの時は宛にさせてもらう。今回のことは本当に世話になった。…もし、また何かあったらこの村に来てくれ。その時は歓迎する。それと…」


 スモックはイステルの方を向き、右手でイステルの左肩に手を置いた。


「お前の言う通りだよ。俺は迷ってる。でも、この村を守りたい。それだけは、迷ってない。」

「…そうか。それが迷ってなければいい。」


 イステルがそう返すと、スモックは少しだけ笑みをこぼし、スモックは手を振って二人を見送った。


「…いい奴ら、だったな。」

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