シルバとスモック
翌日、トラストンとイステルはヘーゲン村へやってきた。トラストンの家にある馬車を使うことで容易に到着することができた。
「すまんのう、来たばかりなのに。」
「いえ、急ぐ用事はないので。」
ヘーゲン村は賑わっていた。子供が多く、大人も子供も畑仕事を行っている。へーゲン村では野菜が有名で、遠くの地域でも売られていることがある。
早速、イステル達はへーゲン村で聞き込みを始めた。しかし、誰に尋ねても、「スモックという人物を知らない」という返答だった。
「おかしいのう…スモックはここにいるはずじゃ。」
「おじちゃん、見ない顔だね。なにしてるの?」
トラストンは横から聞こえる幼い声の方を向いた。そこには幼い女の子がトラストンを珍しそうに見つめていた。
「こんにちは。おじちゃんはね、人を探してるんじゃ。スモック・モクタインという人を知らないかな?」
「すもっく?知らないよ。」
この女の子も知らなかった。トラストンはため息をつき、次の家に聞き込みに行こうとした。イステルはあることを考え、女の子に質問した。
「すまない。この村に鎧を着た男はいないか?」
「いるよ!シルバお兄ちゃんがいる。」
「シルバお兄ちゃん?」
トラストンが足を止めて女の子の話を聞き始めると、女の子はシルバという男について話し始めた。
「シルバお兄ちゃんはね、王国騎士なんだ。この村を悪い人や、まものから守ってくれるんだよ!」
「そうか。そのお兄ちゃんはどこにいるかわかるかい?」
「村の外れの小屋だよ!」
「ありがとう。」
イステルとトラストンは女の子にお礼を言ってその場を後にした。そして、外れの小屋へと向かった。道中、イステルとトラストンはシルバという男の話をした。
「トラストン殿、シルバという男は…」
「儂も知らん。そんな王国騎士は聞いたことがない。」
小屋へ向かう途中、突如として悲鳴が聞こえてきた。イステルとトラストンは顔を見合わせ、すぐに悲鳴の元へと向かった。
悲鳴の先にあったのは、フォレストボアに襲われている子供だった。子供が木の根に躓き、転んでしまった。トラストンは迷わず剣を抜き、子供の元へと走っていく。
イステルが剣に手を掛けた時、突然、辺りにうっすらと白煙が広がった。白煙の中から現れたのは一人の騎士だった。
その騎士は素早くフォレストボアに斬りかかる。騎士の剣が銀光を描き、突進してきたフォレストボアの牙を受け流す。
次の瞬間、低く鋭い一閃が獣の首元を裂いた。フォレストボアはその場に崩れ落ちた。トラストンは驚きのあまり、数秒固まってしまった。
「シルバお兄ちゃん!」
「みんな、無事だったか。」
シルバと呼ばれた騎士は子供たちの安全を確保すると、すぐに家に帰るように促した。子供たちの姿が見えなくなると、再び煙の中へと消えてしまった。白煙は風に逆らうように漂っていた。
「トラストン殿…あれは一体」
「どうやら、この小屋の中に真実があるようじゃな。」
トラストンは小屋の扉を叩いた。一分後、扉はゆっくりと開き、先程とは違った鎧を身に纏った男が現れた。
「…何用だ。」
「儂はトラストン。信頼の騎士と呼ばれている。ここにシルバという者がいると聞いた。貴方か?」
「…!!信頼の騎士…」
シルバは扉を開け、二人を小屋に入れた。小屋は一人で生活するのにギリギリの広さだった。
「先程の戦い、拝見した。素晴らしい剣さばきだったな。あの幻術も。」
「…!?俺は幻術は使って…!?」
「ははは、ただカマをかけただけじゃよ。やはりお前がスモックじゃな。名を隠しておったか。」
シルバは観念し、幻術を解いた。自身がスモックであることを認めざるを得なかった。スモックの周りに煙がたち、本来の鎧があらわになった。
「…ここではなく、外で話したい。」
スモックはそう言った。三人は移動し、子供たちの遊び場がよく見える丘の上に来た。トラストンとスモックは地面に腰を下ろし、話を続けた。
「どうして、村の皆に正体を隠しているのだ。」
「…俺の正体がバレたら王国の連中が俺を探しに来る。村の連中を、危険に晒したくはないんだ。」
スモックは王国騎士を引退してからこの村へとやってきた。この村の人々のあたたかさはとても居心地が良く、この村に滞在することに決めた。
しかし、自身が王国騎士を引退した身であると知れ渡れば、何かと不都合が起きてしまう。この村の人々を危険に晒す訳にはいかず、最初から偽名を名乗っていた。
「俺の幻術は俺自身にもかけることができる。【銀光の騎士 シルバ】と名乗っていた。こうすることで王国の目を騙しながら、この村で生活をしていた。」
「なるほどのう。お前の考えはよくわかったわい。」
「で…信頼の騎士殿。貴方はなぜ、俺を探している?」
「うむ…単刀直入に言おう。スモック、儂らに協力して欲しい。共にこの国を変える気はないか。」
「それは……無い。」
スモックは少し困ったように返答した。トラストンは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔付きになった。
「お前がいてくれたら確実にこの国を変えることができる。頼む、この通りだ。」
トラストンは立ち上がり、深々と頭を下げた。その姿を見て、スモックは迷惑そうな表情をした。
「悪いが、俺は普通に暮らしたいんだ。組織も、騎士も、王ももううんざりなんだ。俺はこの村で暮らしたい。それだけさ。」
スモックはそう言って立ち去ろうとした。イステルはその後ろ姿がパルリオンと似ていることに気づいた。スモックもパルリオンと同じ、迷いが背に現れていた。
「スモック、迷っているのか。」
「…は?」
スモックは立ち止まり、イステルの方を振り返った。
「お前の姿からは迷いを感じた。迷っているんじゃないのか。」
「誰が…俺は平和に暮らしたいだけなんだ。もう放っておいてくれ。」
スモックはそう言い残し、小屋へと走り去ってしまった。丘の下からは子供たちが遊ぶ声が聞こえる。トラストンは大きなため息を着いて村の出口へと向かった。イステルもスモックの後ろ姿をしばらく見た後で、トラストンを追いかけた。




