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緋色の英雄  作者: 若葉
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酒は要らん。

 モーラとの会話を終え、イステルはオークの群れの討伐依頼を受けた。今回の依頼はアイスロンド集落からのもので、近隣に小規模ではあるがオークの群れがやってきたというものだ。オークとは人の姿をした豚のような魔物で、基本的には雑食である。畑の作物を襲うことはもちろん、場合によっては人を食べることもある。そのため、危険度からBランクとされている。一体だけではそこまでの強さはないが、オークは常に集団で行動するため、通常は複数人で討伐することとなっている。


 イステルは雪の山に身を隠しながらオークを観察していた。全部で十六匹いる。オーク達は既に建物のようなものを建てており、焚き火を囲んでいる。厄介なことに、弓を持つオークが見張りをしている。イステルは傍に落ちている岩をオーク目掛けて投げ、直ぐに反対方向の雪の山に隠れた。


「フグッ!!フゴォ!!フゴォ!!」


 頭に石が直撃したオークが大声を上げている。他のオーク達も異変に気づき、それぞれが武器を持って先程の雪の山の方へと進んでいく。棍棒や剣、盾を持った十匹のオークが雪の山へと近づき、雪の山を叩き始めた。


「……今だな。」


 オーク達が雪の山に注目した瞬間、イステルが建物に向かって走る。異変に気づいた見張りのオークが叫ぶも、雪の山を見に行ったオーク達には聞こえなかった。見張りのオークは弓を構え、イステル目掛けて矢を放った。


 イステルは放たれた矢を剣で撃ち落としていく。これはオークの持つ弓が粗末なものだったからこそできる芸当である。弦がそこまで固くなく、威力は低い。まともに受ければ怪我をするが、イステルが撃ち落とすには容易な速度であった。


 イステルは直ぐに見張りのオークを斬った。続いて建物にいるオークを次々に斬っていった。これで、六匹を仕留めることに成功した。


「……さて。残りはあれか。」


 ようやく異変に気づいたオークたちが走ってイステルの元へと向かう。イステルは見張りのオークが持っていた弓矢を拾い、オーク目掛けて矢を放った。


 イステルの狙いは正確で、五本の矢が全て頭部に命中した。五匹のオークが即死し、残りが五匹となった。


「これなら良いだろう。」


 イステルは再び緋色の剣を抜き、オークに目掛けて走って行く。オークは棍棒と盾を持った者だけが残っていた。イステルは厄介と感じた弓を持ったオークを始末し、剣を持ったオークをも始末した。こうして動きの遅い棍棒を持ったオークと、守ることしか出来ない盾を持ったオークのみが残ったのである。全て、イステルの読み通りの結果となった。


「フッ……ハァ!!」


 イステルは軽々と棍棒を交わし、オークを仕留めていく。残ったのは盾を持ったオークが二体。これも容易く仕留めた。盾が木製だったため、そのまま両断することができた。


 こうして、イステルはオークの群れを討伐した。オークの耳を取り、討伐の証拠とした。証拠がなければギルドは報酬を支払うことが出来ないため、ある意味冒険者にとって最重要な作業だと言える。


「十五……十六。これで全てだ。仕留め損ねたヤツはない。さて、こいつらは何を持っているのか。」


 イステルは建物の中を回った。あるのは生肉やボロボロの武具、そして魔物の死骸であった。


「特にこれといった収穫物は無しか。」


 イステルは溜息をつき、そのままアイスロンド集落へ歩き出した。


 ◇◇◇


 ギルドはまたしても騒がしくなった。イステルが一日で二件ものBランク依頼をこなしてみせたからだ。ストックはオークの耳をモーラに渡すイステルを一切見ることなく、ビールを更に二杯追加注文していた。


「依頼お疲れ様でした。イステルさんは本当に凄いですね。アイスロンド集落からも評判がいいんですよ。ギルドの上層部の方々は、正式に契約することも考えいるそうです。」


 冒険者ギルドアイスロンド支部は、イステルと契約することを考えていた。ギルドは特に成績の良い冒険者と契約をすることで、依頼を優先的に受けさせる制度がある。その変わり、契約をした冒険者は指定された回数ギルドの依頼を受けなくてはならない。これは、ギルドがどうしても解決しなくてはならない問題が起きた場合に課せられる強制依頼というものである。


「遠慮しておこう。俺はただの冒険者だ。自由に依頼を受けることが性に合っている。」


 イステルは報酬を受けとり、きっぱりと断った。受け取った袋には金貨が十枚入っていた。本来ならばこの依頼は金貨八枚が相応だが、イステルの日頃の貢献度、そして、誰も受け無くて困っていた依頼を受けたため、報酬が上乗せされていた。


 全世界共通の貨幣は銅貨、銀貨、金貨である。銅貨三枚程度でリンゴが買え、銀貨が四十枚あればそれなりの防具が揃えられる。金貨が百枚あれば、土地を買って小さな畑を作ることが出来る。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚となっている。


「そうですか……でも、ちゃんと考えてくださいね?契約をすれば、安定した収入が得られるんですから……」

「あぁ。ありがとう。気が向いたら相談に来よう。」


 気がつくと、太陽がオレンジ色から赤色へと変わっていた。当たりが少しづつ暗くなっていき、ギルドの職員達が照明を付け始めた。アイスロンド支部のギルドは地方の割には設備が整っていて、魔道具の照明を使っている。魔道具とは簡単に言えば魔法の力を込めた道具のことである。術式を道具に刻み、魔力を流すことで魔法が発動する仕組みとなっている。この照明には光の術式が刻まれており、魔力を流すことで光るのである。


「もうこんな時間だな。今日は一番冷え込むだろう。風邪を引かないようにな。それじゃあ、俺は宿へ戻るとしよう。」

「お疲れ様でした!ちゃんと休んでくださいねー!!」


 モーラはイステルが見えなくなるまで見送った。イステルは暗闇の中、アイスロンド集落でいちばん安い宿、『雪降りの小屋』という宿に向かった。イステルは自分の家を持っておらず、このアイスロンド集落に来てから宿を借り続けている。もう半年以上借りているため、宿の主からはお得意様扱いをされている。


 宿の着くと、宿の主であるモーガンが新聞を読んでいた。イステルに気づき、いつも通りの笑顔で迎えた。


「おぉ、お疲れさん。今日も稼げたかい。」

「えぇ。それなりには。そうだ、これ、来月の分です。納めてください。」


 イステルが金貨三枚を渡そうとすると、モーガンは二枚だけを受け取った。


「一枚はオマケだ。あんたのお陰でうちの店は儲かってるからな。それに、あんたが依頼を受けてくれるお陰でこの集落には危険な魔物が近寄らないんだ。これは俺からの気持ちだ。」

「はは、いつもすみません。」


 モーガンと話をしていると、宿の二階から人が降りてきた。それはストックである。ストックもこの宿を愛用していた。ストックも他の街からやってきて、家を建てるための資金が溜まるまでこの宿を使っているのだ。


「あぁ……なんだ。もう帰ってきやがったのか……ヒック。」

「……帰ってきていたのか。」

「あぁ?そうだよ。お前が嬢ちゃんと話をしてる間にビール飲んで帰ってきたわ。」


 ストックはかなり酔っている様子である。この時のストックは面倒くさい性格で、自身が気の済むまで、もしくは酔い潰れて寝るまでしゃべり続けるのである。モーガンも似たいような性格なため、暇になると二人で椅子に座って酒を飲むことがよくある。


「おい、イステル。お前もたまには酒を飲んだらどうだ?今なら特別にこのワイン分けてやってもいいぜ?」

「……酒は要らん。」

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